表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
15/41

第三話 色々と手遅れな父親

「……あれから何にも掴めてないな」

「あぁ」


 時刻は午後九時。

 瑛弍と一樹は北石区の中を歩いていた。

 一樹の首には、紗菜から貰ったヘッドホンがかけられている。


「一週間以上前に捕まえた男……名前なんだっけ?」

「拓巳と聞いているが」

「そうそいつ! 組織の奴生け捕りに出来たから最高! ってなったのも束の間、目覚める気配がないからなぁ……見せしめに殺しとく?」

「これ以上は待っても埒が明かないからな……好きにしろ」

「うぇーい! ……それにしても驚いたな、俺以外に魂に直接ダメージを与えられる奴がいるなんて」

「……オレも驚いた」

「エイトきゅん、俺と名前似てるし、やっぱ兄弟だったり? となると俺の新しい父さんは一樹で、母さんは紗菜ちゃん!?」

「瑛弍、それを零宮の前で言ってみろ……全身の皮を剥いで本物のゾンビにしてやる……!」

「ひぃー! お許しを!!」


 瑛弍は近所迷惑な程叫んだ。


「…………ここまで叫んでも来ないってことは、奴らのアジトは北石区になさそうだな」

「住宅街は一見静かで潜伏先に良さそうに見えるが、逆に周囲の目にも留まりやすくなる。オレならアジトを西塊区か……中巌区に置いている」

「だよなー、中巌区が一番濃厚だが、派手に動くと俺らがヤバくなるかなぁ」

「政府の奴らに目を付けられたら、エイト達も危ない。下手に動く訳にはいかないが、これ以上何もしなければ『石神厄災』以上の何かが来る」

「俺らも戦力集めないといけないか……一樹の前で言うのも怖いが……実際エイトは戦力としてどうなん?」

「…………お前の言いたいことはわかる。エイトならオレらの動きについてこれるだろう。だが、息子を快く戦場に立たせる父親になりたくはない。それに、エイトは奴らに狙われ――」



 ――助けて……一樹…………!!



「!?」


 微かに聞こえた声を聞き逃さなかった一樹は、声がした方角へ駆け出す。


「ちょちょ!? どしたん一樹!?」


 瑛弍は戸惑いつつも、彼の後を追いかける。



   ※



「……はぁ」


 同時刻、紗菜は死んだ目で帰路を歩いていた。

 今日もあの家に帰らないといけない――そう思うと、憂鬱で胸が潰れそうになる。


「…………」


 家に着いた紗菜は、無言で玄関の扉を開ける。


「おう、帰って来たか!」

「!」


 最悪なことに、父がリビングではなく自室に繋がるキッチンにいた。

 換気扇の下で、椅子に座って煙草を吸っていたのだ。


「母さん知らないか?」

「……知らない」


 紗菜は父と目を合わせないように自室へ向かう。


「ッ!?」


 すれ違い様に父が紗菜の髪に触れ、匂いを嗅いだ。

 紗菜はすぐさま父の手をはじき、睨み付ける。


「母さんを思い出すんだ、少し位いいだろ? それにしても――」


 父が立ち上がり、紗菜にゆっくり近づく。


「母さんに似て可愛いな……いや、母さん以上だ。今彼氏いるのか? まさかその見た目で処女じゃないだろ?」

「…………ッ!!」


 身の危険を感じた紗菜は、家を出て全速力で走り出す。


(まだ、まだいるかもしれない……!)


