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第18話 酒場にて、ドラゴン退治の誘いを受ける

 はてさて、今日の俺は城下町の酒場にいる。

 そこで常連たちと世間話をしていると、別の顔見知りから声を掛けられた。


「おーい、リック。ここにいたのか。捜してたんだよ」


 城下町では王家の身分を隠し、フリーの冒険者リック・フェリスを名乗っている。今声を掛けてきたのは冒険者ギルドに所属する、トム。俺とはだいたい同年代ぐらいだ。


「今日は美人の彼女と一緒じゃないのか?」


 グラスを片手に持ち、トムが正面に座った。

 俺はなんとも言えない顔になる。


「アスティは彼女じゃない。アプローチしてる最中だって以前(まえ)に言ったろ?」

「あー、そうだったそうだった」


 以前、アスティと初めて一緒に城下町にきた時のこと。顔見知りとばったり会ってそんな会話をしたのだが、その時の相手がこのトムである。


「それで? アプローチして進展はあったん?」

「あー……あったような、なかったような……」


 キスはした。でも建前としては俺が強引にしたという形で、正式にアスティの了承を得たわけじゃない。それにあれ以来、これといった変化もない。


 まあ代わりにというかなんと言うか、ミーアが来てくれるようになったおかげで妙な空気にはならなくなってきた。それが良いのかも微妙なところだけどな……。


「おー、おー、思い悩んでんなぁ、若者よ」

「トムも俺とそう歳は変わんないだろ」


 ちなみにアスティは今、教会で仕事中だ。

 俺とはこの後、合流する予定なんだが『レオを一人にしとくとまた何するか分からないから、あたしが行くまで大人しくしててね』と言われ、こうして酒場で大人しく待ってる次第である。


「で? わざわざ俺を捜してたってことは、何か用があるんだろ?」

「あー、そうだそうだ。リックを誘おうと思ってたんだわ。ちょっと仕事をしないか?」

「仕事?」

「そ。冒険者ギルドの仕事」


 トムはギルドに所属している、正規の冒険者だ。

 一方、俺はフリーの冒険者を名乗っているので、もちろんどこにも所属していない。


 仕事というのはトムの冒険者ギルドの依頼らしい。


「とにかく人手が必要なんだ。だから他の冒険者ギルドはもちろんフリーの奴らにも声を掛けてるってわけ」

「ずいぶん大がかりなんだな。どっかのダンジョン探索でもするのか?」

「だったら気が楽なんだけどさ……討伐任務だ。北の街道沿いにモンスターが出た」

「……」


 俺はグラスをテーブルに置き、座り直す。


「詳しく聞かせてくれ」

「最初の遭遇は2日前。商人たちの一団が襲われた。ゴブリン程度ならいつものことだが、今回は――ドラゴンだ。しかも人語を介するらしい。おそらく討伐難度はS級。ちょっとシャレにならない相手だ」


 ドラゴンは魔獣のなかでも最上位種とされている。

 しかも言葉を話すとすれば、長い年月を生きた、強大な個体だ。S級となると国の騎士団が出動するレベルである。


 俺は短く息をはき、腕を組んだ。


 S級のドラゴンが出たなんて話は、俺の耳にはまだ届いてなかった。しかしこれは往々にしてよくあることだ。国の内外で問題が起きた時、王宮に情報が伝わるまでどうしても時間が掛かる。最初に対処するのは城下町の力ある人々だ。俺がよく城下町に出てるのもこういうことがあるからだ。


「今朝、旅の連中がまた北の街道で襲われたらしい。幸い、まだ死人は出てないが、それも時間の問題だ。だから王都のギルドで結託して対処に乗り出すことにした」

「城へ協力の要請はしたのか? 相手が本当にS級ドラゴンならフェリックス騎士団が出るべき案件だぞ」

「残念ながらまだ正式にドラゴンの姿を確認したわけじゃねえからさ。だからまずはギルドのメンバーで斥候しなきゃいけねえのよ」

「なるほど……」


 騎士団に協力を要請するにしても手順は必要になる。被害者の証言だけではなく、ギルド自体でドラゴンの出現を確認しないといけない。


 戦力でいえば、冒険者ギルドよりもフェリックス騎士団の方が圧倒的に上だ。本来ならば騎士団に丸投げしたいところだろうが、それはギルドの立場や矜持から出来ないのだろう。


 国を守るのは騎士団の責務だが、ギルドはギルドで依頼という形で人々の暮らしを守っている面がある。そこまで険悪ではないが、微妙に対立構造があるので難しいところだ。


「わかった。俺もドラゴン討伐に参加する」

「おお、助かる! リックは意外に腕が立つってよく聞くからさ。期待してる」

「任せといてくれ。あとはそうだな……城の四大聖騎士にも声掛けとくわ」

「ん? え? なんだって?」

「確かセリア辺りが防衛任務から帰ってきたばかりで暇してるはずだから、言えば来てくれると思う。騎士団としてじゃなく、あくまでプライベートな参加だったら角も立ちにくいだろうし、なんなら偽名を名乗らせてもいい」


 ひょっとしたら俺一人でS級ドラゴンを倒せるかもしれないが、何かあった時にギルドの冒険者たちを守ってくれる人員がほしい。その点、セリアなら大丈夫だろう。


「や、え、四大聖騎士のセリアって……あの『雷帝のセリア』?」

「? ああ、そうだけど」

「なんでリックが『雷帝のセリア』と知り合いなん?」

「あっ」


 しまった。

 考えるのに集中し過ぎて、フリーの冒険者という設定を忘れてた。


「いや実はっ、以前(まえ)にクエストやった時に偶然知り合ったんだよ!」

「王国守護の要の四大聖騎士と偶然知り合うクエストってなんだ? それもうS級ドラゴンが出てくるレベルのクエストじゃね?」

「えーと、あー、まあとにかく呼んどくからさ! 一応、他の冒険者にはフリーの奴が2人来るとだけ伝えといてくれ! 頼む! な? な?」


 そう言って、なんとかゴリ押しで納得してもらった。



              ◇ ◆ ◆ ◇



「ドラゴンの討伐ぅ!? なんでちょっと目を離すと、そういうとんでもないことになっちゃうのーっ!?」


 アスティと合流して一連のことを報告すると、素っ頓狂な声で叫ばれてしまった。ちなみに神官見習いが酒場にいるのはあまりよろしくないので、今は城下町の広場にいる。


「まあほら、さすがに放っておくことは出来ないじゃないか。ドラゴン相手じゃ、下手したらかなりの被害が出かねないし……」

「それはそうだけど……」

「だからセリアも呼ぼうと思って」

「セリアさん?」


 アスティは子供の頃から城に出入りしているので、四大聖騎士とも当然面識がある。


「セリアさんてすごく美人だよね? それにたぶんレオのこと……」

「討伐の決行は明日の朝だ。さすがに危ないからアスティは城にいてくれ。……アスティ? 聞いてるか? おーい」

「レオは他の子には興味ないって言ってたけど、でもでも、うぅー……っ」

「アスティ? おいってば」

「うん、決めた。あたしもいく!」

「は?」

「そのドラゴン退治、あたしも一緒にいくから!」

「はあ!?」


 まさかの宣言に俺は目を剥く。一方、アスティはなぜだか妙に前のめりで、テコでも動きそうにない決意に満ち満ちていた。

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