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第六十七話 『遺跡』


「おい、どうした? ジン? さっきからボーっとしてるけど大丈夫か?」


「……ああ、大丈夫だ。心配はいらない」


「……ならいいけどよ」


 カツキに心配されるほど時間が経っていたことに驚きだ。


 まあしかし、それは仕方がないだろう。俺にとって二人目の、レインちゃんを含めて二人目の同郷の者だ。それが同じ海賊になっているんだからもはや運命だろう。今、俺の目の前にいる少年が運命の赤い糸で結ばれている相手だと言われても納得してしまうかもしれない。


 いや、できれば異性の方が好みだし、信じたくはないけどな……


「あ、これからよろしく。トール君でいいかな? お互い命拾いしてこうなった奇妙な関係だけどこれから仲良くしてくれたら嬉しい」


 俺は彼に思い出したかのように挨拶をした。スッと手を差し出してこれからもよろしくの意を込めて握手を求めたが、彼は無言でそれに応えようとしてくれない。ジッと敵の挙動を観察するかのようにトール君はピクリとも動かない。どうしたんだろうと思い、俺が口を開こうとした次の瞬間――


「…………変な眼鏡」


「……人と話すのは初めてかい?」


 彼が急に喧嘩を売るかのようなセリフを吐き捨てて来た。俺もトール君の発言を理解し終わって口から出た第一声は純粋な疑問だったけど、これではまるでトール君が売った喧嘩を買ったみたいだな。


 怒りよりも戸惑の感情の方が強い。というか初対面でここまでギスギスとした雰囲気になったことの方に俺は驚いていた。どんなに苦手だと感じるクラスメイトとも表面上では上手く付き合ってこれたのにな……


「おいおいおい、どうしちまったんだよ二人とも。今日はだいぶ好戦的だな?」


「いや、好戦的っていうか……」


「……別に、いつも通り」


 ほら、見ろ。あのカツキだって俺たちを見て困っている。ここまで初対面の少年とそりが合わないこともそうそうない。いや、そうだ。世の中を舐め腐った表情をしているのは正面の男は俺と一回り以上離れている少年だ。俺が順調に学校生活ではギリギリ先輩、後輩の関係にならないぐらい年が離れている。現世では会わなかったはずの少年だ。


 というか俺の方が年上なんだからカツキのようにしっかりとしないと。カツキは俺とそう変わらない年齢だが、もう新入りを教える立場になっている。若くして上の立場になれるのは人徳だろう。これはリーネにも言えることだな。


 俺の尊敬している、憧れている二人と同じになれれば自分のことを肯定できるかもしれない。自信ってヤツがもてるかもしれない。だから、波長が合わない、相性が悪い、水と油な相手だと感じても俺が我慢していればすべて丸く収まるはずだ。


「自己紹介は……したくないみたいだな。なら代わりにオレがしておくぜ? ジン、こいつのことはトールと呼び捨てでいいぞ。敬称なんていらない。表情を見て分かる通り大人を舐めてる生意気な子供とそう大差がないからな、愛情を込めてオレたちはトールと呼んでる」


「キモい」


「そう邪険にするなよ。無償の愛なんて受け取れるだけ受け取っとけよ。損はないぞ?」


「……迷惑。無料(タダ)でもいらない」


「ハハハ、素直じゃないな」


 肩を組もうとする近づいてくるカツキの手をトールはパンと弾いた。笑いながら年下の少年にちょっかいをかけるカツキを滅茶苦茶嫌そうな顔をしながら払い除けている。言葉にするのも面倒なのか、鬱陶しいと表情だけで表現している。


 二人を見ていると仲がいいのか悪いのか分からない。年の離れた兄弟、いや、年に一回会うぐらいの親戚ぐらいの距離感に見える。叔父と甥がじゃれ合っている。それを傍で、それも初対面の立場でじっくりと見せつけられる俺は複雑な感情を抱くことになった。まあ、端的に言ってしまえば――何だコイツら。


