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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
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第九話 理事長とその嫁

 ――翌日の朝。


「…………」

「…………」


 教室へ向かうため学校の廊下を歩いている紗菜と三咲の姿があった。

 普段紗菜が三咲に色々話を振っているのだが、今日は両者ともに無言である。


「紗菜、何かあった?」

「えっ!?」


 そんな紗菜を三咲が心配する。

 彼女から心配されると思ってなかった紗菜は思わず声を上げた。


「大丈夫だよ! 大丈夫……!」

「そう?」


 三咲が不思議そうに首を傾げるも、そのまま前を向いた。


(ありがとう、三咲。でもごめん、言えないの……昨日の事は)


 紗菜は、昨日聞いた瑛弍の話で頭を悩ませていたのだ。


(一樹さんを、私が救う……どうすればいいの? 私はまだ、《リベラ》としても覚醒してないし……)


 考えながら教室の前まで近づくと、中がざわついている音が耳に入る。


「何だろう……?」


 よく見ると、クラスメイトが紗菜の席に集まっているのがわかった。

 紗菜は一足先に教室の中に入り、自分の席を確認する。


「っ!?」


 紗菜は血の気が引くような感覚に襲われる。

 自分の机の上に、大量の写真がばらまかれていた。

 その写真には、自分と一樹が写っている写真。そして、昨日瑛弍と話をしていた写真が何枚もある。

 一樹との写真は、父に襲われそうになった後、無意識に寄り添っていたもの。瑛弍に至っては一万円札が置かれる瞬間が撮られていた。

 大きな誤解が生まれる、悪意のある写真ばかりだ。


「…………」


 後から来た三咲も写真を見るが、特に表情を変えることはしなかった。


「あっ、パパ活紗菜じゃん!」


 すると、背後から明らかに悪意のあるクラスメイトの女子の声が聞こえてくる。

 三咲はその女子に心当たりがあった。過去に紗菜と一樹らしいイケメンを見たことを話していた人物だ。


「どうしたの? 今日はしなくていいの?」

「……………」


 もうひとりの女子も煽るように訊ねるも、紗菜は何も答えない。

 仮に何か答えたとして、それが裏目にしか出ない状況であることを、紗菜は冷静に察知していた。



「えっ、何々? 何か面白いことあった?」


 そう言って紗菜の席に近づいてきたのは別の生徒――ではなく、クラス担任の女教師だ。

 とても若く見える彼女だが、本人曰く四十代。

 緑髪のポニーテールがより子供っぽさを出している彼女の名は遥未(はるかみ)愛生(あおい)だ。


「あっ、ゾンビちゃんだ! なっつ! てことはこの金髪は……かずちゃん!?」

「か、かずちゃん!?」


 クラスメイトの声に反応しなかった紗菜が、愛生には反応した。

 特に一樹が在り来たりでありつつも、可愛いあだ名で呼ばれていたことに驚く。


「ゾンビちゃんはゾンビだから仕方ないけど、かずちゃんは変わったな~。前髪下ろしてた時の方が可愛かったな~」

「せ、先生……知ってるんですか!?」

「もちろん! 二人は私の後輩みたいなところだったからね。てか逆に紗菜ちゃん、二人と知り合いだったんだ」

「い、色々ありまして……」


 紗菜が答えを渋っていると、クラスメイトの女子が誤った答えを出してくる。


「この二人とパパ活したみたいですよ!」

「っ、違……!」


 紗菜がすぐに訂正しようとするが、その必要がないように愛生が笑って手を左右に振る。


「ないない! かずちゃんは美人相手だとめっちゃキョドって相手を困惑させるし、ゾンビちゃんは奇行が酷いしむしろ相手に金を要求してくる。こんな二人がパパ活に乗るとは思えないよ! (しょう)じゃあるまいし!」


「――俺がなんだって?」


 男の声が聞こえた途端――教室が一気に静まりかえる。

 愛生の背後に、目つきの悪い茶髪の男が立っていた。

 綺麗なスーツを身に纏っており、明らかに先生よりも立場の高い人間に見える。


「あっ、翔! 来てたんだ!」

「ここに用事があってな――って話を逸らすな。俺がパパ活をしてそうとはどういうことだ?」


 彼こそが翔。本名――遥未翔。

 愛生の旦那であり、緑金学校の理事長もやっている。


「だって美人に弱いじゃん!」

「お前がいるのに他の女に縋るかってんだ。それと学校では『理事長』と呼べって何回も言ってるだろ」

「気安くよんでいいじゃんか~……ただでさえ翔、生徒達から怖がられているのに、それでいいの?」

「そういう立場でいいだろ。ところで、こんなに集まって、何かあったのか?」


 翔が訊ねると、三咲が机から写真を一枚こっそりと持ち出し、彼に渡す。

 その写真は一樹と三咲が写っている写真だ。


「ちょっと三咲!?」


 何を思ってその行動に出たのかわからなかった紗菜は戸惑う。


「……懐かしいな。これは一樹と…………」


 翔は一度紗菜の方に目を移す。


「!?」


 紗菜は思わず身を硬直させる。数秒後、翔は再度写真を見てこう呟いた。


「…………瑛弍の姉か」

「えっ……?」


 翔は写真に写る少女を『紗菜』ではなく、『沙七』として見たのだ。


「なに言ってるの翔? ゾンビちゃんの姉は――」


 死んでると愛生に言わせる前に翔は耳打ちで何かを伝えながら写真を近くで見せる。


「…………あー! 言われてみると確かにゾンビ姉だ!」


 少し棒読みではあったが、愛生は翔に合わせた。


「どうしてこんな写真がここにあるんだ?」


 翔がクラスメイトたちに目を配りながら聞くも、誰も答えない。

 この状況では、紗菜を填めようとした女子も何も答えられない。むしろ悪手になってしまう。

 そんな中、三咲が口を動かした。


「この中の誰かが、紗菜と間違えて撮ったみたいです」

「盗撮ってことか? それは悪いことだがな……」


 翔が改めてクラスメイト達に視線を送るも、誰も目を合わせない。

 しばらくすると、彼がため息を吐く。


「まぁいい……偶然身内でよかったな。今回は不問にしてやるが、二度とやるなよ。何の制裁もなくて紗菜ちゃんには申し訳ない。だが決して盗撮犯を許す訳じゃない。写真に写っているこの二人、こう見えて危険人物だ。誰も二人を武力行使で止めることができないから、仮に何されても警察も、自衛隊すらも動けない。俺も庇えないから、これ以上関わりを持つなよ」


 そう言って、翔は一枚の写真を紗菜の机の上に投げ飛ばす。


「っ!?」


 その写真を見たクラスメイト全員が戦慄する。

 写真には四肢を切断された男を、更に追い打ちを駆けるように満面の笑みで釘を打ち込んでいる瑛弍。その隣には興味なさそうに無表情で煙草を吸っている一樹の姿が写っていた。

 あまりにも生々しいグロテスクな写真に、口を押さえてトイレに駆け込む生徒もいる。


「関係ない奴には悪いが……まぁ、連帯責任みたいなものだ。恨むなら犯人を恨め……俺は別の用事があるから、この辺で帰るぞ」


 そう言って、翔は教室を去って行った。

 同時に、始業を知らせるチャイムが鳴り響く。


「――さて、ホームルームを始めるから、皆座って座って!」


 愛生は全ての写真をかき集め、くしゃくしゃに丸めてゴミ箱に捨てながら伝えた。


 ――生徒達が動くまで、数十秒かかった。

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