第七話 感情のバグ
「遊園地、なんやかんや初めてなんだよな……」
「そうなんだ……」
翌日の昼過ぎ。
エイトと三咲は、遊園地に足を運んでいた。
三咲の頬には、痣を隠すためのガーゼが張られている。
北石区の最北地にある遊園地――『アレキサンドランド』
『魔法石が存在する島』をモチーフに、綺麗な宝石の建物や架空のキャラクターが存在している。
宝石と聞くとあまり男性受けしない印象だが、遊園地の元になったのは少年漫画で、『主人公の少年たちが仲間と一緒に、魔法石の力を使って怪人と戦う』という内容だ。
ガチガチのバトル漫画で、熱い戦いや男の友情がしっかりと描かれている男性向けの漫画だ。ただ、男キャラ中心なこともあり特殊な女性陣のファンも少なくない。
昔から連載されていたため、一樹たちの世代が一番盛り上がっていたのだが、作者が『石神厄災』に巻き込まれたことで命を落とし未完の作品となってしまった。
(どうしよう……ここは無難にジェットコースターか? でも三咲が苦手だったら……)
「三咲は、苦手なやつってあったりする?」
「わからない……」
「だ、だよね…………」
予想通りの回答をした三咲。
エイトはとりあえず、ジェットコースターに乗ろうと列に並ぼうとする。
「んげ、一時間待ちか……」
しかし、人気のアトラクションであり、休日ということもあって待ちの行列が長い。
「私は構わないけど?」
「……まぁ、時間を空けると逆に混雑する時間帯になるもんな」
二人は列に並ぶことにした。
「…………」
「…………」
(わかっていたけど……この沈黙が辛い! 何か会話すること……何も、ないような……)
「エイト、大丈夫?」
「えっ!?」
三咲の方から声がかかり、エイトは驚いた声を出す。
「大丈夫? 苦しく、ない?」
「あぁ、全然大丈夫……」
「良かった……」
(三咲……紗菜先輩の言葉で変に気を遣っているように見える…………)
「……三咲」
「?」
エイトは意を決して、あの男について聞いてみる。
「デート中に聞くことじゃないってわかっているけど……瑛壱さんとはどんな感じで知り合ったの?」
「!?」
彼の問いに、三咲は動揺を見せる。
「えっと……」
三咲は迷っていた。
瑛壱のことを話すのは、エイトを苦しめる要因になるとわかっていたからだ。
「俺が聞きたいだけだから……」
「…………」
三咲は戸惑いつつも、瑛壱について話し始める。
「エイトを休ませたあの日……考え事をしていたら、人にぶつかった。その人が…………」
「瑛壱さん、なんだね」
三咲はゆっくりと頷いた。
「エイトに似てるから……それだけで、気を許してしまった……」
(似てる……か……)
エイトは瑛壱の顔を思い出す。
会ったのは一度だけ。彼が屋上に来た時のことだが、会話もせずエイトが屋上を去ったため、ほぼすれ違いのようなものだ。
それでも、顔はしっかりと覚えていた。
(似てるのか? ……本当にそうなら、なんか嫌だな)
三咲が好意を持った相手だから――ではなく、純粋にチャラい雰囲気をしている瑛壱が嫌だった。
「ぶつかったその日に、偶然彼が私のクラスに転校してきた。学校案内も紗菜と一緒にしたから、さらに仲良くなって……」
「…………」
「!? ごめん、これ以上はやめる」
「いや、別に嫌とは言ってないけど……?」
「エイト、辛そうな顔してる」
「そう、だった……?」
エイトが悲しそうな顔をしていたのは事実だが、エイト自身苦しい思いもしてなかったのも事実だ。
(確かに辛い話を聞いているのはわかっているんだけど……なんでだろう、安心している自分がいる……)
※
その頃、一樹と紗菜は南岩区に訪れていた。
二人は普通の一軒家のチャイムを鳴らす。
「はーい!」
元気よく家から出てきたのは、銀髪ツインテールの少女――四乃だ。
内津家は【アルカロイド】から身をかわすため、今は瑛弍の別荘に住んでいる。
ちなみに瑛弍の別荘は他の地区にも一軒ずつあったりする。
(えっ、色々と大きくない!? 中学生って一樹から聞いたけど……!?)
