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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第二章 光纏いて彷徨う朱雀に、導きの愛を
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第一話 少しは相棒の息子の気持ちも考えろ

「……いいかお前、絶対こっちに来るなよ」


 夢の中――

 エイトは藍色の羽をした巨大な蝶に対し、言葉をぶつけていた。


 エイトが今見ている夢は、世界が滅び三咲と自分の二人だけが生き残った――というものだ。

 彼にとってウハウハな展開の夢を邪魔されたくないと思い、触れたら目が覚める蝶を警戒していた。


 現在、エイトと三咲は廃れた建物の中におり、その隣で三咲がエイトに身を寄せている。


「夢の中くらい、いい思いをさせてくれ――というか、夢の中ってわかっているなら、何してもいいよね……」


 エイトの頭の中は既にピンク色に染まっており、三咲の身に触れようとする。


「……私、言ってなかったことがある」


 突然口を開いた三咲に、エイトの動きが止まる。


「……何?」

「私……………………本当は、昭伍のことが好きだったの」

「…………」


 数秒間、エイトの思考が止まった後、


「うわぁぁぁぁぁ!!」


 叫びながら、蝶に向かって突進する――



   ◆



「うわぁぁぁぁ!!」


 意識が現実世界に戻った後もエイトは叫び、布団から跳び上がった勢いに身を任せて壁に体をぶつけた。


「…………」


 エイトは放心状態になりつつ、体を畳の上に広げる。


「エイト様!? 大丈夫ですか!?」


 彼の部屋の近くを偶然掃除していた楓が扉を開け、身を案じる。


「大丈夫……大丈夫だから、一人にしてくれ…………」

「は、はぁ……」


 エイトの様子が気になりつつも、楓は言われた通り扉を閉めるのであった。



   ※



「おうエイト! やっぱここに――うぼぉあ!!」


 学校の昼休み。

 屋上でエイトと三咲が昼食を食べていたところに昭伍が現れ、エイトは彼の腹を殴る。


「ど、どうした急に!?」

「なんでもない……なんでもないよ……」

「冗談にしては結構威力あったぞ!?」


 腹を抑えながらエイトの隣に座った。


「…………」


 三咲は先程のやり取りに目もくれず、黙々と弁当を食べている。

 その弁当は、エイトが作ったもの。実はこれまで弁当を持って来ていなかったのは、使用人の楓が料理を作れないからなのだ。

 屋敷の使用人として致命的ではあるのだが、三咲に食のこだわりがないが故になんとかなっていた。


「――皆、いる?」


 続けて、紗菜が屋上にやってきた。


「紗菜先輩、お久しぶりです!」


 エイトが驚いた顔で紗菜を見る。

 ここ一週間、屋上に来なかったからだ。


「今日まで何か忙しかった感じですか?」

「ううん、私がいると邪魔になるかなぁって……」


 紗菜は付き合っているエイトと三咲の邪魔にならないように、避けていたのだ。

 ちなみに昭伍もそれを知っているのだが、遠慮せず屋上に来ていた。


「実は、エイトくんに相談があって……」

「相談?」

「エイトくんのお父さん――一樹さんにお礼がしたくて……何かプレゼントしたいんだけど、好きな物とかわかったりする?」


 助けられてばかりで、自分が何もできずにいたことをずっと気にしていた紗菜。


「父さんの好きな物か……実は俺もわからないですけど――――あっ、そうだ!」


 エイトはスマホを取り出し、スピーカーモードにして誰かに電話をかけた。


『もしもし? 俺俺俺、俺だけど?』


 その相手は、一樹の相棒である瑛弍だ。


「お疲れ様です。エイトです」

『おぉエイトか! お前から連絡するとは珍しいな! 三咲ちゃんとはどこまで行ったんだ?』

「……皆に聞こえるのでその話は後にしてください」

『ん? スピーカーモードにしてるのか。何かお悩みでも?』


 瑛弍が訊ねると、紗菜が答えた。


「あの、一樹さんの好きな物とかわかりますか? 実はプレゼントを考えてまして……」

『プレゼント!? あいつ絶対喜ぶぞぉ! そうだな……』


 瑛弍が考えを巡らせると、とんでもない事を言ってしまう。




『……紗菜ちゃん自身をプレゼントするのが一番喜ぶと思うぞ!』




「えぇぇぇぇ!?」


 紗菜が思わず身を縮める。


「瑛弍さん、相変わらずぶっ飛んでるな……」

『だろ? 褒めてくれてありがとな!』

「昭伍、瑛弍さんを調子に乗らせない。そして瑛弍さんは何馬鹿なこと言ってるんですか?」

『真面目だぜ? あいつムッツリだから、あのクールな顔で頭ん中ピンク一色だ! それにエイトだって、三咲に迫られたら嬉しいだろ?』

「……エイト、そうなの?」


 内容を全く理解していない三咲が、食べる箸を止めてエイトに聞いた。


「ちが……あ、いや……その――じゃない!! 瑛弍さん、まともな答えを出さないなら父さんにチクりますよ」

『そもそも俺に相談した時点でまともな答えが返ってくると思った?』


(その通りだ……その通りだけど、あなたしか頼れる人がいなかった…………父さんの好きな物を把握してなかった自分が憎い……)


