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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
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終話 世界一情けない告白

「…………んぅ」


 紗菜が目を覚ましたのは、星守宅――客室のベッドの上。

 スマホを取り出して時間を確認すると、時刻は午後十時。非常に長い時間、眠りについていたのだ。


(一樹さんは、もう寝たのかな?)


 紗菜は部屋を抜け、一樹の部屋まで歩く。

 ノックしてみるも、反応がない。


「お邪魔します……」


 ゆっくりと扉を開け、中に入る。

 しかしそこには、一樹の姿はなかった。


「…………」


 紗菜は家中を隈無く探したが、一樹は何処にもいなかった。

 どこかに出掛けている可能性が高いことは、紗菜自身わかっている。

 しかし、今彼に会わないともう二度と会えなくなるような、確証のない不安に陥った紗菜は、思わず家を飛び出した。


(どこだろう……やっぱり事務所かな?)


 向かう場所に悩んでいると、先に電話すればいいことを思い浮かんだ。


「…………出ない」


 しかし、一樹の電話に繋がらない。

 念のため事務所に電話してみると、瑛弍が出てくる。


『はいこちら何でも屋『ポトス』だと思います! お気の毒ですが、本日の営業は終了――』

「私です! 紗菜です!」

『おっ! 目覚めたんだな! でもここに電話か……どしたん?』

「一樹さん、そちらにいませんか?」

『あいつなら一時間前には帰ったんだがなぁ……家にいない感じ?』

「はい……」

『なるほど。となると……例の場所にいる可能性が高い』

「例の、場所ですか?」

『覚えてるか? あいつが号泣してた場所』



   ※



「…………」


 東磐区と中巌区の境界。

 石の前で音楽を聞きながら、煙草を吸っている一樹の姿があった。


「沙七、オレはまだ迷っている。前に進んでいいのか。目的を果たす前に、幸せを得ていいのか」


 石に向かって独り言を呟く一樹。


「――いや、もうわかってるんだ」


 煙草を中途半端に火を消し、携帯灰皿に入れる。その後、手に持っていた煙草の箱を石の前に置いた。中にはまだ数本残っている。

 そして一樹は新しい煙草を開け、吸い始めた。

 その煙草は、今まで吸っていた煙草とは別の銘柄。

 今までの煙草は、沙七が吸ってきた銘柄。今吸い始めた煙草は、過去に彼女の影響を受けて吸っていた銘柄だ。


「沙七、お前ならきっと『私のケツばっか見てないで、今寄り添ってくれる人を愛してやれ』って張り倒してくるだろうな……」


 そう呟くと、後ろからこちらに近寄る人の気配に気づく。

 一樹はヘッドホンを外し、後ろを振り向いて確認した。


「!? 紗菜か! よくここがわかったな!?」

「えっと……瑛弍さんに『ここら辺にいそう』って教えられたので」


 後ろにいたのは紗菜。

 もちろん彼女の発言は、あの日後をつけていたことを誤魔化す嘘である。


「体はもう大丈夫なのか?」

「はい、大丈夫です」

「良かった…………」


 一樹は一服した後、覚悟を決めて口を開く。


「……紗菜、オレといるのは辛いだろ?」

「えっ?」

「今回みたいに変な奴らに襲われ、命を危険に晒している。翔さんから――学校の理事長からも聞いたぞ、オレと一緒にいたせいで虐めを受けたって……」

「それは! その……」

「オレらの他に何でも屋をやっている後輩たちがいる。中巌区がこの有り様になってからは、南岩区に拠点を置いていて、あそこは石神市の中でも比較的平和な場所だ。そこで匿ってもらうようにする……」

「っ…………!?」


 それは嫌――そう言いたかった紗菜だが、ショックのあまり言葉が出なかった。

 今度こそ離ればなれになってしまう――そう思った彼女だが――


「…………本当なら、そうするべきなんだろう」

「えっ?」


 一樹の発言に疑問を浮かべる紗菜。

 それを考える前に、一樹が火を消さずに煙草を地面に落とし、紗菜を抱きしめてくる。


「!?」


 その行動に、紗菜の思考が止まった。


「オレは……紗菜が思っているほどいい男じゃない。煙草もやめられない、気にいらない奴がいればすぐに殴り飛ばす。瑛弍が勝手に口走ってると思うだろうが…………性欲が強いのも事実だ。そんなオレでも……情けない僕でも……傍に、いてくれますか……?」


 弱気で、本当に情けない告白をしてきた一樹。

 これまでクールな男を演じることで、弱さを隠してきた彼が、初めて赤の他人に本当の自分を――臆病な自分を曝け出した。

 紗菜の答えは、最初から決まっている。


「――それでも私は、いい人だと思ってます」

「!?」

「いい人じゃなかったら、エイトくんが他人(ひと)の感情に寄り添う優しい人に育ってませんよ。何よりも……私と初めて出会ったあの日、助けてくれなかったら……私はもうこの世にいなかったです」

「あれは――」

「下心、って言うんですか?」

「うっ……」

「それでも、私を助けてくれた事実に変わりないですよ。それに、誰かの役に立ちたいから、何でも屋をしてるんですよね? 他人に尽くせるあなたが、幸せに生きていけるのなら――」


 紗菜は、一樹を抱き返した。



「私はこの身を――あなたに捧げます」



「っ…………!」


 自分の想いを受け止めてくれた紗菜に、涙を流し始める一樹。

 二人は落ちた煙草の煙に巻かれながら、しばらく抱きしめ合うでのあった。






「……ふふっ」


 二人の様子を、遠くで見ていたのは、亡くなったはずの沙七。

 彼女は微笑んでいるように見えたが――


「ぶっ、あはははっ!!」


 笑いを堪えていただけで、思わず爆笑した。


「おいおい、笑うとこじゃねぇだろ姉貴!」


 彼女にツッコミを入れたのは、瑛弍だ。


「だって! 面白すぎるんだもん!! 何よ、『性欲が強いのも事実』って! 身体(からだ)目当て言ってるもんじゃない!! 私だったら出直してこい!! ――って張り倒してるわ!」

「んで、色々と強くなって出直してきたら?」

「その時は……受け入れるわよ。一樹、なんやかんやイケメンだし――てか顔が良くなかったらアウトよあんなの」

「うわー……殺してぇ……」

「もう死んでるわよ」


 ブラックなツッコミを入れた沙七が、落ち着きを取り戻して話し続ける。


「でも、安心したわ。やっと、自分の人生を送ってくれる……それでいいのよ、一樹。自由に生きなさい」

「てことは姉貴、成仏するんか?」

「【アニマ】が成仏できたら苦労しないわ。それに、まだ心配事が残ってるの」

「それは何だ? 俺に彼女ができないことか?」

「あんたは一生その木刀でマス掻けばいいわ…………私が心配してるのは――『紗菜』ちゃんの方。あの子の力、代償がないとは思えないわ……」









 エイトと三咲。一樹と紗菜。

 それぞれ自分の想いを伝え、結ばれたかのように見えた。


 しかし、ここまでの話は、ただの始まりの物語。



 忘れてはいけない――これは、自身の()()を解く少年少女の物語――



                                   第二章 完

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