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マシンガンズ・アニマ  作者: 白沼 雄作
第一章 運命の糸に触れる者
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終話 代償

「あぁ……なんて酷い……!」


 驚きを露わにする楓。

 その目の前には、巨大なヘビのような【アニマ】の死骸があった。

 拓巳が屋敷に侵入した際、真っ先に倒されたのだ。


「……俺の能力は、たとえ五分以内であっても、完全になくなった魂だけは戻す事ができないんです……」

「――まぁいいです。私、ヘビ嫌いですので」

「それなのに放し飼いにしてたんですか!?」


 意外にも全く悲しんでいなかった楓。

 そこに昭伍が入ってくる。


「エイト、俺の姉貴は血も涙もない。自分のペットですら可愛がれない可愛そうな女だ」

「やるか糞虫? そういえば、喧嘩を後回しにしてたわね……」

「そうだったな……泣いても知らねぇぞ」

「さっき涙もないって言ったのは何処のどいつだ!!」



 豹変した楓と昭伍が勝手に喧嘩を始める。


「?」


 それよりも、エイトは屋敷の奥へ外から進んでいく三咲の姿が気になり、彼女の後を追いかけた。


「三咲先輩!」

「……エイト」


 奥に広がる庭園で足を止めた三咲に話しかけたエイト。

 屋敷が広い故に庭園が複数箇所にあるのだが、その中でも一番広い場所だった。

 二人は横に並んで庭園を見渡していた。


「……昔、ここでよく遊んでた」

「ここなら、広々と遊べそうですもんね!」

「……エイト、気になってたんだけど」

「はい、何ですか?」


 三咲がエイトの方を向いて、こう訊ねた。


「…………エイトの言う『好きな人』って……私?」

「……え?」


 エイトの息が止まる。

 三咲からその追求があると思わなかったからだ。


「あの男と戦ってるとき……私を見てそう言ってた気がするから」

「あー、えっと……」


 エイトは回答に困る。


(ここで肯定――する勇気が出ない……! けど、変に誤魔化すのも違う気がする……!)


「……私を好きになる理由がわからない」

「え?」

「私は何が面白いのか、

     嬉しいのか、

     悲しいのか、

     美味しいのか、

     不味いのか、

     痛いのか、

     苦しいのか、

 

 ……わからない。皆わかるものが、私にはわからない。そんな『欠如』している私なんて――」



「それでも好きだ!!」



「っ……!?」


 エイトの中で何かが切れ、その勢いで三咲に告白する。


「理由なんて俺にもわからない! わからないんだよ!! 人を好きになるって理屈じゃない、感情の話なんだ!!」

「……!」

「感情の感じ方は人それぞれ違いはあるけど、それを明白に言葉に出来る人――感情がわかる人なんてごく僅かなんだ! それが普通なんだ!! だから、自分自身を卑下にしないでくれ……!!」

「エイト……!?」


 感情的になったエイトは無自覚に涙を流す。


「!? すみません先輩、その……これは――!」


 我に返ったエイト。何も考えずに言葉を吐いた自分に後悔するが――


「……三咲」

「え…………」

「三咲って呼んで。それと、敬語禁止」

「ぁ……ぇ…………!?」


 突然の提案に、エイトは混乱する。


「恋人って……そういうもんでしょ?」

「え!? はい――じゃなかった、えっと……その……」


 告白を受け入れてくれると思わなかったエイトは、戸惑いつつも呼吸を整える。


「――改めてよろしく、三咲」

「ふふっ……よろしい」

「えっ…………!?」


 三咲が微笑んだ。

 これまで何年間も一緒にいたエイトだが、彼女が笑うところを初めて見たのだ。

 そして、彼女自身としても感情を失って以来初めて笑ったのだ。


「今……笑って……!?」

「?」


 三咲自身はそれに気づいておらず、自分の顔に触れてみるも、その時にはもう微笑みは崩れていた。


「――――ゴホン!」

「うぉお!?」


 突然、誰かの咳払いが聞こえ、油断していたエイトが変な声で驚く。

 いつの間にか二人の横に、楓が立っていたのだ。


「お楽しみのところ失礼します! エイト様に報酬を渡すのを忘れていました!」

「いえ、いいですよ! 先ぱ――三咲のためにやったことなので」

「その三咲様が考えて選んだ報酬なので、受け取ってください!」

「三咲が……?」


(報酬っていうから、現金のイメージが強かったけど……)


