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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第三章 反比例する少年少女
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第五話 突きつけられる現実

「…………」


 来た道を戻ってきたエイトは、南岩区を歩いていた。


「エイト!!」


 すると、目の前から一人の少年が駆け寄ってくる。

 それは、学校を抜け出していた昭伍の姿だ。


「GPSが南岩区を指しているって一樹さんから聞いた時は驚いたが、本当にいるとはな」

「あれ、昭伍? 学校は?」

「お前がそれ言うか!? お前を連れ戻すために出て行ったに決まってんだろ。ほら行くぞ」

「あぁ……」


 二人は学校へ戻るために歩き出す。


「うっ…………!!」


 すると突然、強烈な痛みがエイトの左胸に走り、胸を抑えて膝を着く。


「エイト!? 大丈夫なのか!?」


 それに気づいた昭伍が慌てて彼の傍に駆け寄る。


「エイト! しっかりしろ!」

「っ……!!」


 心臓を何者かに強く掴まれているような感覚に全身から大量の汗を流し出し、呼吸もままならないエイト。

 やがて意識を失い、その場に倒れる――――




   ※※※




「…………!?」


 意識を取り戻したエイトが、飛び起きる。

 場所は御島家の屋敷――ではなく、星守家の自室だった。

 屋敷の方へ必要なものは全て持って行ったが、何かあってもいいようにベッドや勉強机などの必要最低限の物を一樹が買い、置いていたのだ。


(確か、気絶して……今は何時だ!?)


 エイトは枕の傍に置いてあった自分のスマホを取り出し、時刻を確認する。


「なっ…………!?」


 時刻は、七月八日の午後六時。

 エイトが気絶したのは、七月五日。

 あれから三日も経過していたのだ。


「三日…………」


 実感が湧かなかったのか、エイトはそこまで慌てた様子を見せなかった。


「――大丈夫か? エイト」


 彼に声をかけてきたのは、家の主である一樹だ。


「父さん…………」

「三日経過してて慌てると思ったんだが……大丈夫か?」

「大丈夫だよ、正直どうして意識を失ったのか、わかってないけど……」

「オレらも正確には突き止められなかった。その予想と、この三日間のことを話しておきたい。居間に来れるか?」


 エイトは頷き、一樹の背中を追って居間に辿りつく。

 居間には、星守家にすっかり馴染んでいる紗菜の姿があった。

 少し早めの夕食を食べており、溶岩をルーに使っているのかと思いたくなるほど赤いカレーを彼女は食べていた。


「エイトくん!? 大丈夫なの!?」

「はい。三日経った実感はないんですけど……体は大丈夫です」


 エイトと一樹は向かい合って椅子に座る。


「すまない、エイトの分を作ってなくてな……オレのを食べていいぞ」


 そう言って、一樹は自分のカレーをエイトに差し出す。

 紗菜が食べている物と同じく、見てるだけでも舌が辛くなるほど赤いカレー。エイトも普段なら身の危険を感じて食べるのを避けるのだが――


「ひ、一口だけ……いただこうかな」


 実家の味を思い出そうと、エイトは一口だけカレーを食べる。


「…………?」


 腹を決めていたエイトだが、カレーは全く辛くなかった。

 それどころか、カレーの美味しさも感じない。


「何も、感じてない――って顔だな」

「!?」


 それを一樹に見抜かれ、エイトは思わずスプーンを落とした。


「とある使用人から話を聞いてな――」


(それ絶対楓のことじゃん……)


「料理の味付けが不安定なことを聞いた。オレは信じられなかったが、今回で確信に変わった。エイト……味覚がなくなってきてるだろ?」

「そんな、ことは…………」


 否定しようとしたエイト。

 しかし、これまでの違和感や楓からの指摘を思い返し、エイトは否定を口に出来なかった。


「……言われるまで、気づかなかった」

「オレはこれを能力の代償と考えているんだが、他に違和感はあるか?」

「……わからない」

「そうか……代償が『味覚を失う』だけとは思えない。能力を使うのであれば今後はより覚悟を決めた方がいい」


 一樹は敢えて『能力を使うな』と言わなかった。

 制限をかけることでストレスになり、そこから代償の症状が悪化する可能性もあったから。それこそ一樹は、ストレスが能力の代償に拍車をかけていると考えていた。


「ところで父さん。どうして、俺は実家のベッドで寝かされていたの?」

「昭伍から連絡を受けて駆けつけたのがオレだから――というのもあるが、症状に心当たりがあったからこちらで預かった。医者に頼んでも症状を改善できるものではないからな」

