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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
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第八話 生きる理由 戦う理由

「いらっしゃいませ~! ご利用一名様でございますか?」

「いえ、待ち合わせで来ています」


 紗菜は指定された午後四時に、北石区のファミレスに来ていた。


「おーい! ここだぜ!」


 奥の席で座っていた瑛弍が紗菜に手を振る。


「瑛弍さん、お待たせしました」


 紗菜は奥へ進み、瑛弍の前に座った。


「悪いな、こんなおっさんに呼ばれて。あの話を聞かれた以上は、紗菜ちゃんにも教えておかないといけないことがあってな」


(やっぱり、バレてたんだ)


「ちなみに、今日ここで俺と会ったことは一樹に内緒で頼む。大マジで。下手すると同棲生活もできなくなるくらいのことだから」


 瑛弍の忠告に、紗菜は息を呑んで頷く。


「今からするのは、一樹の昔話だ。あいつは西塊区で生まれたんだが、幼くして両親に捨てられ、一人での生活を余儀なくされたんだ。少し前まで西塊区にスラム街があったのは知ってるか?」

「はい、学校の授業でも習いました」

「もう教科書に載ってるのか!? いや、少し前っていう俺の感覚がおかしいのか……まぁ、西塊区は元々荒れてて、身寄りの無い貧しい人たちが多く住んでいたんだ。今は国が動いてくれてスラム街がなくなるほどにはなったが……それでもまだ治安は悪い方だな。一樹は生きるために何でもやった。強盗はもちろん、最悪殺人を犯してもな……」

「…………」

「幻滅したか?」

「いいえ。私たちとは別の世界で生きていることは、薄々わかっていたので……」

「なら良かった。そうした生活を送ったあいつは、学校にも行くことができなかった。幸いにもあいつは地頭が良く、学校で習うようなことは捨てられた教科書を見て、独学で身に着けていったそうだ。そうして一樹が十三歳になった時、俺と俺の姉貴に出会った。一樹の独り言を耳にしたからもう察しているとは思うんだが…………姉の名は『片桐沙七』。偶然、紗菜ちゃんと同じ名前だ」


 瑛弍は懐から一枚の写真を取り出し、紗菜の前に置く。

 その写真には紗菜にそっくりな少女が笑っている姿が。その少女は、一樹の後ろに現れた少女と同じだった。


「これが俺の姉貴。めっちゃ無垢でいい笑顔してるだろ…………腹黒なんだぜ、こいつ」

「えっ?」

「表向きは紗菜ちゃんみたいにお淑やかで天然な少女なんだが、それは演技。人のいないところで容赦なく毒を吐くわ、おまけに高校生で煙草を吸うわ、俺だったらこんな女に惚れない。姉じゃなかったらぶち殺してたくらい、腹が立つ女だ。あっ、ちなみに一樹が煙草吸い出したの、こいつの影響だから」

「は、はぁ……」

「あろうことか、一樹は姉貴の表の顔に一目惚れしちまってな。恋は盲目っていうのか知らんが、裏の顔を知っても引くことをしなかった――いや、流石に引いてたか? ……いずれにしろ、一樹はあいつのために頑張ってた…………最後まで報われることはなかったが」


 言葉を言い終えると同時に、店員が「お待たせしました」と二つのチョコレートケーキをテーブルに置いた。


「これは俺の奢りだ」

「ありがとうございます!」


 紗菜がケーキを食べ始めるのを確認し、瑛弍は話を続ける。


「……【アルカロイド】 俺たちが戦っている組織の名前だ。組織との戦いは今に始まったわけじゃない、二十年以上前から俺たちは戦い続けている。俺の姉貴は……片桐沙七はその戦いで命を落とした」

「!?」


 紗菜はケーキを食べる手を止める。


「経緯を話す前に、姉の能力について。姉の能力は……炎を操る能力」

「それって……!?」

「そのまさか、今の一樹と同じ能力だ。相手を燃やす炎を出すのはもちろん、癒やす炎を出すこともできる。その《プロディス》――まぁ能力の底を引き出す必殺技だと思っていい……その《プロディス》の中に部位を転移する技がある。姉貴の死因は敵に殺された訳じゃない……致命傷を負った一樹を生かすために自分の心臓を、あいつに転移させたんだ」

「…………!?」

「一樹は、姉貴の心臓で生かされている。その影響で、姉と同じ能力を得た。あいつは今も、姉貴のために【アルカロイド】の壊滅させるために生きている。言っちまえば、姉貴に――片桐沙七に囚われながら生きている」

