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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
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第七話 瓜二つの少女

「あっ、父さんに聞くの忘れてた……」


 翌日の朝。

 三咲と共に通学路を歩いていたエイトが、紗菜について聞くのを忘れていたことを思い出した。


(でも、朝が一番忙しいって父さん言ってたからな……昼休みに聞いてみるか?)


「あれ…………紗菜?」

「え?」


 三咲の呟きを耳に入れたエイトは前方をよく見る。

 上機嫌にスキップしている少女が目に映った。

 黒髪ロングヘヤーの少女――間違いなく紗菜である。


「あれ、紗菜先輩って東磐区に住んでるんだっけ?」

「……確か、北石の方」


 何がともあれ、確かめる他ないと思った二人は小走りで紗菜に近寄る。


「紗菜先輩、おはようございます!」

「あっ、エイトくんおはよう! 三咲も一緒なんだね!」

「先輩、この辺りに住んでいたんですね」

「ううん、実は色々あって、一樹さんの家に住むことになったの!」

「…………はい?」


 耳を疑うような事を聞いたエイトは、忙しそうな時間帯であることを無視して一樹に電話をかける。

 しかし、七コール以上経過しても出る気配がなかった。


「一樹さん、朝起きた時点でいなかったから、仕事中だと思う。それでも弁当作ってくれたみたい!」

「そ、そうなんですね……」


(色々ってところがすごく気になる! 父さんが変な理由で先輩を家に泊めるわけ――というか、住んでるって言ったよね!? えっ、同棲!? ……あっ、でもそこに関しては人のこと言えないもんな……)


 エイトは三咲の方を見て、自分も同棲していることを思い出す。


「?」


 彼の思うことを読み取れるわけがない三咲は、ただ首を傾げるだけだった。



   ※



 紗菜に驚くのは、朝だけに留まらなかった。


「おっ、紗菜先輩。昨日いなかったみたいだけど、大丈夫か?」


 屋上でエイト、三咲、昭伍、紗菜の四人が集まる昼休み。

 昭伍が昨日いなかった紗菜の身を案じる。


「昨日はどうしても学校を休まないといけない用事があっただけだから大丈夫!」

「そうか……なんかテンション高いし、大丈夫そうだな」


 昭伍が安心すると、早速紗菜が弁当を開ける。


(そういえばあの弁当、父さんが作ったんだっけ? 俺も昔作ってもらって――あれ? てことは、中身はまさか……!?)