「…………三咲は?」

「見舞いには来ていない…………」


 一樹はわざと間を作るように、煙草に火を点けて吸い始める。


「……やっぱり、もう俺には…………」

「――オレが見舞いに来ないように言ったからな」

「え……?」

「『エイトは【アルカロイド】の一員と戦い、勝利するも大負傷。当時まだ一週間経ってなかったオレは治療できず、かといって病院に行くと話がややこしくなるので、オレの家で瑛弍が謎の治療法でエイトの傷を治している。その傷を見られるとエイトが自殺するかもしれない』という嘘を三咲に吹き込んだら大人しく従ってくれた」

「ど、どうしてそんな嘘を……!?」

「押してダメなら引いてみろ……って、瑛弍が言っていた」

「??」


 一樹の言っている言葉が頭に入ってこないエイト。

 すると、エイトの隣に座っている紗菜が頭を下げる。


「三日前はごめんなさい…………あの人のこと、先に話しておくべきだった」

「あの人……あの男についてですか?」

「うん……あの人は、私たちのクラスに来た転校生なの。名前は、片桐瑛壱」

「片桐!? まさか……!?」

「オレの相棒の、兄だ」


 紗菜に代わって、一樹が瑛壱について話し始める。


「瑛壱は血の繋がった瑛弍の兄。オレと同じ不老不死。あの人当たりのいい外見を利用して相手を言葉巧みに騙す『道化師』だ。今回、その標的に三咲が狙われた」

「そんな!? このことを三咲は!?」

「…………」


 一樹が答え難そうにしていると、紗菜が何とかしようと答える。


「本人に言うと、混乱すると思うから敢えて伏せてあるの!」

「…………」


 エイトが信じられないような目で紗菜を見つめる。焦ったように答えた紗菜の様子を見て、嘘だと思ったからだ。

 その圧に負けた紗菜は、正直に話すことに。


「薄々気づいていると思うけど……その……三咲が一目惚れしちゃったの、あの人に」

「…………」

「エイトくんが休んだあの日、登校してる時に何かあったみたいで……詳しいことはわからないけど……」

「…………」


(不思議だな。凄くショックを受けるかと思ったけど……意外となんともないな)


「本人に、瑛弍さんの兄について話すことは、三咲の感情を否定する――だから、今は話さないんですよね?」

「っ!? そ、その通りだけど……」


 意外にも物わかりの良い反応を見せたエイトに、紗菜は戸惑うしかなかった。


「……あの野郎の目的は、御島家にある『藍色の水晶玉』だ。その『水晶玉』は【フォンズ・アニマ】と呼ばれる、【アニマ】がこの世に蔓延る源だ」

「あっ、やっぱりあの水晶玉が!?」

「なんだ、心辺りがあったのか」

「あの水晶玉がある周辺だけ、やたらと【アニマ】が湧いてたから……」

「昨日、楓に頼んで『水晶玉』をこちらで預かろうとした。あいつの手に渡るのを阻止するのが目的だが、三咲との関係がヤバいところまで行く様であれば最悪『水晶玉』を渡して手打ちにして貰おうとも考えた。だが……『水晶玉』がなくなったらしい」

「!?」

「あいつの手に渡ったのであればとっくに三咲から離れている。楓や他の奴らには『なくなる分には害はない』ってことで話を終わらせたが……オレの考えではエイト、お前の体に吸収されたと考えている」

「えっ、どうしてそうなるの!?」

「楓が言うには、『エイト様が水晶玉がある上で寝てた』と。【フォンズ・アニマ】は《リベラ》の身に吸収でき、能力を高めることも可能だ。その副作用でしばらく体に大きな負担がかかる……三日間もエイトが意識を失っていたことにも説明がいく。心辺りはあるか?」

「あー……楓が言ったことは間違ってないけど…………体に吸収されたかどうかは正直、わからない……」


 エイトは当時のことを思い出すも、何かが吸収されたような感覚に心辺りはなかった。

 トイレで吐いた後から座敷で目を覚ます間の記憶が抜けているため、その間に吸収されていたら尚更本人がわかるはずもない。


「まぁ無理に考えなくていい。とりあえず、瑛壱の野郎が何かやらかす位なら、その前に殺したいと思ってる。だがその前に、三咲の気持ちをお前に戻さないと色々とマズい」


(戻すも何も、最初から三咲が俺に好意を持ってたとは言えないと思うけど…………)


「そこで、丁度いい物がある」


 一樹は懐から二枚の紙をエイトに差し出す。

 エイトがそれを受け取って確認すると、北石区の最北端にある遊園地のチケットだった。



「昨日、紗菜も連れて昔の顔なじみと会議を行ってな……そこで貰った。幸いにも明日は土曜日だ。三咲と一緒に行ってこい」

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