 楓が「はい!」っと元気よく差し出したのは一つの鍵。

 古びており、少し形状が大きいことから、明らかに普通の鍵ではないのがわかる。


「これは……?」


 エイトは報酬を考えた張本人――三咲に訊ねる。


「――家の鍵」

「…………??」

「私の家の鍵。つまり、この屋敷の鍵。一つ余ってたから、エイトに――」

「待って待って待って!?」


 エイトはもらった鍵を三咲に返そうと差し出す。


「余ってるならスペアとして取っておけば良くないか!?」

「まぁ私が基本家にいますし、大丈夫です!」

「そういう問題!? というか、仮にいらないとしても、どうしてそれを俺に!?」

「……いつでも出入り出来るようにすれば、エイトが困らないと思ったから。特に登下校の時に」

「そこまでする!?」

「まぁまぁ、二人がお付き合いするのであれば、それが充分な理由になると思いますよ!」


 少し前までのやり取りを全部聞いていた楓。


「いっそのこと、ここに引っ越してもいいですよ」

「何変なこと言ってるんですか!? 困ります!」

「……嫌なの?」

「えっ!?」


 三咲の思いがけない言葉に、エイトの心拍数が急上昇する。


「だって…………ほら、父さんに迷惑かかるわけだし――」


「――そんなこと気にすんなって!」


 会話に割り込んできたのは、屋敷の修復作業を行っていた瑛弍。

 一樹に酷くやられたのか、全身の至る所に包帯が巻かれており、そして何故か木刀を片手に持っている。


(瑛弍さん……父さんに治療してもらえないまま駆り出されたのか……)


「あいつだってきっと喜ぶぞ! 引っ越し作業も俺に任せろ! 足の速さには自信があるからな!」

「は、はぁ……」

「エイト?」

「……そんな目で見られたら断れないだろ」

「言質取れたぜ! 一樹に報告報告ゥ!」


 瑛弍は何故か逃げるように退散しながら電話をかけ始める。


「良かったですね三咲様! 賑やかになりますよ!」

「一人増えても変わらないような……」

「よろしく、エイト」

「っ! こ、こちらこそ……!」


 こうして、エイトは三咲と一つ同じ屋根の下で生活を共にすることとなった――







 一方、門付近では。


「ぅ……」

「昭伍くん!?」


 ボロボロな姿で倒れてる昭伍を、トイレから戻ってきた紗菜が発見する。


「どうしたの!? 誰にやられたの!?」

「姉……貴――――」


 そのまま昭伍は気を失う。



「ふっ、弟が姉に勝てるわけねぇだろ……!」


 どこかから、そんな声も聞こえた気がした。



   ※


 

「ただいまー……」


 その日の夜。

 色々あったエイトは疲れ切った顔で帰宅していた。


(この家とも、あと少しで…………)


「おかえり、エイト。話は聞いているぞ」


 キッチンでミートソーススパゲッティを作っていた一樹。


「好きな人と生活が出来るんだろ? 最高じゃないか!」


 自分のことのように嬉しいのか、一樹のテンションが少し高かった。


「まぁそうだけど……父さんは大丈夫なの?」


 エイトはスパゲッティが辛くなることを悟り、事前にお茶を準備している。


「? 何がだ?」

「俺がいなくなったら、父さんが……」

「――息子がそんな心配しなくていいさ」


 一樹が出来上がったスパゲッティをリビングの机の上に運んだ。


「子離れする時が来た――ただそれだけの話だ」

「父さん…………」


 エイトと一樹が普段と同じ場所に座る。

 父の気持ちを考えていたエイトは、いただきますの挨拶も忘れてスパゲッティを食べ始めた。


「…………?」

「どうした? もしや、不味かったか?」

「いや、全然美味しいんだけど、あまり辛くないなと思って……もしかして、別々に作った?」

「いや、一緒のはずだ」


 念のため、一樹はエイトの分を一口だけ頂くことに。


「…………オレのと変わらないな。恐らく、疲れで舌が一時的におかしくなってる可能性もある。しばらくはゆっくり休んでくれ」

「わ、わかった……」


 自身の中で何かが引っかかるエイト。

 だが空腹を前にそれを考えることを放棄し、スパゲッティを食べ進めた。






                                   第一章 完

第二章は後日、まとめて投稿致します。

先に読みたい方は、『ノベルアップ+』から是非!

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