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第七十七話 『暗涙』


 ワープ現象を引き起こす、あの光が発生する少し前。人喰い迷宮の第三階層では、ミノタウロスとシュテンが激しく衝突していた。迷宮内に血飛沫と咆哮が飛び交う中、両者の間でも荒れ狂うような激闘が繰り広げられていた。


「はぁ、はぁ……ッ、クッソたれ!」

 

 シュテンは肩で息をしながら、右手に持っている丈夫な棍棒を握り締めた。睨み合う両者は共に筋骨隆々で巨大な体躯をしている。それに加えて、シュテンは鬼だ。リーネの父に誘われて海賊になる前は、獄卒の中ではエリートだった。彼も鬼族の中では武勇にも知略にも優れていると自負している。実際、誰にも引けは取らないはずだ。だが、もう一度言うが、あくまで鬼族の中ではだ。だからこそ、今まで単純な力勝負では負けたことがないし、そもそも負ける気もなかった。


 だが、問題は体格差だった。


 ミノタウロスは、身の丈が六メートルを優に超えているうえ、全身が岩のような筋肉で覆われていた。身長だけでもシュテンの三倍以上はある。その一撃は、迷宮全体を揺らすかのような衝撃を生む。何度も、何度も、ミノタウロスの巨大な拳を受け止めていた右腕が、ついに痺れ始めていた。


「……あいつらは、もう、逃げ切れたのか?」


 そう呟くと、シュテンは後方をチラリと確認した。もう何分前の出来事だったかも定かではない。だが、こんなことになったのは、ミノタウロスと遭遇した際に、シュテンが自らの意志で殿を務めると決断したからだ。迷宮内で出会った新入り(あいつら)たちが逃げ切れるようにと、ミノタウロスと一人で対峙することを選んだ。一秒でも長く、時間を稼がなけらばならない。だから、彼はここで倒れるわけにはいかない。そう自らを奮い立たせて、棍棒を振るったのだが……


「――ッ!」


 丈夫な棍棒が、地獄に生えている樹木でできた棍棒が、叩き折れた。


 迷宮全体を揺らすほどの衝撃に耐え続けていた棍棒はまだ戦っている主人を残して、あっさりと戦意を喪失した。戦いから逃げ出したのだ。グリフォンやヒュドラを相手取ったことのある相棒は、シュテンすらも気が付かないうちに限界を超えていた。その結果、粉々に砕けた棍棒が、その破片が宙を舞っていた。彼の判断を煽るように、嘲るように踊っていた。


 武器に裏切られたという驚きが、彼の動きを鈍らせた。絶妙な力関係で成り立っていた拮抗が、たった今、崩れてしまった――その事実にいち早く気が付いたのは、他でもない彼自身だった。


「クッソ!」


 シュテンは地を蹴り、横へと飛んだ。振り下ろしたミノタウロスの拳の威力を、少しでも殺すための回避行動だ。咄嗟の判断だった。長年、海賊として自分よりも遥かに巨大な化け物どもと戦ってきた経験が生きた。何度も死線をくぐり抜けてきた本能が、彼の身体を動かしていた。


 だが、ミノタウロスの拳の威力を軽減できたとしても、その凄まじい破壊力を完全に殺し切ることはできなかった。


「……ぐっ!」


 思いっ切り迷宮の壁に叩きつけられた。その衝撃で、左腕の感覚も痺れてしまった。全身の骨が軋む。倒れないようにと気合で重くなった身体を引っ張り、ゴツゴツとした石壁に背を預ける。頭痛がするし、足元もふらついてしまう。頭から流血しているのか、左側の視界が真っ赤に染まった。それでも目だけは逸らさずに毅然とした態度で、正面にいるミノタウロスを睨みつける。


 ミノタウロスは、低く唸りながらゆっくりとシュテンのいる方へと歩み寄ってくる。両腕が痺れて、抵抗できない。そもそも武器すら持っていない。絶体絶命だった。暴虐を孕んだ四つの瞳が、シュテンのことを見下してくる。見下しながら、壁際から逃さないようにと両手を広げ、じりじりと距離を詰めて来る。その動きには、熱気と殺気、そして少しの愉悦が滲んでいるように見えた。


 目の前の敵が弱っていると本能で察したミノタウロスが、咆哮を上げる。その咆哮は、まるで迷宮そのものが唸っているかのように響き渡る。迷宮の壁が震え、天井からは砂塵が舞い落ちて来た。そして次の瞬間――ミノタウロスが再び動き出した。巨躯に物を言わせた突進を開始した。地響きを伴いながら、一直線にシュテンへと迫ってくる。


「来いや……クソ牛が!」


 だから、シュテンは叫んだ。口元を歪めて、血を吐きながらミノタウロスを挑発するように笑った。鋭い歯を剥き出しにしながら、鬼が笑った。強敵を前にすると本能が目覚めてしまう。鬼の血が滾る。この高揚感は、どうやっても説明することはできない。言葉を尽くしても、人間には絶対に理解してもらうことができない鬼の性だ。血が、肉が、骨が、本能が目の前の怪物を腕力で捻じ伏せろと叫んでいる。身命を賭して打ち負かせと、本能が絶叫している。


 視野が狭まる。一度、頭に昇った鬼の血は冷めることを知らない。荒ぶる本能が、互いの角を突き合わせて、正面から殴り合い、捻じ伏せろと命じてくる。迷宮の壁に叩きつけられた衝撃によって剥がれ落ちた瓦礫を握り潰し、シュテンは拳を力強く握った。防御態勢は取らない。ミノタウロスとのリーチ差なんて、もはや考慮に入れる必要もない。小細工は弄さない。正々堂々と殴り合おう。血で血を洗う争いを、ミノタウロスという牡牛の怪物を地獄まで連れて行ってやろう。


 そう腹を決めて、シュテンが理性を飛ばしかけた次の瞬間――ミノタウロスの背後から一匹の狼が襲いかかったのが見えた。ロバーツだ。そして彼は、そのままミノタウロスの太い首筋を狙い澄まして、噛み千切った。


 苦痛によってのたうち回るミノタウロスは、その場に足を止め、肩に張り付くロバーツを叩き潰そうと大きな右腕を振り下ろした。だが、彼はその強烈な一撃を、まるで嘲るように軽々と回避し、シュテンの真横に着地した。


「ハハッ、大丈夫カヨ!」


 ロバーツはミノタウロスの真っ赤な血で染まった牙を舌で舐めとりながら、にやりと笑った。獣人の――狼化の影響か、いつもより滑舌が悪くなっている。ミノタウロスの肉質は断ちづらいのか、ロバーツの咬合力をもってしても、見た目以上にダメージは与えられていない。傷口からは今も激しく血が噴き出しているが……ミノタウロスの巨躯からすれば、紙で手を切った程度なのかもしれない。だが、獣毛に覆われた自身の肌を伝う真っ赤な血を見たミノタウロスの表情は、驚愕と怒りで満ち、さらに興奮状態へと突入したのは確かだった。