 エイトの嫌な予感が的中。

 紗菜の弁当の中身は、真っ赤に染まっていた。


「…………」


 白いご飯に赤色のふりかけ。

 唐揚げとハンバーグには赤いソースが付いており、卵焼きも何故か赤身がかかっている。

 どう見ても辛さ全開の弁当に、エイトたち三人は言葉が出ない。


「いただきまーす!」


 紗菜は何の躊躇いもなしにご飯を食べる。


「っ~! 美味しい!」

「えっ、えぇ!?」


 咳き込まず満面の笑みで食べた紗菜にエイトは驚いた。

 一樹の作る料理の辛さを、一番知っているからである。


「意外と辛くないのか? 紗菜先輩、一口食べていいか?」

「どうぞどうぞ!」


 昭伍は紗菜から唐揚げを貰って食べようとする。


「よせ! 昭伍!!」


 エイトが慌てて止めようとするも、昭伍は唐揚げを口に入れてしまう。


「……………………ゴホッ!!」


 最初は意外と辛くない? 的な表情を見せていた昭伍であったが、やはり一樹の作る料理は辛く、飲み込めはしたものの咽せ始める。


「ゲホッ! 水! 水をくれ!」


 溶岩を口に入れたような灼熱感のある辛さに耐えられず、のたうち回り始める昭伍。

 エイトは彼にオレンジジュースを渡した。


「…………死ぬかと思った」


 オレンジジュースを大量に飲んだ昭伍は正気を取り戻す。


「紗菜先輩、よく父さんの弁当を食べられますね……俺でも無理です」

「そう? 美味しいと思うけど?」

「美味しいとは思いますよ。でも辛すぎないですか?」

「…………」


 すると、三咲が勝手に紗菜の卵焼きを食べる。


「!?」


 予想外の行動に出た彼女に、エイトと紗菜は驚いた。

 同時に味覚を失っている彼女がどのような反応をするのか気になり、見守る。


「…………ピリピリする」


 三咲が眉を歪め、自分の水を飲む。


「っ!? あ、味はどう?」

「……ピリピリするだけ」


 三咲はまだ味覚を取り戻し切れていなかったが、辛すぎる故に鈍っている痛覚でも僅かに辛味を感じていたのだ。


(父さんの弁当が辛すぎるだけなのか……少しだけ味覚を取り戻したのかわからない……けど、これはプラスに考えていいのかな?)


「紗菜先輩、弁当作って貰えるくらい仲良くなったんですね!」

「うん! バンドの話も出来るし、美味しい料理も作ってくれる!」


 浮き浮きに話している紗菜を見て、エイトは何も心配ないと思った。

 しかし、次に出てきた言葉で紗菜は場を凍り付かせてしまう。


「それに、昨日も一緒に寝てくれたから!」


「…………」

「…………」

「…………」


 エイトと昭伍の時が止まる。

 三咲は興味なさそうにエイトが作った弁当を食べていた。


「あっ…………」


 紗菜自身も、勢いでとんでもない発言をしてしまった事に気づき、口を押さえる。


「……今のは聞かなかった事にしてね? 一樹さん、困ると思うから」

「…………父さん」


 一樹に気を遣った紗菜であったが、逆に悪い印象を与えてしまう。

 エイトはスマホを取り出し、一樹に電話をかけるも朝と同様出る気配がない。

 今度は瑛弍に電話をかけてみる。すぐに電話に出たかと思うと、事前に録音された瑛弍の音声が流れてくる。


『お電話いただいた中大変申し訳御座いません! 本日六月二十九日はど~しても外せない用事があるため、電話に出られません。もし伝言があれば、ピーッという音の後に続いて伝言をどうぞ…………ピーッ!』



「――父さんを殺してください」



   ※



「~♪」


 放課後の午後三時過ぎ。

 紗菜はバイトに行くため、鼻歌を歌いながら中巌区の方角へ歩いていた。

 しかし、バイト先のコンビニが目に見えたところで足を止める。


「あっ、今日バイトないんだった……ここまで来たし、近くの家電屋でイヤホン買おっと」


 紗菜が目的地に合わせて方向転換しようとする。


「一樹さんのおかげで、お金に余裕ができたし――あれ?」


 コンビニから出てくる一人の男が目に入り、目的をすぐに忘れてしまう。

 その男は一樹。手には二箱の煙草が持たれている。


(仕事かな? ちょっと気になる……)


 ヘッドホンで音楽を聞いていたこともあり、今なら気づかれにくいと思った紗菜は一樹の後をこっそり追うことにした。

 一樹はコンビニよりももっと先の中巌区の方へ歩いて行き、最終的には中巌区と東磐区の境界で足を止めた。

 境界には立ち入り禁止の黄色いテープが張り巡らされており、近くの看板には『無断立ち入り厳禁 中巌区内で事故・事件に巻き込まれた場合、国は一切の責任を負いません。全て自己責任となります』というこの世の終わりのような文言が書かれている。

 本来であれば警備員が周辺にいるのだが、何故か今日だけはこの場にいなかった。


「…………」


 境界にある人の頭くらいはある石のような物を前に、一樹は煙草を吸い始めた。

 その石の前には花束と、一樹が吸っている煙草と同じ銘柄の箱が置かれている。

 紗菜は少し離れた木の陰に隠れながら、彼を見ていた。


「沙七、今日であれから二十年になるんだな……」

「!?」


 名前を呼ばれたことに紗菜は体をビクつかせるが、すぐ疑問が浮かび上がる。


(二十年ってことは、昔の話だよね? てことは……同名の別人!?)


