第二十話 『海賊たち』
エルフの里に向かうため、俺たちは禊木町にあるいつもの港にいた。法螺貝のような低い汽笛の音が腹の底から周囲一帯に鳴り渡る。これは最終点検の合図だ。汽笛の音は、どうしてこんなにも俺の感情を高ぶらせるのだろう。
昨日ヒビキから貰った”鷲獅子の爪痕”を腰に下げて、俺は腹の底から心を震わせるような汽笛の音に耳を澄ましていた。
一週間ぶりに乗った船はそれほど時間が経っていないはずなのに、懐かしく感じる。いや、それも当然だよな。俺は黄泉の国に来てから二週間、ほとんどを船の上で過ごしていたんだ。それに禊木町での暮らしは快適だったがまともに外出したのは三日だけ。はっきりと言ってしまえば、まだ愛着がない。あの街での思い出は、まだほとんどないのだ。
「”黒爪”はどうですか? 気に入ってくれましたか?」
船尾で耳を澄まして汽笛の音を聞いていた俺に、ヒビキが話しかけてきた。
「……ヒビキも諦めが悪いな、この剣の名前は多数決で”鷲獅子の爪痕”に決まっただろうが。もうその名前で登録を済ませたんだから諦めろよ」
あの剣の名前は最終的に候補に挙がった中で四人で多数決をして決まった。俺と親方が”鷲獅子の爪痕”でヒビキが”黒爪”を選んだ。
そして、驚くことに県の生みの親である黒之助さんは無投票だった。黒之助さんは自分で打った刀剣にそこまでの思い入れがないようで、最後まで無言を貫いていた。まさかこの短期間で、ドレークさんよりも愛想がない人間に出会うとは思わなかった。
正直、初めて『エルフ』という単語を聞いたときよりも驚いた。
「いえいえ、ボクはまだ諦めていないですよ。後世にはきっと”鷲獅子の爪痕”ではなく”黒爪”として語り継がれていることでしょう」
「後世って……そんなに有名にならないだろ。俺の剣なんだろ?」
「謙遜はいりませんよ。ジン君はあんなにも足掻いてグリフォンの巣から生き延びたじゃないですか」
足掻いて、か……
あれは運が良かっただけだ。あんなのは所詮、偶然だ。これは謙虚でも、謙遜でもなくて、ただの事実だ。生き延びたと言っても、俺がしたことといえば、グリフォンの背中に半泣きのまましがみついていただけだ。ただ、自分の不注意で無様な姿を晒しただけ。誇れることなんて、何もない。
「そうですね。では、いつもいつも小さなことで悩んでいるジン君のために、先輩として二度目のアドバイスをあげましょうか。問いかけというわけではないのですが、ジン君はボクが敵に回したくない相手って、どんな人だと思いますか?」
ヒビキは初めて出会った時と同じような調子で、さらりとそんなことを言ってきた。
「いや知らないけど……というか、ヒビキでも敵に回したくない人がいることに驚きだよ。斬れるなら、何でもいいとかいいそうだろ。……まあ、無難に。覚悟を決めた人とかそんなんじゃないのか?」
「惜しい、不正解です。正解は――諦めが悪い人です」
その答えに、俺は素直に驚いた。適当にそれっぽい答えを言っただけだったが、ヒビキのことだがら才能がある人とか、強い人とか、そんな答えが返ってくると思っていた。俺が見てきたヒビキという人間の口からは諦めが悪い人なんて、答えを返してくるようには思えなかったのだ。
「覚悟を決めた者というのは、端的に言えば分かりやすいのです。息が荒くなったり、隠していた癖が出たり、一刀だけに集中したり……と、思考や動きが読みやすくなってしまうべきです。そんな弱点が露呈した相手と斬り合っても面白味なんてものはありません。そもそも覚悟なんて、戦う前からしておくものです。戦いの中で覚悟を固める者は、二流と呼ばざるを得ません」
ヒビキの語りが白熱する。言葉に力が宿り、熱を帯び始める。
「ボクにとって最後に苦戦したのは、あれ何年前でしたっけ? ……そうだ、思い出しました。あれは柳ノ大路の人通りが少ない通りで、十二人に囲まれたときでした。そのとき、最後に斬った一人に苦戦しましたね。片腕を斬り落としたはずなのに、砂で目潰しをしてきたり、刀を捨て投石をしてきたり……とにかく相手をしていて面倒くさかったです。最後は桐ノ大路で首を刎ねましたが、あれは苦戦させられましたね。諦めが悪い人――足掻く者と言った方がいいかもしれません。そこは、この前のジン君と同じですね……」
