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航海日誌 『掃除は新入りでもできる仕事よ!』


「な、なあ。ところでリーネ出航って言ってもどこに行くんだ? それに何時出航するんだ、明日とか?」 

 

 いや、さすがに明日は早すぎるな。昨日着船したばからなんだし最低限でも三日から四日ぐらいは日付を空けるだろう。まあ、俺に船の知識なんかないんだが…


 でも流石に勢い余って『出航するわ!』と言ってしまっただけに違いない。だってそうじゃないとおかしい。


「ああ、目的地はイナミ村という場所よ。そして出航は今からするわ!」


「今から!?」


 昨日着船してもう出航するのか? いくらなんでも無理なんじゃないのか? 


 そんな俺の疑問をすべて燃えるような赤い瞳が飲み込んでしまった。リーネの前では不可能と思えるすべての事象が可能に思える。そんな勢いがある。


「そうよ。今からよ。そこであなたに任せたい最初の仕事があるんだけど……あ、ちょ、ちょっと待ってて、私の部屋の航海日誌を読んでくるから!」


 そういうと船首から走って船尾の方に消えてしまった。

 いや、本当にもう出航するのか? まだ何も準備をしていないんだけど?


 そんな俺を無視して船はリーネの意志を反映したかのように着々と準備を進めている。気のせいか錨のあがる音が聞こえてきた。


「仕方ありませんよ、ジン君。ああなってしまったリーネは止まりません」


 さっきまで階段下から俺とリーネのやり取りを盗み聞きしていたアリアさんがそんなことを言ってきた。


「結局、お兄さんも海賊になったんですね」


「まあ、ボクはジン君なら仲間になると思っていましたがね」


 あたふたと事の成り行きを見守っていたレインちゃんと刀の手入れが終わったのか鞘に刀身を納めたヒビキがいつの間にか隣にいた。そして――


「よぉ、男を見せたなジン」


 ニタニタと茶化すような笑みを浮かべて、瓢箪の中に入っている酒を飲みながらやってきた。


「うるせぇよ。茶化すんじゃない!」


「まあ酒でも飲んで落ち着けって、それにほら自分で選べたろ?」


「未成年だって、酒なんて飲まないよ」


 瓢箪を押し付けてくるシュテンに瓢箪を押し返す。かなり力が強いが本気で押し返していると「なんだよ。頭の固い奴だなぁ」と言い瓢箪を腰に戻した。


「それよりも、リーネはどこに行ったんだ? 航海日誌なんて何の意味があるんだ?」


 航海日誌って俺の知識が正しいなら船舶の運航を記録にした日誌だよな? それに一体何が書いてあるんだ?

 

 そんなことを考えているとアリアさんがゆっくりと口を開いた。


「昨日、ジン君が仲間になったらと航海日誌にいろいろと書き込んでいたんですよ。私たちの仲間になる人は久しぶりなので、遅くまで考え込んでいたようです。ですので、できたら付き合ってあげて下さい」


「それは構いませんが……」


 俺にできる仕事ってなんだろう。はっきり言ってしまえば俺が役に立つ想像ができない。シュテンはリーネの親父と同じ行動をしたと言っていたが、俺がその人と同じ仕事ができるわけじゃない。


「まあ、リーネが新入りに無理をさせるなんて考えられませんのでそこまで不安に思わなくても大丈夫ですよ」


「ええ、そうよ。ジンにもできることを考えたわ!」


 走ったせいかすこし息が荒くなったリーネが戻ってきた。

 分厚い本のようなものを持っているが、たぶんあれが航海日誌なんだろう。

 

「……それで、リーネ。俺の仕事ってなんだよ?」


 そう口にした俺にリーネは航海日誌をペラペラと音を立てて捲る。分厚いだけあって、目当てのページにたどり着くのも一苦労のようだ。栞はないんだろうか……


 そこでページを捲る音がなくなった。目当てのページを見つけたのだろう。リーネの赤い瞳が航海日誌から俺の顔に顔を上げた。


「ふん、聞いて驚きなさい。あなたの初めての仕事は――」


 そこまで言うとリーネは一度呼吸を整える。


「あなたの仕事は甲板の掃除よ!!」


 あ、普通だ。たぶん誰にでもできる仕事だ。まあ、誰かがしなければならない仕事だから不満はない。ただあれだけ焦らされてお前の仕事は掃除だと伝えられるとすこしだけガッカリする。


「それと今日から航海日誌をつけてもらうわ」


「航海日誌?」


「そうよ。まあ、最初は今日起きた出来事でも書いてくれたらいいから。詳しいことは後でアリアに習いなさい!」


 いきなりリーネから無茶ぶりをされて大丈夫だろうか?


 そう思いアリアさんの方に顔を向けると優しく微笑んでいるのが分かった。ああ、この人はリーネに慣れているんだな……


「まあ、それは置いといてまずは掃除よ!! みんなで掃除するわよ!!」


 そういうとどこからかモップを出してきた。

 リーネに、アリアさんに、レインちゃんに、シュテン、ヒビキに、俺の六人分のモップを出してきたのだ。


 どんな手品だよと呆れた顔をリーネに向けると、本人ははじけるような笑顔でこういった。


「きっちりとみんなで教えてあげるから、覚悟しなさいよ、ジン!」


 こうして俺の初めての仕事はみんなで掃除をすることに決まった。取りあえず今日の航海日誌にはそう書こう。


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