第四話 養子の実力
時刻は午後三時半。
放課後――エイトが学校を出ると、校門前で昭伍が待っていた。
「エイト、今日暇か? 久しぶりにカラオケ行かないか?」
「いいけど、今日はバイトない感じ?」
「そそ! 貴重な休みは遊びに使わないとな!」
校門を抜け、帰路とは逆の方向へ足を運ぼうとする。
「ぁ…………」
「?」
エイトが足を止め、何かを見ていた。
気になった昭伍は視線の先を向くと、自分たちとは反対方向を歩いている三咲の姿が。
「…………あっ、お疲れ様です! 店長ですか?」
「!?」
すると突然、昭伍がスマホを取り出してバイト先の店長と話す――フリを始めた。
わざとらしい発音と動きから、演技である事をエイトは一瞬でわかった。
「うぇ!? 今からですか!? ……かしこまりましたぁ…………」
「ど、どういうつもり――」
「悪いエイト! ど~しても人手が足りないらしいから、カラオケはまた今度な!」
「おい昭伍!?」
昭伍はエイトの言葉を無視して、先を走り始めた。
(……昭伍に変な気を使わせてしまった。今度のカラオケ、奢るか)
とはいえ、折角くれた機会を無駄にするわけにはいかないと、エイトは三咲の元へ駆け寄る。
「三咲先輩! 一緒してもいいですか?」
「エイト…………構わないけど」
「ありがとうございます!」
二人は横に並んで帰路を歩き始める。
「そういえばあの後、紗菜先輩は大丈夫でしたか?」
昼休み、エイトから衝撃の事実を知った紗菜が気絶したため、彼女を保健室まで運んでいたのだ。
「もう大丈夫だと思う。『一人になりたい』って先に帰ってったけど」
「ほ、本当に大丈夫なんですかね……」
「でもわからない。助けてくれた人がエイトの父さんだと、悪いことでもあるの?」
「あぁ……多分ですけど、父さんに惚れたんだと思います。父さん、かなりのイケメンだから」
「……写真とか、あったりする?」
「確か……」
エイトはスマホを取り出し、一樹が映っている写真を三咲に見せる。
その写真は、高校の入学式の時に撮ったもの。入学式の立て看板を挟んで並ぶその姿は親子と言うより、兄弟という感じだった。
「…………あんまり似てないね」
「まぁ、血のつながりはないですから」
エイトは苦笑を浮かべる。
「自分の父親ながら、イケメンなのは間違いないな……隣に立つと自分に自信がなくなりますね……」
「……エイトも悪くないと思うけど」
「え…………えぇ!?」
三咲の思わぬ言葉に、エイトは思わず身を引いた。
「?」
エイトが取った行動が理解できず、三咲は首を傾げる。
「そう言ってくれるなら、嬉しいけど…………!」
(落ち着け! 顔がいいのと先輩の好みは別だ! それにきっと……先輩は何かを好きになる感情も、麻痺してると思うし……)
「どうしたの?」
「いえ! なんでもないですよ!?」
エイトは変なイントネーションで受け答えした。
「? そう…………」
三咲は再び歩み始める。
エイトは置いて行かれないように後に続こうとした。
「ッ!?」
その時、エイトの頭の横を通り過ぎる、一匹の虫に気づく。
――夢に出てくる、藍色の羽をした蝶。
ただ夢の時とは異なり、普通の蝶と同じサイズをしていた。
(これは、何を意味して――!?)
エイトは蝶が来たと思われる後ろを向くと、そこには体の大きな【アニマ】の姿が。
恐竜の頭をしてる中、全身は蜘蛛のような姿をしており、一周回って不気味さが消えている【アニマ】。
その【アニマ】がもう突進しており、何故かエイトを無視して三咲に噛みつこうとしていた。
「《リベレイト》――【サザンカ】!」
エイトは瞬時に力を解放し、三咲の後ろに立って【アニマ】の頭を日本刀で斬ろうとする。
【アニマ】の頭部は堅く斬ることは出来なかったが、攻撃を防ぐことは出来た。
エイトは刀で【アニマ】の頭を抑えたまま、右足で【アニマ】の体を横に蹴り飛ばす。【アニマ】は体を引き摺られていくように、人気のない横の道に吹き飛んでいく。力を解放することで身体能力も上昇するが、エイトは幼い頃から一樹に鍛えられ、並の《リベラ》とは比にならない高い戦闘力を持っていた。
「先輩!」
「?」
エイトに呼ばれ、立ち止まって振り向く三咲。一般人には《テルム》も見えないため、ただ横に体を向けているエイトの姿だけ目に映っていた。
「俺、用事を思い出したので、先に帰ってください!」
「……わかった」
三咲は言われたとおり、先に帰路を歩き始める。その様子を確認したエイトは、【アニマ】の元へ駆け出す。
――グォオ!!