いや、怖えよ。何で殺した人間の事をうっとりとした表情で思い出しながら、俺の名前を出してくるんだよ。というか、当たり前のように人の首を刎ねた話なんてするんじゃない。人の首を刎ねるなんて剣を手に入れた今でも想像できないし、想像したくもない。
「さてと、ボクの昔話はここまでにして、ボクが言いたかったのは、ジン君がグリフォンに抵抗して諦めなかった姿を見て、高く評価したということです。このままいけば将来、ジン君はボクに匹敵するぐらいの名声を得ているかもしれませんね。英雄も賢者も生まれたときはただの人です。誰よりも優れた者が名を残すのではなく、何かを成した者だけが歴史に名を残せるのですよ。ひょっとすると、ボクのライバルになるのはジン君のような人物なのかもしれません」
「……そうか、頭の片隅ぐらいには入れておくよ」
名声を得るなんて、俺には次元の違いすぎる話にしか聞こえない。歴史に名を刻む偉人っていうのは、ただ頑張れる人じゃなくて、夢や目標に向かって頑張れる人のことなんだよ。その点、ヒビキは目標があって、いつも努力している。俺の考える偉人の最低条件には、ちゃんと当てはまっている。俺とは違って。
そんなことを考えていると、ズボンのまだ慣れない重量に違和感を感じて視線を向ける。太腿には自腹で買った安い短剣。腰には深海のように全てを飲み込む漆黒の剣を携えている。グリフォンの爪を混ぜて作ったらしい、剣の光沢は俺の顔の毛穴まで反射して見える。
「なあ、ヒビキ。剣を買ってくれて嬉しかったけど本当にこんな高い剣を買ってもらってよかったのか? 俺は初心者なんだからこの短剣みたいにもっと安いのでもよかったんじゃないのか?」
「何を言っているんですか、ジン君。最初こそが肝心なんですよ。弘法も筆を誤るし、河童も川に流されるものなんです。初心者がいい道具を使わずに道を極めることができると思いますか? あ、そうだ。せっかくなのでジン君もこの機会に剣の道を極めてみてはどうですか。実際に剣を持ってみるとやる気がでるでしょう?」
「……その程度で出るやる気はやる気とは言わない。気まぐれって言うんだよ」
「そうですか。まあ、いいです。それにそれは呪具や業物ではないので値段は気にしなくても大丈夫ですよ。初心者にしては奮発した程度でしょう」
「……ちょっと待て、『呪具』ってなんだよ。また知らない単語がでてきたんだけど」
こっちに来てからこんなことばっかりだ。知らない単語が、当たり前のようにバンバンと出てくる。だから俺は、日常的に起きるので知らない単語がでてきたら絶対に理解するまで聞き返している。そうじゃないと会話についていけない。『聞くは一時の恥聞かぬは一生の恥』と言うけれど、本当にその通りだと思う。俺は馬鹿のままで恥をかきたくない。
「ああ、昨日話せば良かったですね。ではいまから『呪具』と『魔剣』と『神具』について話をしておきましょうか」
呪具について聞いたら、何か増えたんだけど。いや、とりあえず大人しく聞いておこう。
「呪具とはですね。と―――」
「お兄さん、少しいいですか?」
ヒビキが意気揚々と話し始めようとしたところで、背後からレインちゃんに口を挟まれた。二人で船尾に突っ立っているので、いつ誰が来ても問題はないけど……今は、タイミングが悪い。ヒビキが明らかに興が削がれたって顔になった。
「リーネがお兄さんを呼んでいますよ。なんでも、皆さんと顔を繋いでおいて欲しいので、こっちの船に来て欲しいとのことです」
そう言うと、レインちゃんは隣の商船を指をさした。旗には、両翼を広げて羽搏く鷹が描かれた商船だ。その、商船は俺が乗っているリーネの船が小さくなるほどデカい。三倍はあるかもしれない。豪華客船のように一流の技師によって装飾されている。見ているだけで、貧乏性を再発しそうだ。
そんな商船を指さされても、どうすればいいのか分からない。行けということなのは分かるが、あんな船に勝手に乗ったら警察に捕まるんじゃないだろうか?