「…………」

「だが、今あいつはその呪縛から解放できるチャンスが来ている。その鍵となるのが…………紗菜ちゃん、君だ」

「えっ…………!?」

「そういえば直接聞いたことなかったな。一樹のこと、好きなんだろ?」

「あっ! えっと! その……」


 紗菜は顔を赤くしながら、頷いた。


「あいつも、お前に気があると思うぜ」

「ほ、本当ですか……!?」

「ただ、あいつを完全に落とすには大きな壁がある……それが、俺の姉貴の存在だ。あいつは姉貴のために――姉貴が犠牲にした人生を無駄にしないように自分を殺して生きている。正直、本末転倒だ。姉貴は、あいつに良い人生を送って欲しいから自分の心臓をあげたのに、肝心の一樹は自分の意志をねじ曲げてでも、姉のために生きている。その呪縛を解き放てるのは、俺でもエイトでもない……紗菜ちゃん、君だけなんだ」

「…………」


 すると、瑛弍のスマホにメールの着信が入る。


「おっと…………一樹に呼ばれてる。俺は先に失礼――あっ、これ代金。余った分は貰っていいぜ」


 そう言って瑛弍は一万円札を机に置き、ファミレスを去って行った。


「……私が、一樹さんを…………」



   ※



 時刻は午後六時――中巌区に近い西塊区。

 その古びたアパートの一室に入る銀髪の青年――ダリアの姿があった。


「ただいま」

「おかえり! お兄ちゃん!」


 扉を開けた瞬間、銀髪ツインテールの少女がダリアに抱きついてくる。

 彼を兄と呼んだが、少女の身長は百九十センチ程。ダリアの身長が低めのため、少女の胸に顔が埋もれる。


四乃(しの)…………苦しい……」

「ごめんごめん!」


 四乃と呼ばれた少女がダリアから離れる。


「学校の方はどうだ? 中学に上がってから、そろそろ三ヶ月が経とうとするが」


 ダリアは部屋の中に入り、居間に鞄を置く。


「楽しいよ! 友達もたくさんできたし!」

「そうか。なら良かった」

「今日の晩ご飯なにー? あたし、炒飯がいい!」

「おいおい、昨日も炒飯にしなかったか?」

「お兄ちゃんの炒飯大好きだもん! 毎日でも食べたい!」

「絶対どこかで飽きると思うが……わかった」

「やったー!」


 無邪気に喜ぶ四乃を見て、ダリアは安心した様子で台所へ向かう。

 しかし、彼のスマホに着信が入る。電話の着信名には『アネモネ』の文字があった。


「家にいるときに……!」


 ダリアはイライラしつつも、電話に出る。


「こちらダリア」

『やっほー、ダリアちゃん。元気?』


 スマホ越しに聞こえてくるのは、セクシーな女性の声。

 その人物――アネモネは【アルカロイド】のボスの三人いる側近の一人だ。


「側近様が俺に何の用だ?」

『そんな冷たくしないでよ~。モテる男が台無しよ』

「俺には妹さえいればそれでいい」

『きもっ…………まぁそれは置いといて、『朱雀』と『死神』の討伐はどうなの? 期限はまだあるけど、あなたのような実力者が手こずっているように見えるけど』

「言ってくれるな……俺らを捨て駒にするくせに」

『あなた達がやっつければ何の問題もないじゃない? 随分と慎重に動いてるみたいだけど、ビビってるの?』

「怖くない方が異常だろ。聞けばあの二人は過去に【アルカロイド】の戦闘員の九割を殺し、先代ボスの首も取ったそうじゃないか。化け物相手にお遣いを頼む感覚で殺しを依頼されても、勝ち目がないとしか言えない」

『そう……別にチンタラやってもいいけど、新しいボスは先代よりも気が短いわ。期日前でも職務怠慢と見られれば……妹ちゃんがどうなるか、わかるわよね?』

「!? 妹に手を出してみろ……組織だろうと皆殺しにするぞ!!」

「……お兄ちゃん?」

「っ!?」


 怒声を聞いた四乃が、心配した様子でダリアを見ている。


「すまない四乃。なんでもない……なんでもないんだ」


 ダリアは四乃の頭を優しく撫でた後、一旦外に出る。


『ちょっと、聞いてるの?』

「あぁ悪い。あんたの声が臭くて聞き取れなかった」

『私じゃなかったら今すぐ殺してるわよ…………ペルシカムとタンジーがやられたみたいだから、ボスが新しい部下を送ってくれるそうよ。コードは確か……トメントーサ』

「あいつか…………数が増えるのはありがたいが、毎度戦闘狂を選ばないでほしいものだ」

『まともな人なんて、あんたぐらいしかいないわよ。それじゃ、よろしくね』


 そう言って、アネモネが通話を切る。


「……俺も、そろそろ死ぬ準備をしておくか」


 ダリアは覚悟を決めた後、部屋に戻っていった。

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