「おい、邪魔してんじゃねぇぞ! あとちょっとで、あのクソ牛を地獄に案内してやるところだったのによ! てめぇのせいで台無しじゃねぇか!」


「吠えルナ。吠えルナ。額が割れて血が出てルゾ? そのなりで吠えても無様なだけダロ? 無理すんナヨ」


「……チッ、ずっと陰に隠れて見てたヤツに言われたくねぇよ」


「ハハッ、バレてたのか! 面白い見世物だったゾ。まさか、シュテンが力で押される日が来るトハナ。オマエが強がらず、素直に『助けて』と泣き叫んでいれば、もっと早く助けに入っタゾ!」


「口が減らねぇヤツだな。まず、てめぇから相手してやってもいいんだぜぇ?」


 ロバーツはシュテンが命懸けで戦っている最中も、ずっと石柱の影に潜伏し、隙を探っていたのだろう。そして今、絶好の機を見極めて飛び出してきたのだ。ミノタウロスがシュテンに止めを刺そうと決定的な一撃を与えようとした刹那に生じた油断を――その一瞬の気のゆるみを、彼はずっと狙っていたのだ。影狼。彼のその姿はまさに影のように忍び寄る狼だった。彼のしたことは、戦略としてはとてもよく理解できる。だが、それはそうと頭にくる。憤りが収まらない。一対一の勝負(けんか)を横やりが入ったせいで、せっかく上がってきたテンションが台無しにされた。


 自分が丹精込めて作った料理の上に、いきなり大量の塩コショウをぶちまけられたかのような、そんな苛立ちが止まらない。このまま激情に身を委ね、すべてを破壊したい衝動が、脳の奥底から込み上げて来る。だが、そんな思いを抱えながらも、シュテンは額から零れ落ちる流血をその手で拭い、ふらつく足に力を込めて、ロバーツの横に並び立った。


「あー、クッソ。頭(いて)ぇ。……おい、ロバーツ。もしオレの足引っ張りやがったら、あのバカ牛よりも先に、オレがお前をぶっ飛ばしてやるからな! 覚悟しとけよ!」


「おいおい、キレるナヨ。ただの狩猟(けんか)に誇りだの矜持だのを持ち出す手合いは、これだから面倒なんダ。いくら綺麗事を並べようと、やってることは獣同士の殺し合いなノ二ナ。卑怯だの姑息だのってのは、生きるか死ぬかの世界ではただの妄言ダロ。そんなことより、生き残る方が百倍価値があるはずなノニ。……まあ、これもすべて結果論ってヤツだよな。あ、そうだ。それとなぁ、シュテン……それは、こっちのセリフだろウガ! 怪我してるからって、オレの足手まといになったら承知しねぇからナァ!」


 砂塵が舞った。眼帯を付けているロバーツと、額の傷から流れ出た血で視界の半分が真っ赤な染まったシュテン。両者はお互いの死角を補うかのように左右に別れ、ミノタウロスを挟み込むかのように構えた。言葉を必要としない連携だ。長年、同じ船に乗っていたこともあり、わざわざ声をかけなくても、互いの行動が手に取るように分かる。


 ロバーツに噛まれた痛みで、悶えていたミノタウロスも二人の動きを警戒しているのか、大きな四つ目でぎょろぎょろと鋭く周囲を見渡している。足を止めず、動き続ける彼らの影を追うようにミノタウロスも自慢の巨躯を震わせて、襲われても対処できるように動き続ける。だが、彼らよりも遥かに巨大なミノタウロスの身体は小さく動くには向いていない。二人の動きを四つの目で捉え続けようとするたびに、軸がずれて、態勢が不安定になってきている。


「ラッ、よっ!」


「ッ!」


 機動力に優れるロバーツが先にミノタウロスの太い腕に飛び掛かり、シュテンもそのタイミングを合わせて、右脚に向かって数発の打撃を加えた。ミノタウロスが悲鳴を上げる。どうやら人喰い迷宮の中に引きこもっていたせいで、ミノタウロスは極端なまでに痛みに敏感になっているのかもしれない。傷の治りは早いが、このまま攻撃を続けていれば、安定して倒せるかもしれない。シュテンがそんな淡い希望を抱いた瞬間――背後から斧が飛んできた。空中で美しい放物線を描いたその斧は、ミノタウロスの肩部に突き刺さった。


「てめぇか! クックを殺したゴミ野郎は!」


「ハイレッディンか!」


 血の雨が降り注ぐ中、シュテンが急いで背後を振り向くと、そこにはハイレッディンが立っていた。ミノタウロスの肩から噴き出す血よりもさらに真っ赤に染められた髪と髭を揺らしながら、怒りを露わにした表情で、怨嗟の声を上げているハイレッディンの姿があった。


「落ち着け、ハイルディン! オレたちがやるべきことは(わか)ってるな?」


「誰に言ってんだ! ミノタウロスをここで仕留めるんだろ! 仲間(おれたち)からこれ以上の犠牲を出す前に!」


「……よし、意外と冷静だなぁ。ロバーツ、お前はそのまま暴れ続けろ!」


「オーケー!」


 ロバーツはその掛け声とともに、ミノタウロスの太い腕を鋭い爪で引っ掻き回し、深く傷つけた。ハイレッディンの投げた斧は、今もミノタウロスの肩に深々と突き刺さっている。その激しい痛みのせいで、ミノタウロスは周囲の状況が飲み込めずに、訳も分からないまま暴れていた。まるで癇癪を起しているかのようだ。


「ハイレッディン、お前は絶対に近づきすぎるなよ。そこから斧で援護だけしていろ!」


「ッ、おーよ!」


 シュテンの声を聞いたハイレッディンは、顔を激しく歪め、悔しそうな表情を浮かべた。その一言で、ミノタウロスの脅威を理解したようだった。ハイレッディンは人間の中では、誰もが認めるほどの強者だ。文句のつけようがないほど強い。だが、シュテンが受けた攻撃をハイレッディンが食らっていたら、もう立ち上がることはできないだろう。下手したら命を落とすかもしれない。それほどまでに力の差は歴然としていた。これはもう種族の差だ。


 それでもミノタウロスに対抗できる者が一人でも応援に駆けつけてくれたことは、幸運だった。第一陣のメンバーに選ばれていなかったはずのハイレッディンがこの迷宮内にいる。二人はそのことに何も違和感を抱くことはなかった。もはやそんなことを考える余裕はなかったからだ。


 だから、シュテンたちは迅速に次の行動を開始した。シュテンとロバーツは引き続き、ミノタウロスの攻撃を回避しながら、爪で、牙で、拳でミノタウロスの肉を裂き、叩き、噛み千切る。二人の攻防を眺めていたハイレディンはミノタウロスの肩に深々と突き刺さった斧に向かって手を伸ばした。すると、血に濡れた斧が激しい光に包まれながら、ハイレディンの手の動きに呼応するかのように震え始めた。それは、まるで斧自身が彼の怒りに共鳴しているかのようだった。