そんな不安を、二人に無言でぶつける。交互に二人の顔を見ながら、「一緒についてきてくれないか?」と目で訴えかけていると……
「ボクはいいです。彼らには、どうせまた何時でも会えますしね。それにあまり大勢で行くのは迷惑になるかもしれません」
「そうですね。お兄さん、頑張って行ってきて下さい!」
いや、レインちゃんはただ行きたくないだけなんじゃ?
というか、ヒビキも途中で話を切られて不機嫌になっているだけだろ。さっきまでと違って、顔が拗ねたようにムスッとしている。雰囲気が拗ねている。でもまあ。ヒビキたちが言っていることも正論だ。デカい船とはいえ、あまり大人数で押しかけるのは迷惑だろう。仕方がないので、リーネに指名された俺がトボトボと足音を立てて船を降りた。
もう何でもいいけど、帰ってきたら機嫌取りを兼ねて、ヒビキから呪具について教えてもらおう。
※※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※ ※
近くで見たら迫力がすごいな……
豪華客船のようにデカい船は一隻の船には有り得ないほどのコストがかかっているのが分かる。この船にかけられた費用がどれぐらいのものなのかただの学生だった俺には予想すらできない。
ただ俺が生涯かけて働いていても買うことができないのは確かだろう。
横に並ぶリーネとドレークさんの船は標準的な大きさなはずなのにとても小さく見えてしまう。それほどの船だ。
そんな商船を俺は服装で私は金持ちな商人ですと表現しているような男に案内されながら移動している。偏見かもしれないが何で金持ちというのはジャラジャラと多くの小物を身に着けるのだろう。あれって邪魔じゃないのか?
いや、ファッションは我慢というなら邪魔でもこの男は我慢しているだけかもしれない。もしそうならば少しだけ同情してしまう。
そんなことを考えながら目の前を歩く嫌味ったらしい男にリーネのもとまで案内をされている。顔から人の好さが滲んでいるが実際に話していると鼻につく。そんな男だ。だから俺は話をすべて聞き流し、たまに相槌をするだけのマシーンになって大人しくついていく。
……レインちゃんが来なかった理由が分かった気がする。
だが、ここで帰ってリーネたちに迷惑をかけるわけにはいかないと我慢して歩いていく。やっぱりこういう人付き合いってどこでも面倒くさいものなんだな。
そうこうしているうちに人の行き来が激しくなってきた。この船の甲板の中央に近づいてきたのだ。案内をしてくれていた男も「あそこに社長が居りますので、それでは私も仕事に戻らせていただきます。また次の機会でもあればもう少しお話しに付き合ってください」と言って静かに帰っていった。
俺はそれを貼り付けた笑顔で見送り、教えてもらった船首の辺りに歩いていった。というか船長という生き物は船首にいないといけない病気でもあるのだろうか。そういえばリーネもいつも船首で腕を組んで立っている。
いや、絶対に違うな。エルフだのドワーフだの鬼だのと色々な種族がいることは分かったが船首にいないといけない生き物なんていない。……いないよな?
まあ、そんな馬鹿な考えは置いておき不可解なことが一つある。不思議なことと言ってもいい。
甲板は働いている人たちで溢れかえっているのに船首に近づくにつれて人がいなくなっている。不自然なまでにいなくなっているのだ。
ヘンリーさんによく教育されているのか、それとも別の理由があるのか……
百日紅の幹肌のようにツルツルと手触りの良い手擦りを伝って船首に着いた。
バカデカい船だからか先頭まで歩いていくのにも時間がかかる。この非効率さは見栄っ張りなこの商船の唯一の欠点だと思う。
軽く袖で汗を拭った。
船首には円卓の机を除いてなにもない。だがかなり広い。体感的には教室二つ分ぐらいはあるだろうか?
