表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
23/43

第23話 負けドラゴン、2人を乗せて空を飛ぶ

「『……えー、まず我の名はヒュードラン。栄えあるドラゴン族の末裔である』」


 ドラゴンは後ろ脚を折り畳み、器用に正座してそう言った。

 目の前には『女神の嵐の聖剣』を地面に突き刺し、腕組みをしている俺。


「お前の名前なんてどうでもいい。次!」

「『はい……』」

「もー」


 ドラゴンはうな垂れ、そんな俺たちのやり取りを見て、アスティは呆れ顔。


「『我の主人は人間――深淵の魔術師と呼ばれる男だ』」

「深淵の……」

「……魔術師?」


 俺は眉を寄せ、アスティと顔を見合わせる。

 なんとなく聞き覚えのある通り名だったからだ。


「っていうかお前、人間に飼われてるのか。ドラゴンのくせに」

「『ぐぬう、痛いところを……っ。我とて好きで契約したわけではない』」


 本人曰く、ヒュードランはそもそも野生のドラゴンだったらしい。しかしある時、その深淵の魔術師の罠に掛かり、強制的に契約を結ばされてしまった。


「『これが忌々しい契約の紋だ』」


 ヒュードランの腹には確かに魔術的な紋様が浮かんでいる。


「『主の目的は清き乙女を幾人も集めること。我はその担い手として契約させられた。人間共を襲い、主が満足する数の乙女を集めれば、契約が切れて晴れて自由の身になれる』」

「それで北の街道で暴れてたってわけか」

「深淵の魔術師は女の子たちを集めてどうするつもりなの?」

「『わからん。だが主は何らかの魔術的儀式を行うつもりだ。捕えた娘たちを贄としてな』

「そんな、贄だなんて……」


 アスティが表情を曇らせる。

 一歩間違えたらアスティがその贄になっていたかと思うと、俺としてはハラワタが煮えくり返る思いだ。


「『な、なぜ我を射殺さんばかりの目で睨むのだ!?』」

「睨んでねえよ。元からこういう目だ」

「『絶対違うだろ!? 明らかに剣の柄をニギニギしてるではないか!? 斬るのか!? 我を斬るつもりなのか!?』」


 ったく、と吐息をもらし、俺はアスティの方を向く。


「深淵の魔術師って聞いたことあるよな?」

「うん。確か……王国の魔術同盟を追放された人だっけ」


 冒険者たちに冒険者ギルドがあるように、魔術師たちには魔術同盟がある。王宮に仕える宮廷魔術師も魔術同盟から排出されるので、城とは何かと懇意の仲だ。当然、同盟内部の情報も自然に伝わってくる。


 深淵の魔術師といえば、確か何年か前に生贄を多用した違法な魔術実験を行い、追放された魔術師だったはずだ。


「悪の魔術師が追放されてもまだ怪しい魔術をやろうとして、人さらいをしてるってわけか」

「『我以外にも主の使い魔とされたモンスターはいる。すでに幾人もの乙女が主の工房に集められているはずだ』」

「レオ、だったら……っ」

「ああ」


 アスティの言葉に俺は大きくうなづいた。


「その人たちを助けにいこう。――ドラゴン、魔術師の工房まで案内しろ」

「『なぁっ!?』」


 ブレスでも吐きそうな勢いでヒュードランは仰け反った。


「『しょ、正気か!? 我以外にもモンスターがいると言っただろう!?』」

「ああ、言ってたな」

「『いいか?』」


 ヒュードランは脂汗を流してシリアスな顔をする。


「『主を守護するは最強の六体の使い魔! 貴様ら人間の尺度で言えば、我を含めて六体すべてがS級だ! 主の工房には残り五体のS級モンスターがひしめいているのだぞ!?』」

「へー」

「『へー!?』」

「言っちゃなんだけど」


 俺は地面に刺さった『女神の嵐の聖剣』を引き抜く。


「意味あるのか、それ?」

「『…………おおう』」


 聖剣。

 俺。

 正座させられている自分。


 それらを順に見て、ヒュードランはがっくりした。


「『確かに……魔王相手では勝てる気がしない』」

「魔王じゃないっての」


 ヒュードランに伏せの姿勢を取らせ、俺とアスティはその背中に乗った。城の馬にはよく乗ってるけど、ドラゴンの背に乗ったのはさすがに初めてだ。ヤバい、ちょっと楽しいかもしれない。


「あ、レオがちょっとワクワクっとしてる」

「いやいやしてねえし!」

「ほんとー?」

「本当だって」

「ならいいけど……よっと」

「――っ!?」


 アスティが後ろから腰に手を回してきた。や、うん、飛んだら危ないし、正しい行動だな、うん。


「えっちな期待とかしたらダメだからね?」

「し、しねえですし!」

「絶対だよー? ……んー、それにしてもレオの背中、大きいね」

「ちょ……っ」


 不意打ちで背中をぺたぺたと触られ、心臓が跳ね上がってしまった。期待するなとか言いながら、なんでこういうところは無防備なんだよ!?


「『あのー、我の背中で逢瀬を重ねないでほしいのだが……』」

「か、重ねてねえし! ほら飛べ、ドラゴン! 向かう先は深淵の魔術師の工房だ」

「よろしくね、ヒューちゃんっ」

「『ヒュ、ヒューちゃん? それは我のことか?』」

「うん! ヒュードランだからヒューちゃん。可愛いでしょ?」

「『まったく……我を恐れなかったり、我を打ち落とすほどに強大だったり、かと思えば親しげに接してきたり……面白い人間共だ』」


 バサァッと大きな翼がはためいた。


「『良かろう! ならば深淵なる工房へと連れていってやる。我が主を見事討ち果たしてみせるがいい!』」

「おお、飛んだっ」

「わーっ、すごーい!」


 土煙を上げ、ドラゴンの巨体が空へと飛び立つ。

 かくして俺たちは諸悪の根源たる、魔術師の工房へと向かうのだった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