大人顔負けのグラマー体型に紗菜は思わず息を呑む。
そんな紗菜に意味深な視線を向ける一樹だが、モノローグは伏せておく。
「えっと……どちら様?」
四乃が少し怯えた顔で訊ねる。一樹たちとは初対面だ。
一樹が用件を話そうとしたところ、四乃の後ろから一人の青年がこちらに歩いてくる。
「本当に見舞いに来るとは……」
その青年は、かつてダリアと呼ばれていた聡四だ。
体の一部に包帯が巻かれていたが、自力で動けるまでに回復していた。
「オレの能力が戻ったついでに、色々と話しておきたい事があってな」
一樹は早速緑の炎で聡四の体を癒した。
「家の中は禁煙だ。悪いが、外でもいいか?」
「あぁ、構わない」
「お兄ちゃん、動けるの?」
四乃が寂しそうに聞くと、聡四が彼女の頭を撫でる。
「俺はもう大丈夫だから、少し家の中で待っててくれないか?」
「うん! わかった!」
聡四が靴を履いて外に出ると同時に、四乃が玄関の扉を閉めた。
「……彼女は一緒でいいのか?」
聡四は家の横を通って裏庭に行こうとする。
一樹たちもその後に続いていく。
「紗菜は《バーサタイル》だ。今後間違いなく【アルカロイド】に目をつけられる。一緒の方が色々と都合がいい」
「そうか……」
裏庭に回り込んだ三人。一樹は当たり前のように煙草を取り出し、火を点けて吸い始める。
「改めて、俺は内津聡四。【アルカロイド】第四部隊幹部だった」
(第四部隊……なんか、軍隊っぽい)
「第四部隊で生き残りは?」
「俺を除いて全滅した。『朱雀』と『死神』、そして『藍色』にやられた」
「オレのことは一樹でいい。オレたちは対等な仲間だ」
「……本気か? 裏切る可能性だってあるんだぞ」
「もしそうならオレはとっくに死んでいる。お前にはオレを殺せる実力がある」
「…………」
「【アルカロイド】について知りたい。有益な情報はあるか?」
「……一樹たちの抹殺に上は無茶な期限を付けてきた。第四部隊はただの捨て駒。恐らく、武闘集団の第一部隊が本命のはずだ。そろそろ奴らが動き出す。まぁ……幹部のスキャビー以外、俺たちの敵ではないと思うが」
(捨て駒!? 聡四さん、あんなに強かったのに……!?)
「【アルカロイド】の目的は『《リベラ》も平和に暮らせる世界を作ること』だ。一樹も知っていると思うが、政府はやたら《リベラ》の存在を嫌っている。石神市は平和に見えて《リベラ》の無法地帯なだけで、他の都市では政府の関係者に発見されたら殺される。俺は一樹たちとなら、その目的を果たせると思ったんだが……」
「残念だが、本来の目的は違う。奴らは『全人類を《リベラ》にすること』を目的にしている。これだけ聞くと悪くなさそうに見えるが、奴らは無能力者を皆殺しにすることで、それを実現させようとしている」
「!?」
「!?」
本来の目的を聞いた聡四と紗菜は驚く。
「その目的で一番利用できるのは【アニマ】だ。一般人に見えないことを利用すれば、世間ではただの『天災』になる。『石神厄災』はその実験に過ぎない」
「なるほど……組織内では、ただの事故扱いされていた」
「今、奴らは御島家にあった【フォンズ・アニマ】を手に入れようとしているのは、知ってるか?」
「あぁ……第四部隊の仕事ではなかったが知っている。『道化師』の妨害で上手く行ってないとも聞いている」
「その『道化師』が先に手に入れようと、オレの息子の彼女を堕とそうとしている。その前に奴を殺して阻止したいところだが、今やれば【アルカロイド】が一気に暴れる。戦争の準備を整えてから、奴を殺すつもりだ。そこで……お前も一緒に戦ってくれるか? 聡四」
一樹は吸い終えた煙草を携帯灰皿に入れ、聡四に手を差し伸べる。
「……任務に失敗した以上、【アルカロイド】に戻っても殺されるだけだ。妹のためにも、ただ死ぬ訳にはいかない。生きるためにも、俺は戦う」
聡四は一樹の手を取り、固い握手を交わした。
かつてダリアと呼ばれた青年が、本当の平和のために一樹と戦い始める。