「……来い」


 ハイレディンの低く呟いたその声に応えるかのように、斧は光の尾を引きながら彼の手元に戻っていく。魔法だ。彼は魔法で投げつけた斧を引き寄せながら、ミノタウロスに接近した。斧を握り直したハイレディンは、ミノタウロスに向かってさらに一歩踏み込むと、シュテンとロバーツに当たらないように慎重に狙いを定めて、重々しい一撃を投げつけた。


 これは、意図的に三対一の状況を作り出すためだった。もしミノタウロスがハイレディンに意識を集中させて、突進してきたら、二人の援護が間に合わず、ミノタウロスと一騎打ちになる可能性があった。だからこそ、ハイレディンは危険を覚悟して二人の戦闘に近づいた。加えて、彼の魔法は距離が開けば開くほど効果が薄くなる。だからこそ、一石二鳥だと自分に言い聞かせ、二人の援護に徹することに決めたのだ。三者三様――各々が最善を尽くし、ミノタウロスを迎え撃つ。


「オラッ! もう、いっちょ!」


 ハイレッディンは再び、太い腰に携えた片手斧を投げつけた。その間に、もう一本の斧を魔法で回収する。目の前の化け物が息絶えるまで、それを繰り返す。


「ハハッ、ナイス!」


 ハイレッディンの投擲した斧を合図に、ロバーツが助走をつけてミノタウロスの頬に爪を突き立てた。しかし、ミノタウロスの巨躯は一切怯むことなく、足元にいたシュテンに蹴りを放つ。もし当たれば、頑丈なシュテンでも胴から上が吹き飛ぶほどの威力だった。だが――


「そっちじゃねぇよ、クソ牛が! 四つも目があって、全部節穴なのかよ?」


「フフ、ハハッ、そう言ってやつナヨ、シュテン。巨大な角がある、筋肉ダルマ。ほとんどオマエの親戚みたいなものじゃネェカ! 仲良くじゃれ合えヨ!」


「アぁ! うるせぇぞ、バカ犬!」


 ギリギリでその蹴りを回避したシュテンは、口を歪めて挑発する。こちらの言葉を理解できているのかは知らないが、少しでも気に障ったら動きが乱れる。不安定な態勢を強制させれば、隙が生まれる。そこを突いて、止めを刺す。どんな生き物であっても首を落とせば勝機はある。だから、粘り続ける。決して勝てない相手ではない。だからこそ、三人は逃げずに今も戦いを続けているのだ。


 接戦だ。どちらも一歩も譲らない戦いが続く。時間はどちらにとっても敵ではない。むしろ、両者にとっての味方だった。ミノタウロスは、無尽蔵のスタミナと再生力を駆使し、三人が疲労するのをただ待てばいい。痛みにさえ耐えていれば、それだけでいずれ殺せる相手だ。そのことを本能で理解しているのだ。だから、無駄に危険を冒さない。無理には攻めてこない。まるで火の粉を払うように、近寄ってくるシュテンとロバーツに的を絞って、ミノタウロスはその剛腕を振るっている。


 一方、三人にとっては戦力になる誰かが到着してくれたらそれだけで戦況は一変する。風向きが一気に変わり、彼らが有利になる。


 例えばここに、ヒビキやアセビが来るだけで戦力としては十分すぎる。もしかすると楽々とこの怪物の首を落とせるかもしれない。だが、そんな希望はまだ遠い。まだ誰かが来る気配はない。空気は重く、迷宮内を包む熱気と血の臭いが、時間の感覚を鈍らせていく。魔力と体力の消耗がじわじわとこの場にいる三人の身体を蝕み始めた頃、痺れを切らしたロバーツがついに仕掛けた。


「調子に乗り過ぎだゼェ? そもそもオマエは致命的な勘違いしているようだから、親切なオレが教えてやるケドヨ――」


 軽口を叩きながら、迷宮の壁を足場に飛び移り、ミノタウロスの筋肉の鎧に覆われた太い胴体を駆け上がる。狙うは顔面。ロバーツの動きのキレはまだまだ衰えていない。獣のような俊敏さで、一直線に突き進み、彼は叫んだ。


「ウシがオオカミに勝てるわけがねぇだロォ!」

 

 四つの瞳の中で、二つが彼の素早い動きに反応できた。ミノタウロスは咄嗟に剛腕を振り上げて迎撃しようとするが、ロバーツは再び迷宮の壁を蹴って、さらに加速し、その顔面に爪を突き立てた。肉を裂く音。ミノタウロスの右頬から目にかけてをロバーツの爪が深々と食い込んだ。鮮血が噴出する。


 手応えが、感触が、その右手(つめ)に残っている。生物の肉を刺し、抉る感触だ。ロバーツは確かに、ミノタウロスの瞳を抉ったのだ。


「グッ!」


 だが、次の瞬間、ロバーツの身体は空中でくの字に折れ曲がった。ミノタウロスの反撃。剛腕によって、彼の胴体は薙ぎ払われたのだ。迷宮の壁に勢いよく叩きつけられたロバーツは、小さく呻く。しかし、彼はすぐに立ち上がった。その様子を心配して近づいていたハイレッディンが声をかける。


「おい、大丈夫か!」


「アッ! クソ痛ェ!」


「……よしっ、大丈夫そうだな」


 背中を押さえて、痛みを誤魔化しているロバーツの姿を見て、ハイレッディンは冷静にそう呟いた。一方のロバーツは、獣毛に覆われてモジャモジャになった背中を擦りながら、ミノタウロスに目を向ける。自分の挙げた成果を確認するためだ。


 目を潰した。四つのうちの一つだが、これでだいぶやりやすくなったはずだ。そう自分を鼓舞しながら、激痛に悶えるミノタウロスを睨むつける。だが、すでにミノタウロスの目玉が再生していた。異常な再生速度だ。血に濡れたような瞳が、もう原型を取り戻している。まるで時計の針を巻き戻したかのように、ミノタウロスの傷が塞がっていく。


「チッ、神話に登場する化け物どもは、どいつもこいつも再生力が(たけ)ぇナァ! つーか、それしかねぇのカヨ?」


「ハッ、ロバーツ。お前、知らねぇのかぁ? 神様ってのは気まぐれで飽き性な性格なんだぞ。そうじゃなけりゃあ、オレたちの髪の色や酒の趣味がここまで違うわけがねぇだろぉ? きっと、大まかな形だけは造ったが、後の細かい部分を作るのがめんどくさくなっちまったんだよ。人間っていう種族や化け物ども(こいつら)に共通点が多いのはそういう理屈だ。確か、セイショって本にもそう書いてあった」


「へぇ、なるほどナァ! なんだよ、ハイレッディン。オマエ、そんなに頭が良かったのカヨ。正直、オレと同じバカだと思ってたゼェ?」


「おい、油断してんじゃねぇぞぉ! ってか、てめぇらはまともに文字が読めないだろうが! あんま関係ないことばっか言ってるとドヤされちまうぞぉ!」


 シュテンが張り上げた声に驚いたのか、またはロバーツの与えた痛みに耐えられなくなったのか、ミノタウロスはよろめいて背後の壁にもたれかかった。その巨体がわずかに傾いたのだ。その拍子に、迷宮の壁に掛けてあった両刃の大斧が床に落ちた。重々しい音が響いて、大斧の鋭い刃が床を裂いた。石畳が砕け、わずかに沈む。長年手入れされていないはずなのに、凄まじい切れ味だ。