 紗菜は何でも屋の事務所へ向かって走るが――。


「そんなに嫌がる必要ないだろ?」


 大人の脚力に勝てず、後ろから抱きつかれてしまう。


「嫌ッ!!」

「母さんと同じで、外でやるのが好きなのか?」


 紗菜の胸を左手でかきまわし、首元を舐め始める。

 紗菜は吐き気を抑えながら、下半身に迫る右手を抑えることしか出来なかった。


「嫌……助けて……一樹…………!!」


 紗菜は涙声で一樹に助けを求める。


「一樹? やっぱり彼氏いるんだ。そうだ、その彼氏呼んでくれよ! 一緒に楽しめば――」


「――『一樹』が、来てやったぞ」


 本人の声が聞こえると同時に、紗菜の体が解放される。


「ぇ……!?」


 本当に一樹が助けに来てくれたのだ。

 一樹は父の首を片手で掴み上げている。


「がぁ……ぁ……!」


 父は苦しそうに一樹の片腕を掴んでいる。


「……こいつは誰だ?」

「父…………です……」

「そうか……」


 一樹は父を横の地面に投げつけた。

 すると、いつの間に横に立っていた瑛弍が父に迫る。


「お前、もしかして実の娘に欲情してたんか?」


 瑛弍は身を屈め、父の髪を強く掴み上げる。

 普段ヘラヘラしている瑛弍だが、今の彼は無表情。

 目の奥に光が届いていないように見えた。


「聞かせてくれよ、どんな気分がするんだ? 実の娘犯す気分は?」


 瑛弍は父の顔を地面に叩きつけ始める。


「なぁ? 教えてくれよ。俺の親父も姉貴を犯してたけどよぉ、やっぱ気持ちいいのか? あ?」


 父は答えない。正確には、ずっと地面に叩きつけられているせいで、何も答えられずにいるのだ。


「答えろよ! なぁ? なぁ!! 聞いてんのかこのカス野郎? 楽に死ねると思うなよ!!」


 瑛弍は鬼の形相でより強く地面に叩きつける。


「ぁ……あぁ……!」


 一樹に身を寄せていた紗菜の体が、更に震え始めた。


「……瑛弍、オレもそいつを殺したくて堪らないが、クソでも零宮の父親だ。彼女の前ではやめてくれ」

「…………」


 一樹の言葉を聞いた瑛弍は、父を解放する。


「よかったなぁ~、紗菜ちゃんに気を使ってもらえて。今夜だけ猶予を与えるから、この街から消えろよ。明日紗菜ちゃんの家に行くつもりだから……一瞬でも視界に入ったら殺すぞ」

「ぃ…………!?」


 父は崩れた顔面の痛みも知らないように、この場を走り去って行った。


「……零宮、大丈夫?」

「う……うぅ……」


 紗菜は涙を流し、一樹の体に顔を押しつける。


「!?」


 一樹は一瞬怯んだように見えた。


「……このまま零宮を帰すわけにはいかない。瑛弍、別荘持ってたりするか?」

「別荘は全部他の奴にあげちゃったから無いなぁ……それに、仮にあったところで、紗菜ちゃんを一人にするのは良くない。ここはしばらく、お前の家に匿って差し上げろ」

「それなら、お前の家の方が良くないか? 事務所を兼ねているおかげで広いし、過ごしやすいだろう。それにここから近い」

「阿呆! 寄り添ってあげられる『人』の問題を言ってるんだ。俺よりも、一樹の方が適任だ。俺に人の心がないのはお前が一番知ってるだろ? それに……その様子の紗菜ちゃんを、お前は見捨てるのか?」


 一樹は紗菜の方を見る。

 一樹にしがみついたまま、ずっと泣いていた。


「…………わかった」


 一樹は紗菜の頭を優しく撫でた。



   ※



「お、お邪魔します……」


 東磐区にある一樹の家。

 紗菜は彼に招かれて、ここに足を運んだ。

 家に入った瞬間、煙草の匂いが鼻に入ってくる。


「……過ごしにくいと思うが、しばらくはここを自分の家だと思っていい」


 一樹が妙に緊張した様子で話している。


「は、はい! よろしくお願いします!」


 紗菜は父に襲われたショックよりも、一樹の家に住むことになった事実が大きく、彼女も緊張していた。


「夕飯は食べたか?」

「いえ、まだです……」


 一樹が紗菜をリビングに連れてきた。


「わかった。今から作るが……まともな食材がなくてな……ペペロンチーノでもいいか?」

「はい! 全然大丈夫です!」

「そうか。適当に座ってて待ってくれ」


 一樹がキッチンに向かい、ペペロンチーノを作り始める。


「…………」


 紗菜は言われたとおり、椅子に座る。エイトが座っていた場所と同じところだった。


(……甘えるように来ちゃったけど、迷惑だよね…………)


 家に来たことに罪悪感もあった紗菜。


(でも不思議……私の家よりも、ここの方が落ち着く……)