「あ、やっと来た。ジン、こっちよ。こっちに来てちょうだい!」
円卓の机には五つの椅子があり、五角形の頂点と同じ場所に置かれている。その中の一つに座っていたリーネが手を挙げて俺のことを呼んでいた。後ろにはシュテンとアリアさんが立っている。
「………」
「リーネル。現世から来た青年というのは彼のことですか?」
「そうよ、やっと紹介できるわね。彼が私の海賊団の新入り、ジンよ」
リーネの声に反応して視界に入っていなかったが、リーネの対面と右隣りにはドレークさんと俺の知らない壮年の男が座っていた。
ドレークさんと初めて会った時には金色の鬣を持つ獅子を連想したが、ドレークさんが獅子ならこの男は鷹だ。猛禽類のように鋭い金色の目に嘴のように高い鼻、赤茶色の髪を持つこの男は俺の予想が確かなら……
「もしかしてヘンリーさんですか?」
「おや、知っているのですか…」
ヘンリーさんはご貴族様のような気品のある服装に身を包んでいて、俺の出会ってきた海賊たちとは違い線が細い。海賊よりも商人というイメージに近いかもしれない。
「……貴方が現世から来たと証明できるものを持っていませんか?」
「え、はい?」
「ですから貴方が現世から来たと証明できるものを持っていませんか?」
俺の聞き間違いだと思って聞き直したが、同じ返答だった
いきなり疑われるとは思っていなかった。だいぶ新鮮な反応だ。
「……えっと、あ、そうだ。財布の中に学生証が入っています。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
俺は後ろポケットに入れていた財布を丁寧に渡した。
するとヘンリーさんは躊躇なく財布の中身を物色し始めた。というか人の財布を勝手に開けてるよ……
「これが現世の貨幣ですか? こっちが紙幣というものですね」
「はい、そうです」
「しばらく貸していただけませんか? できれば財布ごと」
「……いいですけど」
ヘンリーさんの鷹のように鋭い目に見つめられると顔が勝手に縦に頷いてしまう。いや、現世から持ってこれた数少ない思い出の品をできれば人に貸したくはないんだけど。
まあ、いいか。どうせ入っているのは使い道がない小銭に水に濡れて皺くちゃなお札だけだ。もし返してくれなかったら心の中で借りパク野郎と呼び続けることにしよう。そうしよう。
いや、それよりもドレークさんがいるならグリフォンの巣で助けてくれたお礼を言わないといけないと思ってたんだ。あの後時間がなかったから。
「あとドレークさんもお久しぶりです、この間はグリフォンから守ってくれてありがとうございました」
「………ああ、構わない」
この人もこの人で変わらないな。
いや、まあそれよりもどうしてもヘンリーさんの後ろに立っている女性に目が行ってしまう。アリアさんとシュテンのように立っているが普通ではない。なんでメイド服を着ているのだろう?
俺の視線に気付いたのかメイド服を着た褐色肌の女性は――
「ご挨拶申し上げます。ヘンリー商会のプリマスと申します。以後お見知りおきを」
片足を浅く後ろに引き、両手でスカートの裾をつまむように軽く持ち上げて会釈をしてきた。
そこじゃなくて何でメイド服を着ているのかを知りたかったんですけど。
もしかしてメイド服を着せているのはもしかしたらヘンリーさんの趣味なのか? いやだとしたらこの人は公然に自分の性癖を晒していることになるが……いや、考えるのを止めよう。敬意が濁る。
「おい、お前がリーネの所の新入りなのかよ、噂とは随分とちげぇな?」
背後から突然首に手を回された。もたれかかるように体重をかけてきたので振り返ると男がいた。音も立てずに船首に現れたのは酒臭い男だった。
「エドワード遅刻ですよ。さっさと席に座りなさい」
「相変わらず細けぇことばかり言ってんなヘンリー。ただ酒をいくつか貰ってきたさけだろうが。それに遅刻って言うなら俺じゃなくてロバートの奴だ。あの馬鹿の船まだ港にすら着いていねぇんだからよ!」
エドワードさんは見せつけるように数本の酒瓶を片手で持ち「おまぇも飲むか?」と突き付けたが、ヘンリーさんが酒瓶のラベルを確認すると「……よくそんな癖のある酒が飲めますね」と言って突き返した。意外と仲は良さそうだ。