「……チッ。これはまた、面倒くせぇことになっちまったナァ」


 誰の呟きだったかは分からない。誰の嘆きだったかは分からない。だが、それはミノタウロスと敵対している三人の本音だった。なぜなら……ミノタウロスが床に落ちた大斧を拾い上げて、構えたからだ。軽々と持ち上げたその大斧を、三人に向かって突き出したからだ。刃に三人の表情が鈍く反射する。鬼に金棒。虎に翼。獅子に鰭。そして、ミノタウロスに大斧。ただでさえこの場で最も強き者が武器を持ち、さらに強さを増した瞬間だった。


「シュテン!」


 呆然としているシュテンに声をかけたのはハイルディンだった。ロバーツはもう動いている。一瞬で姿が消えた彼は迷宮内の壁や石柱を跳びまわり、荒々しく爆走している。戦闘態勢に入ったミノタウロスに狙いを付けさせないために彼は獣のごとく駆けまわっている。


「ッ!」


 シュテンは気が抜けていたことを恥じるように、ミノタウロスと同じ大斧を身体のバネを使って、ありったけの力で持ち上げた。長い柄の部分を脇と両腕でしっかりと固定し、武器を手に暴れているミノタウロスに向かって振り回す。


「オッラヨォ!」


 時間を稼いでいる二人に詫びるように声を荒げて、大斧を――力任せに、一直線に振り下ろした。そこには芸も技巧もなにもない。ただ、大きく膨れ上がった筋肉で大斧を叩きつけただけだった。


 空気を裂く音ともに、シュテンが振り下ろした大斧はミノタウロスの手に持った大斧とぶつかり、軌道が逸れる。ミノタウロスの肩口を捉えるはずだったシュテンの一撃を、ミノタウロスは本能でその殺気を察知し、受け流したのだ。古代ドワーフによって鍛えられた鋼の刃が打ち合う。鈍い衝撃音が迷宮内に響く。だが、シュテンは驚きこそしたが、攻撃の手を止めることはなかった。


 一回、二回、三回――と大斧同士が激しく打ち合い続ける。血を汗を垂れ流しながら、両刃の大斧を両者の命の灯を掻き消すために、叩きつける。だが、二人の身体よりも先に大斧の方が限界を迎えた。鋼の強度を上回る、二人の膂力によって、両刃の大斧を支える柄の部分が砕け散った。


 勢い良く吹き飛んだ斧の両刃の部分は、迷宮の壁に突き刺さった。外壁の一部が剥がれ落ちる。交える刃は、もうない。ならば――と、シュテンが拳を強く握ったその瞬間。石柱の上に登り、身を隠していたロバーツが、今度は左目を狙いをつけて爪を振りかざした。同時に、ハイレッディが投げつけた片手斧が逞しい胸部に深々と刺さった。


 ミノタウロスは、再び悲鳴を上げて膝から崩れてしまった。


 吊るされていた人形の糸が切れたかのように力なく、膝を折り、地面に座り込んでしまった。まるで矢に射られた獣のような倒れ方だ。ぺったりと身体を後方に傾け、不自然な姿勢のまま動きを止めた。その姿をじっと見つめながらロバーツが、ゆっくりと口を開いた。


「やったか?」


「……おい、それは死亡フラグってやつだから絶対に言うなって、ジョンのやつから聞いたぞ?」


「あー。じゃあ、ここで一緒に死ぬか? 楽しく短く生きるのがオレの主義だ!」


「……気色の悪いこと言ってんじゃねぇぞ」


 冗談めかした言葉の応酬とは裏腹に、二人の表情は真剣だった。目を離さない。降り注ぐ血の雨が、シュテンとロバーツの顔面を赤く染めるが、それでも目を逸らさない。ミノタウロスの一挙手一投足を逃さないように、むしろ警戒を強めていた。手負いの獣が、最も厄介な相手だと……二人は理解していた。生い立ちが特殊な彼らは、野生の摂理を身に染みて理解していた。


 ――だから、残された標的は一人だけ。


 身体が動かせる程度の再生を終えたミノタウロスは怨念を、鬱憤を、怨讐を、憎悪を滲ませた血色の瞳で、ハイレッディンのことを静かに睨みつけていた。迷宮内に重苦しい殺意が満ちる。だが、緊張の糸が切れたハイレッデンは気付いていない。ミノタウロスは死亡したと思い込んでいる彼は今も呑気に片手斧に付着した血を遠心力で振り払う、血振りという動作をしていた。血液には粘土のあるため、完全に拭いきることができなかったみたいで彼は不機嫌そうな顔をしていた。


「ハイレッ――」


 ロバーツが注意を促すよりも早く、ミノタウロスが動き出した。シュテンも飛礫を投げつけたが間に合わない。即席のものだ。足元に落ちていた迷宮の壁の残骸を握り潰し、細かく砕いた小石を顔面に……いや、牛面に目掛けて、散弾のような威力で投げつけたのだが間に合わなかった。


 そんな二人の妨害は徒労に終わった。ロバーツの張り上げた声よりも速く、シュテンの飛礫に打たれながらもミノタウロスは雄叫びを上げ、突進した。この場で最も脆弱で、最も手間のかかるハイレッディンに焦点を合わせて、突進を始めた。


「ッ!」


 完全に死んだと油断していた彼はあっけにとられてしまい、行動を起こすのが遅れてしまった。意識外からの攻撃に、気を緩めていた彼には反応できなかった。完全に油断していた。失態だった。ここで……ここで、もし彼がミノタウロスのは突進を受ければトマトのように潰されて死ぬだろう。だが、もう回避する時間がない。だから、自身の死を受け入れたハイレッディンはせめて残される二人の負担を軽減しようと、右手に持っている斧を振り上げると――


「ちょっと、あなたたち! 古参が三人もいて、何をそこまで手間取ってるのよ?」

 

 迷宮内にそんな声が響いた。殺伐としたこの雰囲気を持って生まれた明るさだけで吹き飛ばしてしまう少女の可憐な声だ。その声がシュテンの耳に届くと同時に、ハイレッディンの背後から炎が走った。燃え盛る火炎が迷宮の壁や地面を伝って、ミノタウロスに襲いかかった。


「リーネ!」


「え、シュテン。あなた全身ボロボロじゃない? 本当に、世話がかかるっていうか……ここまでくるともう情けないわね。喧嘩ならあなたの右に出る者はいないんじゃなかったの?」


「……うるせぇよ。それより、何で出てきたんだ! こういう荒事はオレたちに任せて、柱の陰にでも隠れてろッ! つーか、何で来たんだ!」


「危ない所を助けられておいて、感謝の言葉はないの? 私がいなかったら少なくともハイレッディは重傷を負っていたはずよ?」


「……それとこれとは話が別だ。とにかく、どっか安全な場所まで離れてろ。ってか、どうやって一人でここまで来れたんだよ?」


「それはもう運命ね! あなたたちが心の中で私に助けを求めたからここまで来れたのよ。……って、自信満々に答えたいところだけど……ここまで案内されたのよ。シュテンたちがミノタウロスって怪物と戦ってるから手助けに行こうってね」


