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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第三章 反比例する少年少女
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第九話 あの日の決意

「はぁ……」


 トイレを済ませ、手を洗っているエイトがため息を吐く。


(なんか、上手く行ってないような気がする……)


 今回の遊園地デート、エイト自身上手く行ってないような感触だった。

 新しい発見はあったものの、三咲との関係が進展してるとは思えない。


(……思い切って、ホテルに――って、それは絶対にダメだ!)


 エイトは自分の頬を殴る。


(今の三咲なら、俺の言うことに従ってくれると思う……でもそれは三咲にとって『幸せ』なことにはならない。正しい感情を取り戻したときに、その思い出が『嫌な思い出』に塗り変わる可能性があるわけだ……)


「なんかズレてるな、俺……」


 自分の行動に疑問を持ち始めるエイト。

 すると、右肩に藍色の蝶が止まったのを、鏡越しに確認した。


(またこの蝶――いや待て、蝶が出てきたってことは――!?)


「エイト!」


 男子トイレに、三咲が入り込んできた。


「うぉ三咲!? 入って来たらマズいって!」

「ここから離れて! 今すぐ――」


 三咲がエイトの腕を掴もうとした瞬間――大きな爆発音とともにトイレが崩れる。


「三咲!!」

「!?」


 二人は逃げる時間もなく、瓦礫となる建物に埋もれてしまう。


「……?」


 しかし、三咲はなんともなかった。

 痛覚がないから何も感じてない――という訳ではない。

 エイトが瞬時に彼女に覆い被さり、瓦礫から守ったのだ。


「ゲホッ!!」


 それ故、まともに瓦礫を受けたエイトの体はボロボロ。思わず血を吐き、三咲の体にかけてしまう。


「エイト!? どうして!?」

「どうしてって……何が……」


 エイトは力を振り絞って瓦礫を退かすように立ち上がり、周囲を見渡す。

 他の観光客も爆発の衝撃に巻き込まれ、夢のテーマパークが一瞬で地獄と化していた。

 右足がない男に、目が潰れた幼い子供。

 大勢の被害者が出ており、その傷は見るに堪えないものばかりだ。


 ――グォーン!!


「!?」


 エイトの背後から、機械音に似た鳴き声が聞こえてくる。

 彼の後ろには、蟹のような【アニマ】がいた。

 機械のような体をしたその【アニマ】は高さ三十メートル、横が百メートル程と非常に大きな体をしていた。


(こんな大型がいきなり出現することがあるのか!? ……ともかく、三咲を守るために戦う!)


「《リベレイト》――【サザンカ】!」


 エイトは力を解放させ、日本刀を手に取る。

 それに反応したかのように、蟹の【アニマ】が巨大な手でエイトを挟もうとした。


(父さんなら弾き返せるだろうけど、俺にはそんな力はない……!)


