終話 そして少女は恋をする
「あの【アニマ】を一瞬で殺すか……侮れないな」
中巌区の古びた家の中。
謎の三人が、蟹の【アニマ】を倒すエイトの姿を、ソファに座りながら映像で見ている。
三人の内の一人、オレンジ色の髪をした男が顎に手を当てながら呟いた。
「あれを生け捕りにするってマジっすか!?」
肌の露出が高い派手な服を身に纏った、金髪の少女がオレンジ髪の男に向かってそう言った。
「組織一番の目標はそうだが、我々は『朱雀』と『死神』の抹殺だ」
そういうと、今度は蟹の【アニマ】と対峙している瑛弍に映像を切り替える。
音速の域で木刀で【アニマ】の肉体を斬りつけている。しかし、【アニマ】の肉体が硬すぎたため、大きなダメージが入っていない。
「……肉体を捉えれば、どうにかなりそうだね」
薄紫色の髪で片目を隠している少年が、ムカデのような生き物を撫でながら呟く。
「そうとは限らないぞ。『死神』は力を解放していない。『道化師』の弟であれば、非常に厄介な能力を持っているはずだ」
オレンジ髪の男が立ち上がり、窓の外を眺め始める。
「それで、どうするのスキャビー? いつ動く?」
金髪の少女が、オレンジ髪の男――スキャビーに抱きつきながら訊ねた。
「幸い、まだ期限はついていない。『朱雀』たちは今、『道化師』を殺すための準備を進めている……そのタイミングを上手く狙いたい。タイミングが早くても、遅くてもダメだ。確実に『朱雀』をやれるタイミングを……待ち続ける」
スキャビーは右手に持った弾丸を指で回しながら、彼女にそう伝えるのであった。
※
「…………」
「…………」
エイトと三咲は、駆けつけたマスコミや救急隊の目を搔い潜って北石区を抜け、東磐区の帰路を歩いていた。
遊園地に行く際は、無料のシャトルバスを使ったためそこまで時間がかからなかったが、帰りは徒歩のため、既に二時間以上経過している。
長時間の徒歩にも関わらず二人は疲れているように見えず、ここまで互いにずっと無言の状態だ。
しかし、互いに考える時間が欲しかったため、返って都合が良かった。
(……やっと、わかった)
その中で、三咲はある答えに辿りついていた。
(私は、瑛壱のことが好きだった。あの人といると、安心する。それは間違いない事実だと思う……でも、それ以上に…………エイトを悲しませたくない。エイトに喜んでほしい。私が、エイトを幸せにしたい。私は、エイトを愛したい。…………これが、本当の『恋』なんだね)
「……三咲」
「なぁに、エイト?」
名前を呼ばれ、三咲は返事を返す。
恋を自覚した三咲の声は、どこか色っぽかった。
だが、エイトが放った言葉は――――
「俺たち、別れよう」
「ぇ…………?」
三咲の芽生えた感情を滅茶苦茶にする。
「色々と考えた。俺は【アルカロイド】に狙われている。今後も、奴らからの攻撃が来る。これ以上、三咲を巻き込みたくない。俺と一緒にいると、三咲は幸せになれない」
「ぁ…………ぃぁ…………」
――そんな事はない。私はエイトと一緒にいたい。
今すぐその言葉をぶつけたかった三咲だが、ショックのあまり口が思うように動かなかった。
「俺は、三咲が幸せになることを心から願っている。でも、俺じゃ三咲を幸せにできない。幸せに出来る人が、近くにいると思うから…………だから…………」
エイトの声も震えている。
本心が別にあることが、三咲でもわかった。
「……今まで、ありがとう。本当に、ありがとう……………………………さようなら」
エイトは、帰路とは反対方向へと歩き始める。
「待っ――!?」
三咲はエイトを止めようと振り向くも、足の力が抜けて前に倒れてしまう。
「…………」
エイトはそれに気づいていないのか、そのまま歩き続ける。
「ぃや……エイト…………!」
三咲はエイトに向けて手を伸ばすも、次第に彼の姿が遠くなっていく。
「ぅ……ぅ……!!」
(どうして……どうしてなの!? いや、原因はもうわかってる)
三咲が大粒の涙を大量に流し始める。
『悲しみ』の感情に胸が押しつぶされるような感覚に襲われ、呼吸もままならなくなる。
(今まで、私はエイトを傷つける言葉を何回も言った。エイトを拒絶する行動を何回もした。エイトがいるのに、別の男を好きになった。……そのツケが、ただ回ってきただけ――)
「うっ――!!」
胃が握り潰されるような感覚に襲われ、三咲は耐えられずその場で嘔吐してしまう。
「エイ、ト…………」
三咲はそのまま意識を失うのであった――――
「………………」
一人になったエイト。
行く当てもない彼の足先は、自然と南岩区の方に向けられていた。
(おかしいな……別れたくなかったのに……滅茶苦茶嫌だったのに……)
「――涙が、出ないんだな」
エイトは、悲しんでいないように感じる自分に、薄ら笑いを浮かべる。
第三章 完