「二人とも仲がいいのね。まるで兄弟みたいよ」


「いや、俺には滅茶苦茶嫌がってるように見えるけど……」


「喧嘩するほど仲がいいってやつじゃないの?」


 ブンブンと首を振って逃げようとしているトールの姿を見ていると仲がいいなんて口にするのも憚られる。あとついでに言わせてもらうが兄弟なんて実はそこまで仲良くないぞ。兄弟姉妹がいない人はいたら楽しいと思っているだろうが、実際は『こいつ邪魔だ』と感じる割合が圧倒的に多い。


「そんなことないだろ。なぁ、トール?」


「散歩の最中に犬の糞が落ちていたぐらいかな……」


「結構不快じゃん!」


 いや、個人的には散歩の途中に犬の糞が転がっていると一気に冷めるからかなり嫌だぞ。朝の澄んだ冷たい空気を肺いっぱいに吸って、清々しい気分になっていたとしても落ちている糞を一目見るだけで飼い主はちゃんと掃除しろよと地の底にまで気分が落ち込んでしまう。


「まあ、冗談はさておき互いの紹介に戻ろうか。こっちはリーネル船長のところに籍を置いている新入りの平坂仁だ。オレもアセビも何回か話に出してたから覚えているだろ?」


「知ってるよ、ヒュドラのでしょ」


「そうだぞ。グリフォンの背に跨った、勇敢なアホだ」


「誰がアホだよ。いや、間違ってはなんだけどさ」


「……十分アホでしょ」


 アホ、アホ、アホと失礼な奴らだな。そりゃあ、あんな状況でボサっとしてたから自業自得だし、アホなのは間違いないんだけどさ。そこまで言わなくてもいいじゃん。俺だって普通に死にかけたわけだし。


「でも、イメージとだいぶ違う」


「あ、まさかトール君、いや、トールも俺がグリフォンを真っ二つにしたとかふざけて噂を鵜呑みにしてるんじゃないだろうな」


「いや、そんなの普通に考えれば無理だって分かるでしょ。バカじゃなければ」


「う、うん、そうか。そうだよな。考えればわかるよな。普通は」


「それにアンタ、滅茶苦茶弱そうだし。イナミ村の人たちの方が強そう」


「……そっかぁ」


 トールと話していて、一言余計だなと感じてしまうのは俺の心が狭いからだろうか? いや、人間ってたぶんそういうものだよな。相手が嫌いだと思ったら、どれほどいい人だったとしても嫌いだと思ってしまう。これは無意識の内に相手の粗を探す方向に意識を集中させているからだ。


 だから、解決法としては心を無にして時が流れるのを待てばいいのだ。時間の流れに身をゆだていればいいだけだ。わざわざ真っ正面から受け止めるから傷ついて反発するのだ。聞き流せばダメージが軽減できる。もっと言えば他のことを考えて空返事さえしていれば脳が余計なリソースを割かなくてもいい。


「なら、トールから見たジンのイメージってどんなだったんだよ?」


「……わざわざ言う必要ある?」


「それ私もちょっと気になる」


「……はぁ」


 リーネがそう言うとトールは顔を嫌そうに歪めて、深々と溜息を吐いた。


「面倒くさ」


「たぶんだけど断るよりも早く終わらせた方がいいと思うぜ。そっちの方が得だぞ」


「……カツキやアセビ、ロバーツ。あの三人と上手く付き合うことができてるみたいだし、皆の話を聞いた時はアンタのことは僕とは違って、いや、ただ僕が苦手な無駄に自信満々なタイプだって思ってたんだけどさ……」


「……何なんだよ。さっきからチクチク、チクチク、鬱陶しい。言いたいことがあるのならはっきりと言ってくれよ」


 小骨が喉に刺さったみたいなトールの物言いにいい加減俺もイライラとしだしていた。沸々とした黒い感情が胸の中で湧いていた。さっきの話もよくよく思い返せばイナミ村の人たちと俺を比べる必要はないし。そんなことを考えていると――