そんな光景を黙って見守っていたが、エドワードさんの発言の中に気になることがあった。
「あのエドワードさん、噂って……」
「ああ、グリフォンの背中に跨って大暴れしたんだって? 見かけによらず逞しいじゃねぇか、気に入ったぜ? ウチの船に来るか?」
エドワードさんは酒瓶を片手にカッカッカッと上機嫌に笑った。
というか誰がそんなことを言ったんだよそんなこと。噂にしても誇張しすぎだ。グリフォンの巣で大暴れってどんな化け物ができるんだよそんな……いや、そういえば身内にいたはそんな化け物が。
「ダメよ、エド。私の海賊団の一員なんだから引き抜かないで!」
「あぁ、バレちまったな。そんな顔すんなって、悪かったよ。冗談だ、冗談。おめぇも本気にしてねぇだろ? えっと……」
「……ジンだ」
「そうそうジンって名前だったなぁ! こんなオッサンの船なんかよりも美人が船長をしている船の方がいいよな。アリアだっているしよ!」
「あら、口が上手いじゃない。それに免じてさっきのことは忘れてあげるわ」
「それだけで生きてきたからな。だが、この程度の世辞で喜んでいるようじゃリーネもまだまだガキみてぇだなぁ?」
「なんですって? あなたはいつも一言多いのよ!」
「おいおい、睨むなよ傷つくだろうが。それにいい女になりてぇならアリアを見習えよ。あいつを褒めても顔色一つ変わってねぇ、言われ慣れてんだよ」
「……確かにそうね」
「だろ? アリアは人から言われ慣れてるから反応が薄い。お前はガキで言われ慣れてないから喜んだ。いいか、リーネ。褒め言葉一つに一喜一憂しないその余裕こそがいい女の証だ。覚えとけよ」
「…わざわざそれを口にするのはいい男のすることではありませんよ」
「そいつは確かにそうだ。オレが悪かった。許してくれよ。いい女なんだから」
さっきまでは静かだった円卓の机はエドワードさんがこの中に加わったことで賑やかになった。
エドワードさんは剃り残した固そうな無精髭と日に焼けた浅黒い肌をした建設系の仕事をしている親戚のおじさんというイメージが似合う気安そうな人物だった。ただ全身に拳銃をこれでもかというほど巻き付けていることを除いては。
「よ、ジン。久しぶりだな。……お、なんかカッコいいもん持ってんじゃねぇか! とてもよく似合ってるぞ?」
「カツキ! 久しぶりだな。なんでこんなところにいるんだ?」
俺とカツキは顔を合わせると同時に握手をしていた。
俺がグリフォンの巣で気を失った後に姿が見えないから心配していたのだがあっさりと顔を見せてきた。ヒビキからは「カツキには怪我はなかったので安心してください」と伝えられてはいたがやはり心配だった。元気そうで良かった。
「あんたらと同じ理由だと思うぜ、まあうちの船長はまだ来てないみたいだけど」
そう答えるとカツキはまだ埋まっていない円卓の机の最後の一席を見て溜息をついた。そういえばまだ来ていない人がいた。ロバーツさんというカツキのところの船長だ。
みんなの反応からしていつも遅れているのだろう。エドワードさんたちだけでもお腹がいっぱいなのでこれ以上キャラが濃いのは来て欲しくない。そんなことを考えていると
「いや、もう着いてるぜ!!」
デカい声がどこからか聞こえてきた。いや、船の外側だ。
俺が急いで船の外側に視線を向けるが有り得ないと即座に判断した。なぜならそっちは海が広がる方角だったからだ。
気のせいかと視線を逸らして、再び声のした方向を探そうとすると
――視界の端で何かが勢い良く飛び上がってきた。
その何かは荒々しく手擦りに着地した。これは人だ。この人がロバーツさんだ。そう判断できたのはカツキの呆れた眼差しのおかげだった。
荒々しく獰猛なその跳躍はヒビキのような優雅さの欠片もない。だが確かに人を魅了する何かがある。動物を引き付ける原始的な力があるのだ。
そして、そんな派手な跳躍をかました張本人は眼帯の位置を気にしながら……
「悪いな、遅くなっちまった!」
丈夫そうな白い歯を見せて、楽しそうに笑っていた。