 エイトは三咲を横抱きにし、跳躍して【アニマ】の攻撃をかわしながら下がった。


「三咲は下がってて、俺があの【アニマ】を止める!」


 エイトは【アニマ】の方に向き直り、刀を構えて駆け出す。

 それに合わせて、蟹の【アニマ】が再び手で攻撃を仕掛けてくる。


「《プロディス》――【ソード・ストリングス】」


 エイトの日本刀に、《藍色の糸》が纏わり付く。

 【アニマ】の手を日本刀の刃で受け流しながら前進する。《藍色の糸》が絡んだ刃を受けたことで、攻撃を仕掛けた【アニマ】の手が故障したように動かなくなる。

 蟹の【アニマ】はもう片方の手で攻撃を仕掛けるように見えた。エイトはそれに合わせ再び刀で受け流す体勢を取る。


「ダメ! エイト!!」

「!?」


 三咲の声が聞こえると同時に、【アニマ】の口から鉄球が放たれた。

 人を覆うほどの大きさがあるその鉄球が、エイトに向かって飛んでくる。


「!」


 『エイトがかわせない』という確信があった三咲が、素早くエイトの前に立ち、彼の代わりに受けようとする。



「――うぐッ!!」



「えっ…………?」


 しかし、不意打ちに対して三咲が前に出たにも関わらず、それに超反応したかのようにエイトが更に前に出て三咲を庇ったのだ。

 エイトが素早い反応を起こせたのは、不自然な《赤い糸》が見えていたから。

 【アルカロイド】の一員が妨害しに来ると思っていたエイトだが、三咲が庇いに来ることは読めなかった。


「どうして……!?」


 三咲は理解出来なかった。

 自分は痛みも感じず、肉体が砕けたところでエイトにその『出来事』をなかったことにすれば、誰も苦しまずに済む。そう考えていた。

 しかし、エイトは『出来事』をなかったことに出来ない自身の体を使って、自分を守ってくれる。

 激痛に襲われるどころか、死んでしまう可能性もあるのに、そこまでして自分を守るエイトの行動が理解できなかったのだ。


「能力を使えば、私を救えるのに……どうして!?」

「どうもなにも……愛する人を傷つけたくないからに決まってるだろ……!」

「私は傷ついても、痛みを――」

「三咲は痛くなくても、俺の心が痛むんだよ!!」

「!?」


 エイトの怒声に、三咲は怯む。


「三咲が……好きな人が傷つくって、辛いんだよ……」

「…………」


 二人の空気を壊すかのように、【アニマ】が腕を地面に滑らせ、崩れた瓦礫の山をエイトたちに飛ばす。

 音を聞いてそれを予測したエイトは、全身に激痛が走る中で最後の力を振り絞り、三咲を後ろに突き飛ばした。


「エイト!?」


 突き飛ばされた三咲は瓦礫を受けることはなかった。

 しかし、エイトは逃げることが出来ず瓦礫を受け、更に流れてきた瓦礫の並に埋もれてしまう。


「エイト……エイト!!」


 三咲は焦った様子でエイトが埋もれた場所に向かい、瓦礫を退かそうとする。

 彼女はまだ『普通の少女』。瓦礫を一つ退かすのに、時間がかかってしまう。

 その隙を逃さんとばかりに、蟹の【アニマ】が再び口から鉄球を、三咲の方角へ飛ばす。彼女は瓦礫を退かすことに夢中で、それに気づいていなかった。


「――危ねぇ!!」


 そこに駆けつけたのは、片桐瑛弍。

 彼が目にも止まらぬ速度で三咲を抱き抱え、鉄球が当たる前に退避したのだ。


「『アレキサンドランド』で謎の爆発事故が起きたっていうニュースを見て駆けつけたのは正解みたいだな。三咲ちゃん、エイトは?」

「あそこ……!」


 三咲はエイトが埋もれた場所へ指を差す。


「あそこに……エイトが……!」

「埋もれてるってことか!? 通りで三咲ちゃんらしくないと思った!」


 瑛弍は三咲を安全な場所へ運んだ後、エイトが埋もれている場所へ駆けつけようとする。

 それを邪魔するように、蟹の【アニマ】が腕を地面に滑らせ、再び瓦礫の波を発生させた。


「マジかよ!」


 瑛弍は高く跳躍して波をかわすが、肝心のエイトがそれに巻き込まれ、正確な居場所がわからなくなる。


「クソッ! 先にあいつを倒すしかないか!!」


 瑛弍は木刀を取り出し、蟹の【アニマ】に向かって突撃する。



   ※



「…………」


 瓦礫の中で身動きが取れなくなったエイト。

 彼の力なら頑張れば瓦礫を退かせなくもなかったが、体中に走る痛みからまともに動けずにいる。

 全身の至る所から血を流しており、このままでは出血多量で命を落とす危険もあった。


(俺、このまま死ぬのかな……)


 死を間近に感じたエイトが思い浮かべたのは――欲望。


(ここで死ぬんだったら、もっと三咲と一緒にいたかった。三咲の裸に触れていたかった。結婚して、子供も二人くらい……)


 すると、エイトの脳裏に走馬燈が走るように過去の記憶が流れてくる。

 エイトが三咲と初めて会話した、あの日の出来事が――



   ◇



「……なんか、寂しいな」


 エイトが中学生の頃の話。

 彼は屋上で一人、昼食の弁当を食べていた。彼が通う中学校は珍しく給食がない学校だ。

 普段は親友の昭伍と食べるのだが、最近学校に来ることが少なくなり、次第に一人で食べる事が当たり前となっていた。


(……あの人、学校でよくすれ違うけど……可愛いな)


 屋上にはエイトの他にもう一人、少女の姿があった。

 隅の方で縮こまっておにぎりを食べている彼女こそ、エイトが恋をした三咲だ。

 普段三咲は屋上で昼食を摂ることはないが、その日は紗菜が体調不良で休んでいたため、一人だった。


(でもなんていうか……怖いな。上級生だからっていうのもあるんだろうけど、目がドス黒いっていうか……)