「……案内だぁ?」


 リーネルの言葉を聞いたシュテンがミノタウロスに視線を向ける。焦げ臭い。灼熱の地面で人肉が焼けるときのような不快な臭いがした。地獄でよく嗅いだことのある臭いだ。咄嗟に鼻をふさごうとしたが……そんなことがどうでもよくなるほどの不可解な出来事が起こった。突如として、何もなかったはずの空間が激しく歪み、ミノタウロスの屈強な太腿から血が噴き出した。一閃。鋭利な刃物で切り付けられたような傷が、刀傷が浮かび上がってきた。


 突然のことで『何事だ?』と訝しんだ表情をしているシュテンの真横で、ロバーツが尖がった鼻を鳴らしていた。犬が何かを嗅ぎ分けるような動きで、忙しなく鼻を鳴らしている。そして――


「ん? フッ、フ、この匂い……カツキとトールか!」


「ちょっ、バカ船長! 名前を出すなよ! こっちはヤバいから、トールの魔法で透明のまま近づいてるっていうのに。名前を言われたら意味がなくなっただろうが!」


「あ、悪ぃ」


 叱りつけるような口調をロバーツに浴びせながら、カツキが姿を現した。その背中にそっと手を当てて、死んだような表情をしたトールもいる。彼の『透明になる魔法』でミノタウロスに近寄ったカツキが、あの薙刀で一撃を与えたようだ。


「まあ、いいですよ。……この一振りは死んでいった仲間たちに向けた、せめてもの餞ですからね。もしオレがここで死んでも、いい土産話ができますしね?」


「ハハッ、オレの船に乗っているだけあって死んでもいい覚悟はもうとっくにできているみたいダナ。交渉事が得意だからって、カツキは副船長に力技で任命したオレの直感は正しかったみたいで安心したゼェ?」


「はぁ? カツキって、ちょっと前まではただの航海士じゃなかったか? ヘンリーのところにいたときから思っていたが、出世が早いヤツだなぁ。根性がスゲェのか? そこまで優秀なら、ロバーツのバカじゃなく、オレたちの船に力尽くでも引き抜けばよかった……今からでも遅くねぇな? どうだ? オレたちと一緒に兄貴を支えないか? 給料は悪いが、アットホームな職場だぞ?」


「……絶対に、詐欺じゃん」


「おい、てめぇら。無駄口は後にしとけよ? さっきハイレッディの間抜けが殺されかけたのをもう忘れちまったのか? ……まあ、どっちみちこれで五人、いや、六人だよな? 楽勝になっちまったのは事実だけどよぉ?」


「え、いや。でも、オレにあんまり期待しないでくださいよ。皆さんのお力と比べられたら、オレなんか力不足、役不足もいいところなんですからね?」


「あれ? でも、カツキって桜一刀流の門下生だったわよね? 記憶が確かなら、あそこはヒビキも認めるくらい実力のある道場だって聞いたけど……その薙刀もそこで習ったものでしょ? なら、謙遜する必要はないじゃない? 私の目から見ても、とても綺麗な太刀筋だったわよ?」


「……あのですね、リーネル船長。オレが習ったのは対人相手の武術です。あんな化け物を相手取る術なんて持ち合わせていませんよ」


「ん、そうなの? 確かにちょっと大きいけど、人間とあまり変わらないじゃない? ほら、私たちと同じで、足と手と頭がついてるだけよ。……そう考えたら不思議と簡単に倒せる気がしてこないかしら?」


「……そうですよね。いや、そうでした。リーネル船長に剣を教えたのはヒビキさんって話ですもんね。それにお父様も『海賊』として名を馳せた自由人だって話だし。そりゃあ、うちの船長と同じ異常者側に決まってるよな。ジンと一緒にいる時はまともな部分ばかりに見えてたんで……惚れ直しました。あんたらの背中に憧れたオレの目に狂いはなかったみたいです」


 目を点にしていたカツキは整った顔立ちに微笑みを湛えると同時に、身の丈以上の長さを誇る薙刀をギュッと握り締め、態勢を安定させるために重心を落とす。薙刀を斜めに構えてミノタウロスから刃筋を隠すと、背後で待機していたトールが魔法を使って、自分ごとカツキの姿を見えなくした。時空が歪んだような違和感が一瞬にしてなくなり、二人の姿が完全に見えなくなる。そのこと確認したリーネルは、カツキに返事をするかのように言葉を続けた。


「フフ、そうよ。結局のところ、私たちは自分勝手に生きることしかできないただの海賊だもの。この迷宮に足を踏み入れているのは船の上で、夢を見ながら死んでも構わないって、本気でそんなことを思っている可哀そうな生き物の集まりなのよ。あなたも含めてねっ!」


 リーネルのその声を合図代わりになって、この場にいる全員が再生したミノタウロスの首を落とすために行動を始めた。火炎が踊り、斧が飛び交い、薙刀と爪が肉を裂く。それは……もう化け物側が気の毒になるほど一方的な攻撃だった。ミノタウロス一匹と六人では、そもそもの手数が違う。ミノタウロスが拳を振り上げて、振り下ろすまでに――シュテンの拳が、ロバーツの爪が、ハイレッディンの斧が、リーネルの炎が、カツキとトールの目に見えない刃が、ミノタウロスを襲い続ける。


「リーネ、オレたちに任せてお前は後ろに下がれって! ハイレッディンのところまで下がれぇ! ってか、ハイレッディン! お前が守れよっ!」


「いや、シュテン。そうしてやりてえのはやまやまだどよ……」


「ちょっと! 私を子ども扱いしないでちょうだい! そもそも、怪我をしているシュテンとロバーツが私に任せて後ろに下がりなさいよ! ハイレッディン。あなたは私が助けたんだから、もうちょっとだけ役に立ちなさい! 名誉挽回の機会が欲しいでしょう?」


「……ッ! ほら、見ろ。お前のところの船長はちょっとばかりお転婆がすぎるぞ。元気があるのはいいことだが、もういい年なんだからガキ臭さを捨てねぇと婚期を逃しちまうぞ? 町娘のような余裕を持てよ、余裕を! 慎ましやかさが足りねぇんだよ。せっかくアリアっていうイイ女の見本が同じ船にいるんだから、女の嗜みってやつを一から教えてもらえや! ――てっ、あっぶな! ってめ、リーネ! どこ狙ってんだぁ! もう少しで火傷するところだったぞぉ!」


「あら、知らないの? 女の色香に惑わされたバカは火傷をするものでしょう? むしろ、あなたのセクハラ発言をこの程度で許してあげる私の寛大さに感謝しなさい! 年齢と体重だけはいつの時代であっても女性においそれと質問していいものじゃないって教わらなかったの? 男性も給料と髪の話題は酒の席でも避けたがるでしょ? それくらいセンシティブな質問ってことよ。お互いに求めるものや求められてきたもの……つまり、価値観がまったく別の生き物同士なんだから、個人として理解し合おうとする姿勢を忘れてはダメよ?」