「えっと……そういうことではなくて――!」


 何故か満更でもなさそうな紗菜。


「今は、ちゃんとした『物』をプレゼントしたいんです!」

『なるほどねぇ~…………まぁ超真面目に考えると、音楽関係の物がいいか?』

「最初からそう答えてくださいよ。でも、音楽? 正直、父さんにそんなイメージないんですよね……」

『まぁあいつ、煙草の次くらいに隙あらば音楽聴いてるからな。最近はハマったバンドマンの曲聴きまくってるな……なんてバンドだったっけな? ちょっと名前が長くて覚えてない。ただ、曲は全部持ってると思うし、無難にイヤホンとか音楽プレイヤーをあげるのがいいと思うぜ』

「なるほど……明日が給料日なので、家電量販店に行ってみますね」

「紗菜先輩、バイトしてるんですか?」


 エイトが聞くと、紗菜が頷く。


「中巌区に近い東磐区のコンビニで働いてるの。家が貧乏だし、生活費を稼がないと……」

『家が貧乏……いいこと聞いたかもしれん』


 瑛弍が意味深に呟いた。



   ※



「……落ち着かん」


 時刻は午後六時を回っていた。

 一樹は不機嫌そうに頭を掻きながら、東磐区の街を歩いていた。

 暇な移動時間――本来であれば音楽を聴いてやり過ごしているのだが、イヤホンが壊れてしまい、更に予備用のイヤホンも見当たらなかったため、聴くことができないでいる。

 一樹の財力的にすぐに新しいイヤホンを買えるのだが、彼がこれまで使っていたイヤホンは生産終了しており、追い打ちをかけるように修理も打ち切っていたのだ。音に強いこだわりを持つ彼は店頭でじっくりと選んでから買いたいのだが、ここしばらく何でも屋の依頼が続いたため、その時間もない。

 下手なイヤホンで聴くぐらいならと、一樹は買わずにいた。


「明日は少し時間がある。その時に買えばいいか……それよりも、瑛弍は何を企んでる? あそこのコンビニに行くといいことがあると聞いたが、何があるんだ? ……ともあれ、丁度煙草が切れたところだ」


 一樹は前方にあるコンビニに入る。


「お姉さん綺麗だねー、彼氏いるの?」


 入った瞬間、治安の悪い言葉が聞こえてくる。

 明らかにチンピラな男三人が、女性店員を口説いていた。


「!?」


 本来であれば他人事と思って見過ごしていたが、その店員の顔を見て驚く。


「えっと……いないです……」


 その店員は、紗菜だった。

 男三人に目をつけられ、困っているように見えた。


「あっ、タバコ頂戴! 番号は……69(シックスナイン)!」

「六十九番ですね! 少々お待ちください!」


 度の過ぎたセクハラ発言だが、意味を理解してなかった紗菜は何も感じずにレジの後ろにある煙草を探し始める。

 男たちは彼女の尻を見ながら、ニヤニヤと呟き始めた。


「あれで彼氏いないとか嘘だろ……!」

「いや、俺の経験上、あの反応は嘘をついていない」

「今夜は久しぶりの上物ですね……!」


「――――おい」


「あ?」

「えっ!?」


 一樹が男三人に話しかけた。

 その声が紗菜にも届き、驚いた顔で振り返る。


「……オレの『彼女』が、何だって?」

「えぇ!?」


 思わぬ発言に、紗菜は手に取った煙草を落とす。


「ッ!?」


 一樹の目を見たリーダー格っぽい男が怯む。


「あぁ? なんだお前、ヒーロー気取りか?」

「それが本当ならボコそうぜ。目の前で彼女マワして、新しい扉開かせようぜ」


 他二人はそれに気づかず、挑発する。


「……おい、帰るぞ!」


 リーダー格っぽい男がコンビニを出ようとする。


「!? どうしたんだよ!?」

「こんなやつ、三人いれば楽勝――」

「馬鹿野郎! そいつの目は本物(ガチ)のする目だ! 本当に殺されるぞ!」


 男が一人でコンビニを出て行く。


「お、おい待ってくれ!」


 二人も後を追い、コンビニを去って行った。


「…………」


 一樹は何事もなかったかのように、紗菜に近づく。


「すまない、『彼女』と嘘をついてしまって……」

「いえいえ! 気にしてないです1 むしろその……」

「?」

「あっ、その、助けてくれてありがとうございます!」

「大丈夫だ。あいつらがいると煙草が買えん」


 そう言うと、紗菜が後ろの煙草を確認し、一樹が吸う銘柄を手に取った。


「……よくわかったな」

「私の父も、同じ物を吸うので」


 煙草をレジに通し、一樹がお金を出す。


「中巌区付近は治安が悪い。別の店舗で働く方が安心できると思うが……」

「ここの時給、他に比べて高いんですよね」

「そうか。もし本当に困ったら遠慮なく相談してくれ。零宮のためなら、何でもする」

「!?」


 買った煙草を片手にコンビニを出る一樹。

 すぐ近くにある喫煙所で早速煙草を吸い始めた。


「…………やっぱり、カッコイイ」


 ガラス越しに彼の後ろ姿に見惚れる、紗菜であった。

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