「制服」


「はぁ?」


「制服をまだ着てることが僕の答えだよ」


「どういうことだよ?」


「言わなくても自分で気付いてるくせに。それとも気付かないフリをしているの? バレバレだけど頑張ってるんだね」


「ッ……」


 咄嗟の出来事だったが俺は表情には出さなかったはずだ。動揺は上手く隠せたはずだ。だけど、確信めいた何かを漂わせて追い詰めて来る彼のことを俺はジッと見つめる。何を考えているか読み取れない黒い瞳が今の俺には不気味に見えた。


「……いつまでもアンタは制服に固執している。それは自分が何処から来たのかを覚えていないと疎外感を感じるからだ。そして、それがアンタがここで何者にもなれていない証でしょ?」


「それ――」


「思い当たる節があるだろ? 僕と同じことをしているんだから」


「……」


 彼はそこまで言い終えるとぶかぶかな黒い制服の襟の部分で口元を隠した。何も言えずに俺は胴体を真っ二つに切断されるような衝撃を何とか噛み殺していた。言い訳のための言葉すら上手く取り繕うこともできなかった。


 俺はレインちゃんに貰ったポーチに手を当てる。左手を少し動かすとすぐに腰についているベージュ色のポーチの存在を確かめることができた。そうだ、レインちゃんからこのポーチをプレゼントされた時に俺はなぜか安心したんだ。


 肩の荷が下りる感覚とでもいえばいいのだろうか? あの日は緊張感や寂寥感もなく寝ることができた。俺が奪衣婆さんの闇市で学生鞄を買い直したのもそうだ。こっちに来てからずっとここに、リーネたちの所に居ていいのかと不安だった。


 上手く隠せていたと勘違いしていたその不安を目の前にいる少年は的確に言い当てたのだ。怒りはない、まったくない。


 ただ隠していた秘密がバレてしまった焦りとトールも俺と同じ気持ちなんじゃないかという期待が無様に膨張していく。自分の胸に抱えた不安を少しでも軽減するために同種(なかま)を見つけて傷を舐め合おうという思考に陥っていた。


 場が凍った。リーネとカツキには共感できない話なのだろう。というか二人から見たらトールに図星を突かれた俺が言葉に詰まっているように見えてるはずだ。いや、実際にそうなんだけど……


 俺が何とかしないと。何とかして話を変えないといけない。そんな風に頭は考えているのに、動揺しているせいか口が思い通りに動かない。ヤバい、ヤバい、このままでは二人にもっと気を遣わせし、場の空気が死んでしまう。いや、もう半分ぐらい手遅れな気もするけど。何か行動しないとこんな嫌な空気のまま解散になってしまう。それが一番嫌だ。俺がそんなことを考え始めた瞬間――


「ちょっと何サボってるのよ!」


 助け船が向こうの方から勝手に近づいて来た。まだ声変わりすらしてなさそうな少女の明るい声だ。


「アセビか?」


「見ればわかるでしょ! アンタ、脳までサボってるの?」


「いや、言い過ぎだろ!」


 勢い良く登場したのは角が生えた少女はアセビだった。彼女は俺たち全員の間に割って入ってきた。アセビは前回会った時と同じく、褐色の肌を惜しみなく露出させ、踊り子のように鮮やかに着飾っている。インドの民族衣装サーリーのように細く長い布を身体を包み込むみたいに纏っている。


 エルフの里も日が差さなくてかなり涼しかったが、今は長袖でちょうどいいぐらい気温が下がっているはずなのにスゴイな……


「言い過ぎじゃないし! アンタたちは着船したばかりだから忙しいはずでしょ! ってか日が暮れる前なんてうちらも一番忙しい時間だし!」


 いや、俺が困ってるかどうかなんて関係ないよな。彼女はいつも彼女らしく振舞っているだけだ。自分が働いているのに俺たちが楽し気に会話しているのを見て腹を立てて注意しに来た。それだけのことだがこの状況だとありがたい。