 ハイレッディンの真っ黒な靴の近くをリーネルの生み出した炎が炙るように通過した。ジュッと地面が焼け焦げる。その一連の出来事を目にしたロバーツが高笑いし、ミノタウロスの脛を自慢の爪で深く切り裂きながら言葉を発する。


「ハハハッ、おっさんがガチ説教されてヤガル。腹痛テェ! ……だが、今のはハイレッディンが悪イナ! 後で、リーネにオマエが大好きな根性焼をしてモラエ! オマエはオレの行きつけの酒屋でも、赤髭の男尊女卑の方で有名だからナァ! だから、モーガンのヤツは結婚できて、オマエは一生独り身のままなんダゾ?」


「……それは語弊があるだ、ろっ!」


 透明になっている二人を除いて、この場にいる全員が自分の好きなことを喋っている。油断はしていない。これは油断ではない。それだけの余裕があるのだ。張り詰めるような空気の中であっても、久しぶりに集まった親戚のように各々が好きなように、そして、気軽に言葉を交わす余裕が彼らにはあるのだ。一方、ミノタウロスはというと頭から赤いペンキをかけられたみたいに血塗れになり、いたるところに大傷がある。ロバーツが脛を深く抉り取ったせいで、動けなくなったみたいだ。与えられるダメージに対して、もう再生が追いついていない。


 牛らしく茶色の……いや、錆色の獣毛が、流れ出る血のせいで真っ赤に染められている。それを見たハイレッディンは「これで、オレとお揃いだな」とどこか嬉しそうに髭を撫でながら、笑っていた。


 ミノタウロスがこちらに向ける視線が、四つの瞳から読み取れる感情がいつの間にか憎悪から恐怖へと変っていた。神話に登場するような巨躯の牡牛が小動物のように怯えている。もはや哀れだ。だから、その姿を見たシュテンはどこか同情したような声音で、静かにこう呼びかけた。


「……もう、限界みたいだな? 身体じゃなく、心がべっきりと折れちまってる。ハイレッディン、斧を一本貸してくれ。オレがこのままその首を斬り落とす」


「おい、バカを言うな。こっちも乗組員(ガキ)()られてるんだ。オレがこのまま止めを刺してやる。もし、首を落としても再生するようだったら、リーネの魔法で再生する前に、傷口を焼きふさぐ。それで文句はねぇだろ?」


「おい、状況が分かってるノカ? こんな大きな獲物を一人で解体するのは無茶ダゼェ? 骨が折れる作業ダ。だから、全員でやればイイ。誰か一人に任せるよりも、そっちの方が文句がでねぇはずダロ?」


「……それもそうだな。ここで、こいつを殺すことさえできれば、誰がやっても同じだ。通常、首を落として死ねばいい。もし首を落として死ななかったら、そいつはイレギュラーだ。なりふり構わず必死に逃げるしかない。……だが、ここには魔法で火を生み出せるリーネがいる。まさに、盤石な体制ってやつだ。結局、戦いは数が大事だ。数の暴力でたいていのことは解決できる。なら、皆で確実に()らなきゃ、ただの損だもんなぁ?」


 そこで言葉を切ったハイレッディは、無言のままシュテンに左手に持っていた斧を投げ渡した。その斧をシュテンが片手で受け取ると同時に、琥珀色の瞳でミノタウロスのことを流し見る。彼よりも遥かに大きいはずなのに……今は、とても小さく感じる。何も変わっていないはずなのに、もはや見るに堪えない。


 その事実を前にしたシュテンの心には怒りではなく悲しみが込み上げてきた。だが彼は、もう何も言わなかった。何も言わずにハイレッディンから渡された手入れの行き届いた斧を、ただ悠然と構えた。どっしりと斧を構えた彼の姿からは、何が何でもミノタウロスの首を切り落とすという強い意志を感じる。無言の圧力が、言外の言葉を際立たせている。


「――ぁ?」


 低く、抑えのきいたシュテンの声が響き渡った。突然、背後から物音がしたからだ。ミノタウロスとシュテンの激しい打ち合いの結果、迷宮の石壁が崩れ落ちた音だ。古代ドワーフが鍛えた両刃の大斧が、思っていたよりも深く突き刺さっていたみたいだ。両刃の重さに負けた迷宮の壁はボロボロと剥がれて、今、つい崩壊したのだ。


 だが、シュテンが声を上げたのは、驚いたのはそこではなかった。彼が視線をミノタウロスから離したのは、いきなり気温が下がったから……つまり、肌寒くなったのだ。突如として、背後から冷たい風が彼らを襲い、青白い光が流れ込んできたから、警戒して目を離したのだ。それは迷宮の内部を薄暗く照らしている人工的な光ではなく、もっと自然な光だった。


 月光だった。人々の心を惑わし、魅了する。妖しげな月の光が蠱惑的に微笑み、迷宮内を明るく照らしていた。澄み切った月はこうこうと音を立て、殺気や血の臭いで濁ってしまった迷宮内に漂っている悪い空気を循環させている。


 そのことにシュテンが気が付いたのは「お、いい月だな」と呑気なことをロバーツが呟いたからだった。そうじゃなければ今も、美しい月に心が惑わされて状況が飲み込めていなかったかもしれない。完全に魅了されていた。鬼の心も浄化される。山の頂上よりも高い所から見る月の光は、情緒がないと言われ続けていたシュテンたちが、そう思わされらるくらい綺麗だった。


「……え?」


 全員が正面に立っている敵から目を離していた。目を離してしまった。その中で、一番最初にミノタウロスに視線を戻したのはリーネルだった。


 ――だから、リーネルだけが見てしまった。


 ミノタウロスは泣いていた。涙を流していた。月光をその逞しい胸に抱き寄せるかのように、に大きな手を伸ばしながら、大粒の涙を流していた。感情が堰を切って漏れ出し、心の底から湧き上がる歓喜が溢れ出したかのように顔をくしゃくしゃに歪ませて、抑えきれない涙を流していた。ミノタウロスのその姿が、リーネルの赤い瞳に映ってしまった。焼きついて離れなかった。


「……何で、あなたは泣いているの?」


 無意識のうちに、リーネルは優しい声でそう尋ねていた。答えが返ってくるはずがないと彼女も頭では理解している。だが、それでも言葉にしなければならなかった。我慢できなかったのだ。するとミノタウロスは、まるでその問いに答えるように一歩前に踏み出した。外の世界を出たいと願っているかのようなその歩みをリーネルは静止することができなかった。だが、古代ドワーフが、この迷宮が出した回答はリーネルとは全く異なるものだった。