【アニマ】は雄叫びを上げながら二本の前足を触手のように伸ばし、エイトの体を貫こうとする。エイトは前進しながら左右に避け、高く跳躍した。
すると、何もなかった【アニマ】の背中から触手が生え、宙を舞っているエイトへ向けて伸ばし始める。
「はぁ――!!」
不意打ちにあたる【アニマ】の攻撃だったが、エイトはまるで最初からわかっていたかのように刀で触手を受け流し、そのまま触手を伝って移動し、勢いに身を任せて【アニマ】の背中を斬り開いた。
エイトは【アニマ】の後ろに着地し、自分の目で攻撃が成功したことを確認する。
「――んげッ!!」
【アニマ】の背中は柔らかく、斬り開くことには成功していた。それが致命傷になり、【アニマ】の体が崩れ落ちているのも確認出来る。しかし、斬り開いた背中から、大量の小さな【アニマ】が溢れだし、エイトに向かって動き出していた。
小さな【アニマ】は同じく蜘蛛の体をしていたが、幼体なためか頭だけがなかった。
「ここまでは視えないって!」
エイトが慌てて刀を構える。
「《リベレイト》――【グラジオラス】!!」
【アニマ】たちの背後から聞き覚えのある男の声が聞こえてくる。
すると、高く跳躍している赤髪の少年が見えた。
「昭伍!?」
それは、エイトに気を使って離脱した昭伍であった。
昭伍の両手には鋼のグローブ。それが、彼の《テルム》だ。
「おらよ!」
昭伍は宙を舞ったまま右手を広げて前に突き出すと、【アニマ】たちの動きが止まり、その周囲の地面が沈下する。
彼の能力は【重力操作】。【アニマ】周辺に強い重力をかけているのだ。
「このまま潰れろ!!」
昭伍が力を入れると、【アニマ】たち全員の体が押しつぶされ、更に地面が沈下した。
【アニマ】たちは絶命し、完全に動かなくなる。
「ふぅ……来て正解だったぜ」
昭伍はエイトの前に着地した。
「昭伍! 先に帰ったんじゃないのか!?」
「やっぱバレてたか。そうするつもりだったんだが、エイトがいる方角から大きな音が聞こえてきたからな。何かあってからじゃ遅いと思って、ここに来たぜ」
互いに《テルム》を消滅させながら、昭伍は来た理由を話した。
「とはいえ、俺の能力は大胆だからなぁ……【アニマ】の死骸は数時間経てば自然と灰になって消えるが、地盤沈下はそうもいかねぇもんな…………ところで、お前の好きな先輩はどうした?」
「戦いに巻き込まれないように、先に帰らせた」
「なるほど、俺の演技が無駄になったってわけか」
昭伍が【アニマ】の死骸を見ながら頭を掻く。
「……今からでも全然遅くないし、カラオケ行く? 奢るよ」
「おっ! お前から誘ってくるのは珍しいな! 行こうぜ!!」
二人はカラオケのある方角へ歩き出していく。
「…………なるほど」
遠くにある雑居ビルの屋上から、エイトたちの戦いを見ていた男が三人。
銀髪の青年が、顎に手を当てながら興味深そうな反応を示す。
「あれが『朱雀』の養子か……見た限り、能力は『未来視』か? いや、もっと別の何かがあるはずだ……」
「ねぇ、そいつ殺していい? いいよねぇ?」
隣に立っている青髪をした十歳ほどの少年が二本のナイフの刃を擦り合わせながら、銀髪の青年に尋ねる。
「ダメだ。『朱雀』本人の力量を完全に把握出来ていない。下手に殺せば激昂した『朱雀』に組織を壊滅させられる可能性がある。それに、ボスからも養子は殺さず生け捕りにしろと命令を受けている。くれぐれも勝手な真似はするなよ」
「はーい…………」
少年は残念そうに返事をした。
「とはいえ、我々自身も動かなければデータ収集に時間がかかる……頼めるか、ペルシカム」
もう一人の青年――眼鏡をかけた黒髪の男に尋ねた。
「いいですよ……私が行きましょう」