「エイトも高校生になってその節目からか、最近は色々と起きててな……【アルカロイド】が本格的に石神市を乗っ取り始めようとしている。何としても止めないとな……瑛弍のためにも、お前のためにも……奴らのボスをオレが必ず仕留める」


 一樹は言葉を言い終えた後、一服する。


(あるか、ろいど? 何の事だろう――っ!?)


 ふと一樹に意識を戻したところ、いつの間にか彼の後ろに一人の少女が立っていた。

 ロングヘアーの紺色の髪をした少女。その姿は紗菜にそっくりだ。

 一樹は少女の存在に気づかず、言葉を続けた。


「……それから、お前と同じ名前の人と出会って……『零宮紗菜』って言ってな。何の偶然なんだろうな、お前と名前が一緒って。無駄に生きているオレへ、神が試練を与えたんだろうな…………」


 すると、一樹は吸っていた煙草を握り潰す。


「…………ごめん、そんなわけない。オレから首を突っ込んだんだ。動機も不純だ。街を歩いていたら、お前と瓜二つの少女が見えて……無意識に追いかけたんだ」


(えっ、あの日つけられてたの!? 全然気づかなかった……!)


「我に返って事務所に戻ろうとしたんだが、【アニマ】が零宮を襲おうと駆けている様子も見えて…………普段のオレなら、《リベラ》を救うことはしない。自分の身を守れる上、他の《リベラ》を敵対している奴も少ないないから。ただ、どうしてもお前の顔が頭から離れなくて……オレは零宮を助けた……」


 一樹は膝を地面に落とし、石に両手を当てて叫ぶ。


「沙七、オレは……()は本当に生きてて良かったのか!? 何で僕を生かした!? 生かした結果がこの様なら…………意味ないだろ……なんで僕なんかを…………」


 子供のように泣き崩れる一樹。彼の背後に立っていた少女も涙を流しており、彼の背中に体を寄せる。


(一樹さん…………)


 一樹の慟哭に、紗菜も無意識に涙を流していた。


「――意味があるとか、ないとかじゃねぇだろ」


 すると、一樹の後ろからもう一人――瑛弍が姿を見せた。

 同時に少女の姿が最初からいなかったように消える。


「瑛弍…………」


 一樹は後ろを向き、瑛弍を視界に入れた。


「姉貴はお前に生きて欲しいと思った。その事実に変わりはねぇ。だから、生きてていいんだよ。今は納得できないと思うが、いつかそう思える日が来る。きっと、あの子が証明してくれるさ」


 そう言いながら、瑛弍は紗菜がいる方に視線を向ける。


「!?」


 バレたと思った紗菜はもう遅いと思いつつも、さらに体を縮込ませて姿を隠す。


「……さっきから視線を感じていたが、誰かいるのか?」

「大丈夫! ただの可愛いJKがいただけ! 俺に気づいて逃げたっぽいけど」


 瑛弍は紗菜の名を出さなかった。


「……そうか」


 一樹は涙を拭って本調子を取り戻し、立ち上がりながら瑛弍に煙草を一箱投げ渡す。

 瑛弍は受け取り、使い捨てライターで煙草に火を点けて吸い始める。


「――うえぇ……年々不味くなってる気がする。お前らはどうしてこんなもん吸えるんだよ」

「オレは美味しいと思うけどな」

「ヤスカスだからだよカスヤニ。でもやっぱこれ吸ってると、姉を思い出すな……」

「あぁ……」


 二人は荒廃した中巌区を見ながら、煙草を吸い続ける。


「…………」


 それを数分間見届けた紗菜はその場を去っていく。


「?」


 歩いて間もなく、紗菜のスマホにショートメールの着信が入る。

 紗菜は内容を確認すると、瑛弍からのものだった。



『俺俺、瑛弍っす! 紗菜ちゃんに話しておきたいことがあるから、今日の午後四時に北石区に新しく出来たファミレスに来てくれないか?』

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