 明らかに雰囲気が良い方向へと変わった。アセビのいい意味で遠慮がなく、堂々とした態度が俺たちには良い影響を与えたようだ。


「久しぶりね、アセビ」


「リーネじゃん、久しぶりだし! それでアンタら二人は何しに来たんだし?」


「ロバーツに用事があってね。カツキに案内をしてもらってたの。その途中に彼がいたからカツキが紹介してくれてるのよ」


「あーこいつね」


 アセビはヒラヒラと蝶のように服を靡かせて、浅い溜息を吐きながらゆっくりとトールの顔を指さした。


「アンタ、また場の空気を悪くしてるの? いい加減にしたら?」


「……別に、関係ないだろ」


「関係ないわけないし! いい迷惑だし!」


 トールは口元をさらに深く隠し、怒るアセビから目を逸らした。え、大丈夫かと一瞬だけ心配したがカツキの様子を見ると非常に落ち着いている。この二人が揉めるのはいつものことらしい。考えてみれば確かに相性が悪そうだな。


「落ち着けって二人とも、一応客人の――」


「うちは落ち着いてるし!」


「黙っててよ」


「……あぁ、言葉が強いな。毎回、毎回、顔を合わせると飽きずに喧嘩ばかり。前々から思っていたけどアンタら本当は仲が良いんじゃないか? 裏で二人っきりで打ち合わせとかしてるんだろ?」


「はぁ⁉ こんな捻くれたヤツと仲が良いわけないし! あと、カツキもあんまし人前で勘違いをされるようなことは言わないでくれる。うちが好きなのはヒビキだけだし! 死んでもヒビキ一筋だし!」


「……アホくさ。バカバカしくなってきた」


 そういうとトールは俺たちに背中を向けて立ち去るために歩を進めていた。彼の瞳には確かに俺の姿が映ったはずなのに、一瞬たりとも止まることがなかった。さっきの会話の中でもう完全に俺の値踏みを済ませていたようだ。彼にとっての俺はもう路傍の石が視界に入った程度の認識になったのだろう。


 そう考えてしまうほどに彼の瞳からは俺への興味が読み取れない。この時から俺の存在は彼の中で認識すらされなくなっていたのだ。彼との短い対話の中で彼の中の地雷を踏み抜いたりなど、何か致命的な失敗をした覚えはない。だけど、彼の頭の中で俺の存在はゲームのモブ。大多数の中の一人。いや、それだとまだいいが最悪の場合、彼の記憶からすぐに消された透明人間になっているかもしれない。


「アンタどこ行くの! 自己紹介がまだ終わってないでしょ! 戻ってくるし!」


 人混みに消えようとするトールの背中に向かってアセビはそう呼び止めた。しかし、彼は足を止めない。これ以上、俺たちに構うこと自体が億劫なのか足は止めない。だけど、その代わり、彼は一瞬だけ本当に嫌そうな顔をこちらに見せて――


「……ッ、坂本徹。高知出身」


「あ、こら!」


「それで終わりかよ。トール、おーい!」


 そう短く告げた。そして足早にこの場を去ってしまった。彼の背中をしばらくの間ずっと見ていたが人混みに紛れた瞬間、彼の姿を見失ってしまった。


 見失ってしまったものは仕方がない。俺は思考をトールからきっぱりと切り替えて今ここにいる面々と話を続けようとしたが――小さな疑問が生まれてしまった。


 いや、待て。可笑しい。学生服なんて目立つ格好が人混みに紛れたぐらいで見失うわけがない。俺だって街中で目立つとリーネたちから指摘をされて困っていたのだ。それに船乗りや野蛮人みたいな恰好をしているだらけの船上で彼の姿を普通は見落とすわけがない。というか彼は高知県出身だったのか。さすがに四国には行ったことないな……