 昼食を食べることを忘れて、彼女をジッと見つめるエイト。

 すると、三咲が食べかけのおにぎりを捨てるように地面に置くと、何を思ったのかフェンスを登り始める。


「ちょちょちょっと!?」


 思わずエイトは三咲を止めるため、彼女の腰を両手で掴んで制止させる。


「…………?」


 邪魔が入ったことで、三咲が登るのを諦め、地面に降りた。


「何?」

「何じゃなくて、飛び越えたらマズいですって!」

「飛び越えたいから、そうしただけ」

「死にますよ!?」

「死にたいから、そうしたの」

「!?」


 目に光がない三咲を前に、初対面でありながらエイトはその言葉を真に受ける。


「どう、して……死ぬんですか?」

「ただ死にたいだけ……でも、あなたが心配する必要はない。私は痛みを感じないから。苦しいとか、そういうのわからないから」

「えっ……?」


 自身の素性をあっけなく話す三咲に、エイトは反応に困った。


「皆が美味しく食べるおにぎりの味もわからない……自分には何もないから、心配しなくていい」


 三咲は再び、フェンスを登り始めようとする。


「…………」


 彼女を止めるため、エイトは彼女の腕を掴む。


「どうしてそこまでして止めるの? 私は私の意思で、自分を終わらせ――」



 ――バシッ!!



 三咲が振り返ると同時に、エイトが彼女の頬をはたいた。


「?」


 突然の出来事に、三咲は疑問を浮かべることしかできなかった。


「しっかりしろ!!」


 エイトが三咲の両肩を掴み、彼女の体をフェンスに押しつける。


「自分を確かに持て!! 探そうと努力すれば、きっと『自分』がみつかるから!!」


 エイトは敬語を忘れ、彼女にそう伝えた。


「……赤の他人のあなたが、私の何を知ってるの?」

「っ!?」


 三咲の正論に一瞬怯むエイトだが、彼は三咲の両肩を放さない。


「今は『赤の他人』だ。でも、先輩を救いたい俺の気持ちを否定する言葉にはならない! 俺も一緒に、先輩の『本当の自分』を探すから! だから生きてくれ! 俺のために生きてくれ!!」


 エイトは、告白と似たような言葉を三咲にぶつけた。


「!?」


 この一瞬だけ、三咲に『驚愕』の感情が戻る。

 他人に必要とされたのが、初めてだったからだ。


「もし、俺と一緒にいても『本当の自分』が見つからなかったら……その時は、俺と一緒に先輩と死ぬことにする」

「…………」


 エイトの言葉を受け取った三咲が、彼の手を優しく解いた。


「……関係ないあなたを死なせるわけにはいかない……まだ、生きようと思う」



   ◇



(――俺って最低な男だ)


 過去の記憶が溢れ出したエイト。

 次第に、体の痛みがなくなっていく。


(三咲のためを思って動いていたのに、いつの間にか俺自身の幸せを望んでいた)


 体が軽くなっていくのを、実感していく。









(三咲が幸せになるなら……幸せを実感するなら! 俺はどうなったっていいだろうが!!)









 エイトは全身に力を入れ、瓦礫を押しのけて高く跳躍した。

 その高さは蟹の【アニマ】を超える四十メートル。《リベラ》であっても、尋常じゃない高さを飛んでいた。


「エイト!?」


 【アニマ】と戦っていた瑛弍が、それを見て驚きを露わにする。

 エイトは右手に持っていた日本刀を左胸に突き刺す。

 日本刀が光を放ちながら彼の体に吸収され、背中から藍色の羽を生やした。

 同時に、本来消えないはずのエイトの傷が何もなかったかのように消えていく。



「《プロディス》――【バグズ・マシンガン】!!」



 藍色の羽から、無数の蝶がマシンガンから放たれる弾丸の如く、【アニマ】を標的に飛び出してきた。


「何だ何だぁ!?」


 瑛弍は巻き込まれないように、他所の場所へ素早く逃げる。

 蝶たちは【アニマ】の全身に引っ付き、蝶に似合わない大きな口を開け、鋭い歯を立てながら【アニマ】の体を食べ始める。

 蟹の【アニマ】は蝶を引き剥がそうと体を大きく動かし始めるも、肉体が大きい故に動きが遅く、蝶を引き剥がしても行き場がなかった別の蝶が体に引っ付くため、キリがない。

 次第に【アニマ】は悲鳴のような機械音を立てた後、動かなくなる。それに構わず蝶は【アニマ】の体を跡形もなく食べ尽くす。


 灰も残さず食べ終えた蝶は、どこかに飛んでいくように消えていった。


「…………」


 エイトは藍色の羽を使ってゆっくり地面に着地し、力を解いた。


「エイト! 大丈夫なのか!?」


 瑛弍が彼の元に駆けつける。


「俺は大丈夫です。瑛弍さんは先に帰ってください。三咲と二人きりになりたいので」


 エイトはやけに冷たく瑛弍をあしらい、三咲のいる方角へ歩いてく。


「…………あっ、遊園地出て右を曲がった先にホテルあるからな! そんじゃまたな!!」


 瑛弍がしょうもない発言を残して、この場を去った。



 その場を茶化すためではない。

 胸騒ぎを抑えるため、瑛弍は覚えた不安を誤魔化すために、そのような発言をしたのであった。

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