「光、ワープ現象です! 皆さん気を付けてください!」


 緊急事態を知らせるためにカツキが声を張り上げた。ミノタウロスに位置が知られることを顧みず、いつもの不思議と相手をリラックスさせるような穏やかな声色を荒げ、全員に警告を発した。背後の壁の穴に気を取られていたシュテンたちも、敵であるミノタウロスでさえ、その叫び声に反応して視線を元に戻した。


 ――すると、光が炸裂した。


 目を覆い隠したくなるような眩い閃光が、一瞬にしてこの場の全員を飲み込んでしまった。光の存在に、ワープ現象の前兆に気付いていたとしても身体が反応するにはあまりにも速すぎた。まさに光速だ。この人喰い迷宮から脱出を試みる不届き物どもを、光は情け容赦なく飲み込んだ。


 神の奇跡を再現するかのような、神々しい光の壁。古代ドワーフたちの妄想が、押しつけがましい願望がこれでもかというほど込められた、今はもう失われてしまった古代ドワーフの技術の結晶だった。これで四回目だ。彼らは目を、耳を、肌を、全ての感覚を狂わせるようなワープ現象を、すでに四度も経験している。何度体験しても慣れることはない不思議な感覚。体中を巡っている血が、魔力が、閃光によって乱され、思考力を奪われる。意思の疎通は困難だ。


 そんな迷宮の光の中で十秒、二十数、三十秒――と時間だけが、ゆっくりと過ぎていく。何もできないまま時間だけがただ過ぎていく。理不尽だ。それは迷宮の脱出を目指しているリーネルたちにとって、とても理不尽な出来事だった。せっかく外に出る算段を立てても、力尽くで壁を破壊しても、この光によってランダムな場所に飛ばされてしまう。迷宮に足を踏み入れてしまった者たちの身体ではなく、心を折るためだけの鬼畜な行為。


 だが、そんなことを思っていてもどうしようもない。四回目のワープ現象が発生してから……およそ一分が経過した頃。無慈悲に、無感情に、無感動に、淡々と、機械的に仕事を終えた光が、ようやく陰りを見せ始めた。盛りを過ぎ、少しずつ穏やかになり、さらに穏やかになり、穏やかになり――そして、完璧に終息した。


 瞼の裏側に隠れた網膜まで焼き尽くすような白、肌を突き刺すような青、心を揺さぶるような金――三つの色が混ざり合ったかのようなあの光が、迷宮内の人間をランダムな場所にワープさせる不思議なあの光が、通り過ぎた後には何も残らなかった。


 シュテンとミノタウロスの激闘の跡も、蜘蛛の巣のような広がった黒い亀裂も、石壁にこびりついた血飛沫も、折れた石柱も、両刃の大斧によって穿たれた大穴も、リーネルたちやミノタウロスの影も、何一つ残っていなかった。


 まるで時間が巻き戻されたかのように、迷宮内部の装飾は修復されていた。細部にまで遊び心を忘れない古代ドワーフが造り出した人喰い迷宮は、神経質なまでに元通りになっていた。


 ミノタウロスと戦闘の最中とは打って変わって、静寂だけがこの場を支配していた。物音一つ聞こえない。話し声が聞こえてこない。楽し気な会話どころか、耳に重たくのしかかるような冷たい沈黙だけが残されていた。だから、先ほどのリーネルの質問に答えることができる者は誰もいない。


 なぜなら、ワープ現象に巻き込まれてしまったせいで、この場には誰一人として影すらも残すことができなかったのだから。




 ※ ※ ※ ※ ※  ※ ※ ※ ※ ※ ※




 同時刻。ミノタウロスやリーネたちがワープ現象の発生によって迷宮内のどこかランダムな場所に飛ばされ、嘆いているであろう頃。俺とアリアさんがいる祭壇の中には独特の緊張感が充満していた。命の危険は感じない。ただ、不気味な……まるで体中を小さな虫が這いまわっているかのような、じわじわと真綿で首を締められる不気味な緊張感があった。


「これは……一体、どういうことなんですか?」


 先に沈黙を破ったのはアリアさんではなく、俺だった。月の光が静かに降り注ぐ静謐な祭壇の中で、何かを思い悩んでいるアリアさんが話し出すのを待つことができなかった。疑問が口を突いて出た。だって、だって――


「何で、今……確かに、あの光に飲まれたはずなのに……ワープしなかった?」


 ワープ現象を引き起こす、あの真っ白な光の壁に飲み込まれたはずなのに俺たちは祭壇からどこにも飛ばされなかった。ランダムな場所にワープさせられることはなかった。アリアさんと触れ合った瞬間、あの光が俺たち二人を避けるかのように異様な挙動を見せたのだ。


 俺はそのことを指摘しながらじっとアリアさんの顔を見詰める。ただ、じっと見詰める。このアリアさんは本物だ。偽物じゃないかと疑っておいて、どの口が言うんだと思うかもしれない。だが、もし彼女が偽物なら俺をあの光から守るはずがない。彼女がワープ現象から俺を守ってくれなかったら、今頃俺はミノタウロスの影に怯えながら、また迷宮内を彷徨っていたはずだからだ。


 それに、これはとても簡単な話だ。俺が彼女のことを信じたいから、信じるのだ。身を呈してでも俺を助けてくれた彼女のその勇気ある行動を、ワープ現象の前兆に察知して羽詰まったような表情を浮かべていた彼女のことを、俺は信じたい。もちろん疑おうと思えば無限に疑うことができる。それが疑心暗鬼の恐ろしさだ。だけど、それでも――信じたいと思ったから、俺は信じることにした。


「……」


 ただ、彼女は何かに悩んでいる。端正な顔を歪めて、眉尻を低い位置まで下げて、後ろめたいような表情を浮かべている。俺の目に映る今の彼女は、彼女らしくない。何か思い詰めているようにも見える。だから、彼女が心で抱える負担をたまにはこちらにも分けて欲しい。三途の川で溺れていた俺の面倒を見てくれたこの人が、助けてくれたこの人が、俺の世話を焼いてくれたこの人たちには、そんな思い詰めたような顔を……現世にいた時の俺のような、苦悩している表情をして欲しくない。もし、苦しんでいるなら話を聞けるような存在になりたい。無力でも、そんな存在に俺はなりたい。そう思うのは、間違っているだろうか?