「……自分で自分の世界を狭めるのがトールの悪い癖だよな」


「知らないし。ってかどうでもいいし」


「あら、仲が良くないって言っていた割に彼のことは気に掛けているのね」


「はぁ? 当たり前だし。うちはこの船の古株でセンパイなんだし、後輩の面倒を見るのは当然のことだし。ただ、アイツが性根が捻くれてて根暗なんだけだし。機嫌が悪いと態度にすぐ出て人に当たるようなヤツなの。ガキじゃないんだから自分の機嫌は自分で取れし!」


「そうなの? アセビがそこまで言い切るのなら彼にも直さないといけないところはあるみたいね。でも根暗なのはあまり関係ないと思うわよ? 気質や個性、言い換えればしっかりとした軸のある人は立派だと思うわよ。それに根暗でも綺麗な花を咲かせられるわ。結局、最後はその人の頑張り次第よ」


「それって――いや、なんでもない」


「……たぶんそういう前向きなところが苦手なんでしょうね」


「え、何が?」


 彼の肩を持つわけではないが、リーネの言い分は現世で頑張っても結果を出せなかった経験がある俺の胸もついでに抉る厳しい意見だと思う。いや、お前の頑張りが足りないだけだの成功した人はお前以上に努力してるだのというっていう正論は一度すべて抜きにしても、”綺麗な花”と誰かと比べている時点で誰も幸せになれないと俺は思う。これはただの負け犬の遠吠えだな。


「何でもないです。そんなことよりも気を取り直して船長の部屋に案内しますよ。あ、後でみなさんで遺跡の内部を見ていきますか? ジンも多少は気になっているだろ?」


「うん? ああ、そうだな」


「それは面白そうね!」


「そうでしょう、そうでしょう。なら、リーネル船長とうちの船長の話し合いが終わってからになりますかね。オレも付き合いますよ――イタッ!」


「アンタらはさっさと仕事に戻れし! アンタを頼ってるうちの新入りたちが困ってるから!」


 カツキが言い終わるよりも速くアセビの蹴りが彼の尻を目掛けて飛んでいった。お冠みたいだ。


「あー、悪かったって。痛いな。まあ、そういうことみたいだからオレもリーネル船長を船長室に送ったら仕事に戻るよ」


「ああ、気を付けろよ」


「アンタもさっさと戻るし! さもないとアリアに後で言い付けるし!」


「それはマジで勘弁してくれ」


 蹴られた痛みを誤魔化すように尻をさすりながらカツキはリーネを先導し始めた。俺はもう二人に付いていく理由がなくなったみたいだ。いや、もともと二人の後を付いていく理由なんてなかったけど……


 綺麗に二人組に別れた俺たちは、いや、主に俺はアセビに尻を叩かれながら着船の手伝いをするためにシュテンたちのところへと帰ることにした。


 その途中、カツキが言っていた遺跡が目に入った。風化によって遺跡の全貌は見る影もなくなっている。というか遺跡の大部分が海水に飲み込まれているせいでどこまで内部に入れるのか見当もつかない。


 エルフの里では見ているだけで魅了されて息を呑むような感じだった。エルフ族とシュティレ大森林が持っている美しさが調和した結果生み出された胸を締め付けられるような雰囲気があった。


 そして目の前の古代ドワーフの遺跡にも質は違うが厳かな雰囲気がある。人工物にしかだせない複雑で綺麗な曲線美などが長年の風化によって自然の一部に飲み込まれてしまった。ポストアポカリプス的な風景とでも評すればいいのか。建造物が自然と一体化してしまったかのような退廃的で、立ち入ってはいけない重々しい空気感がある。


 古代ドワーフの遺跡はロバーツさんたちが目的としている人喰い迷宮とは全くと関係ないはずだ。だけど、俺たちはこれからカツキに案内されてあそこに行く。そのことを意識した時にはもうみんなの前でトールに図星を突かれたせいで焦りも疎外感のせいで生じていた不安もなくなっていた。


 俺は禁忌を侵しているかのような背徳感を背中に覚えながらも、ドキドキとした興奮気味な心音を落ち着かせることができなかった。


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