 深呼吸を行い、心を落ち着かせる。

 家でも同じ煙草の匂いがするのだが、やはり一樹の匂いには不快感を覚えなかった。


「待たせたな」


 ペペロンチーノを作り終えた一樹。

 一つを紗菜の前に置き、自分も彼女に向かい合うように座った。


「いただきます」

「い、いただきます!」


 二人は早速食べ始めた。


「?」


 しかし、一樹は自分が食べたペペロンチーノに違和感を覚える。

 辛みが全くしなかったからだ。


「まさか……零宮、大丈夫か?」


 実は紗菜用に辛くない方を用意した一樹。それを間違えて辛い方を紗菜に渡してしまったのだ。

 既に紗菜は口をつけており、時既に遅しかと思われたが――。


「!? これ、とっても美味しいです!!」


 悶絶するどころか、美味しそうにフォークを進めている。


「……零宮、辛いのは好きか?」

「はい! 大好きです!」


 なんと、紗菜も辛党だった。

 安心した一樹は、近く置いてあったタバスコを大量にかけて食べ始める。


「……ごちそうさまでした!」


 早くも食べ終えた紗菜。


「…………あの……一樹さん」

「?」

「ここまで助けていただき、ありがとうございます。なのでその……お返しがしたいんですけど…………」


 紗菜は恥ずかしそうに体をモジモジさせながら言う。


「…………………………何もしなくていい」


 数秒間、謎の間があったが一樹は表情を崩さずに返した。


「で、でも!」

「いいんだ。これで充分だ……充分、零宮に尽くす理由になる」


 一樹は首にかけたヘッドホンに指を当てた。


「えっ…………!?」


 紗菜は告白のような言葉に思考が止まる。


「……風呂も好きに使っていい。それと、廊下の奥に滅多に使わない客室がある。ベッドと机以外何もないが……あそこで寝ていいぞ」


 ペペロンチーノを食べ終えた彼は立ち上がり、紗菜の分の皿も一緒にキッチンへ下げに行った。






「…………ふぅ!」


 シャワーを浴び終えた紗菜は、客室のベッドの上で横になっていた。

 当然、寝巻を持って来ていない。今彼女が着ているのは、一樹が昔使っていた黒のパーカーだ。


(あれ、もしかして……?)


 改めて、紗菜が着ているのは、一樹のパーカー。


「えぇ!? もしかして、これが彼シャツ!? いや、彼パーカー!?」


 紗菜は今になって、その事実に気づいた。


「…………!」


 紗菜は思いきってパーカーの匂いを嗅いでみる。


(……流石に古い服だもんね……煙草の匂いしかしない)


「って、何やってる私!!」


 誰かに見せているわけでもないのに、紗菜は誤魔化すように部屋の電気を消し、眠ろうとする――



 ――見つけた――



「っ!?」


 父の声が聞こえたように感じた紗菜は飛び起き、電気を点けた。

 しかし、周囲を見渡しても父の姿はない。


「はぁ……はぁ……!」


 一樹の家は非常に落ち着く――それ故に、何か考えてないと父の気配を感じるような錯覚に陥ってしまう。

 不安になった紗菜は部屋を抜け、静かに歩く。

 向かった先は一樹の部屋。彼は先に眠ったと思っていたが、隙間から光が漏れているため、まだ起きている可能性が高い。


(あれ……これって夜這い!? でも…………一樹さんなら、私は――!)


 意を決した紗菜は扉をノックし、開けようとする。


「ちょっと待て!!」

「は、はい!」


 何かに焦ってる一樹の声に、紗菜は返事をして待つ。


「……すまない、入っていいぞ」

「失礼します……」


 中に入る紗菜。

 一樹の部屋には、ベッドの他にパソコンが置かれた机。本棚には小説だけではなく漫画もあり、好きなバンドマンのCDも綺麗に並んでいる。肉体年齢らしい青年の部屋だった。


「……眠れないのか?」


 ベッドから体を起こしている一樹の問いに、紗菜は首を縦に振る。


「そうか……眠れないときは、無理に寝る必要はない。あんなことがあった後だ、明日の学校は休め。成績に響かないよう、オレが理事長に伝えておく。それから――」


 ――荷物取りは、零宮の体調が万全になってから行くようにする――

 そう言おうとする一樹に、紗菜が口を挟んだ。


「一樹さん」

「?」

「…………一緒に、寝てもいいですか?」

「…………………………」


 表情を変えぬまま、一樹の瞬きの間隔が早くなる。


「…………その方が眠れるなら……オレは構わない」


 世間体的に最初は断ろうとした一樹だが、彼女の心情を考えて『添い寝』ならと了承した。


「ありがとうございます!」


 紗菜は一樹のベッドに潜り込む。


「お、お邪魔しますね……」

「……狭くないか?」

「大丈夫です」

「そうか……電気、消すぞ」


 一樹は部屋の電気を消し、仰向けになる。

 すぐ隣には、こちらに体を向ける紗菜の姿が。


「……おやすみ」

「ふふっ、おやすみなさい」


 就寝時の挨拶を久しぶりに受けた紗菜は微笑み、そのまま眠りについた。

 その隣に、男がいることに警戒心なく。


「…………」


 眠れない一樹。

 ここまで表情をあまり動かさず、感情が読み取りにくい。

 それは、付き合いの長い瑛弍以外にも同じことではあるが、


 ――今回、無表情の彼の、今の心情を開示して、話を終わらせたいと思う。
















(――ヤバい、めっっっっっっっっちゃいい匂いする! 

 吐息も体に当たってくすぐったいし、眠れる気がしない!! 寝たら寝たで運悪い寝相で変なところ触るかもしれん!

 というか、この子警戒心なさ過ぎないか!? 抜いた後じゃなかったら駄目だったかもしれん! くっ、やはり瑛弍の家に――いや、なんか嫌だ。なんか…………なにが、嫌なんだ……? 零宮が他の男の所に泊まることがか?

 ……エイトよ、オレはもう駄目かも知れない。こんな父親で…………すまん)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