「……呪具です」


「はぃ?」


 とても小さな声がした。再び訪れた沈黙は、今度は彼女の口によって破られた。だが、俺の耳では上手く聞き取ることは難しかった。アリアさんの呻き声が、浅い呼吸が言葉となって喉の奥からでてきてしまったと考える方が自然と思えるほど彼女の声が小さかったからだ。だけど、決して聞き逃してしまったわけではない。アリアさんにに対して気が抜けたような返事をしてしまったのは、彼女の口から出てきたその言葉は、彼女の口から出るには相応しくないものに思えたからだ。


 戸惑っている俺の様子を見て、彼女はもっと詳しく説明するために口を開いた。つい先ほどまで迷い、揺れ動いていたはずの彼女の湖面のように澄んだ碧眼は、もう揺れていない。まるで意を決したかのように、彼女の真っ直ぐな視線が俺のことを射抜いてきた。


「……今、あの光の影響を受けなかったのは、私の持っているこの呪具の力です」


 そう言うと彼女は胸元に手を伸ばした。そして、銀製のロザリオをそっと俺に向けて掲げてきた。その小さな十字架は、月の光を受けて静かに光り輝いていた……いや、まるで彼女の言葉以上に何かを語りかけてきている気がした。


「この迷宮に足を踏み入れたばかりの時、私もジン君に呪具についての説明を軽くしましたが……その、ジン君は呪具の成り立ちについてはもう誰かに教わりましたか? 呪具にどのような歴史があるか、その発現方法など……」


「……はい、ヒビキから色々と聞きました。愛着がある道具が呪具になりやすいこと。呪具を身に着けている者は魔力を常に吸われ続けていること。そして、精神性が異常であればあるほど呪具が発生する可能性が高いということであると……この三つはヒビキからついさっき聞きました。歴史もある程度は……」


「……そうですか。もう、そこまで知っているんですね」


 深い、とても深い溜息を吐いた。いつも明るい声で周囲に笑顔を振りまいている彼女の姿からは想像ができないほどの重たい溜息だった。珍しい。そして、アリアさんは胸元のロザリオを見つめ続けていた。その表情には諦観の色が濃く、目の奥に宿る感情は凍ったようだった。沈黙が重たい。俺は声をかけるべきか迷ったが、今度ばかりは何も言えなかった。その沈黙は、不用意に触れてはいけない気配が漂っていたからだ。少なくとも俺からは声を掛けてはいけないと彼女の表情を見ていると――そう思えてしかたがない。


「……精神性が異常であればあるほど呪具が発生する可能性が高いですか。まあ、今の私は……過去の私から見たら異常以外の何物でもないのでしょうね。そんなこと、頭ではとっくに理解しているつもりだったのですが……面と向かって突き付けられると、まだ、さすがに辛いですね。それのことが問題で、私はこの呪具を手放すことも、割り切って皆のために使うこともできていないのですから……」


 ぽつりと、彼女はそう言った。カチャ、カチャンと鎧同士が擦れるような金属音が響いた。天井から祭壇の中に降り注ぐ月光に横顔を照らされながら、彼女は祭壇の中央に向かってゆっくりと歩を進めた。残念なことに……いや、幸運なことだったのかもしれない。俺の立っている位置からでは、青白い月光に照らされる彼女の顔をはっきりと見ることができなかった。そのおかげで、俺は少しだけ口を開くことができた。


「……呪具は、依存気質で自責思考。普通の価値観とは思えないような人間が発現する可能性が高い。あー、つまり、感情の波が激しい人ほど呪具を発現しやすいってことですよね? なら俺は、アリアさんが異常だなんて思いません。変なところは……いや、天然なところはあるかもしれませんが、異常とまでは思いません。俺が見てきた中では一番、まともな人ですよ。だから呪具が発現したって聞いても、正直、合点がいかなくて」


 俺のこの言葉を彼女はどう受け取ったのかは分からない。何と声をかければいいのかもまだ分かっていないのに再び、無言になるのが怖くて無理やり言葉を捻り出していた。それが、これだ。もちろんらしくないアリアさんのことを少しでも励ましたいという気持ちもあるし、早く事実を知りたいという気持ちもある。自分の中にはそのどちらの感情も確かにある。ただ、足音が止まったことで、わずかな反応があったことが分かった。鎧同士が擦れる音が消え、アリアさんがこちらに向き直る気配があった。


「フフ、こんな私のことをまともと言ってくれたのは素直に嬉しいです。……ですが、それは簡単なことです。かつての――いえ、生前の私から見れば、今ここにいる私という存在そのものが、異常というだけのことですよ」


 淡々と言い切ったその声には、さっきまでとは打って変わり、どこか微笑むような温度があった。見たこともないようなとても長閑な田舎の風景が頭に浮かぶ。それはきっと彼女の声が、その姿が、郷愁を誘うような優しい声だったからだ。そして、彼女は言葉を紡ぎ始める。


「かつて、私は自らに与えられた使命を放棄したのです。いえ、放棄とは正しくありませんね。できる限り使命を果たそうと努めました。ですが……結局、そのすべての使命を果たすことができなかったのです。その果てに、持っていたはずの信念を手放し、絶対的な主への忠誠心さえも歪めてしまいました。最後の瞬間まで、私は信仰を貫くことができなかったのです。つまり、この呪具が生まれたことこそが――私の不信と背信の証なんです。……分かりますか、ジン君?」


 彼女の問いは優しく、だが、拒めないほどに真摯だった。だからこそ、ここまで痛々しく心に響くのだ。返す言葉が見つからない。悔しいことに、薄っぺらな俺の人生では、彼女のその問いに対する答えなど持ち合わせていなかった。あまりにも重たい。短い俺の人生で積み上げてきたものに対して、彼女の沈痛な表情は、その問いは、あまりにも重すぎた。


 俺は困ったようにしどろもどろと視線を彷徨わせていると――何故か、彼女の手に目が吸い寄せられた。その手は少しだけ震えていた。口にすることに心底、恐怖しているのか体全体がわなわなと小さく震わせていた。そこで初めて、また俺は間違えそうになっていたと気付いた。目を逸らすのは誤りだった。だから俺は、アリアさんの瞳に、顔に、しっかりと視線を向けた。ただ、真正面からアリアさんのことを見た。俺は無力で、何もできない。だけど、それくらいは誰にだってできるはずだ。答えを持っていない俺にできる最後の抵抗だった。


 そう覚悟を決めて顔を向けると、アリアさんが優しく微笑んだ気がした。さっきまではこちらを気遣った結果の笑みだったが、それとは少しだけ違う。質というか、もっと柔らかくなったような……そんな笑みを温かな浮かべて、彼女はさらに言葉を続けた。いや、続けようとした。彼女は喉元まで出かかった言葉に上手く形を与えることができないのか唇を小さくパクッ、パクッと動かしている。


 いつもは頼りになる姉のような印象があるアリアさんが、今は外見相応に見える。いつもはそんなこと思わなかったが、よく見れば身長だって俺よりも小さい。全身を鎧で隠しているのに、一目で華奢な人物だと理解できる。そんな彼女が頑張って、伝えようとしている。喉の奥にある言葉は棘のように引っかかってでてこない。覚えがある。俺にも覚えがある。だから、待つ。痛みに耐えているのは俺ではない、目に見えない恐怖と戦っているのは俺ではない、ずっと頑張っていたのは彼女の方だ。


 月の音が騒がしいと感じる祭壇の中で再び、彼女は力が抜けたように微笑んだ。今度は息を吸って、大きく口を開けた。まるでこれから暗い海に潜るという決意を胸に大きく口を開けた。そして、そして――


「……私は神を疑ってしまったんです」


 ついにアリアさんは言葉を発した。それは悲しい。あまりにも悲しい独白だった。懺悔するかのように小さい声で、彼女は確かにそう言った。苦笑いを浮かべるアリアさんの青い瞳は目の前に立っている俺ではなく、どこか遠くを見ているようだった。


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