スライム「好物は屋根裏です」
朧げにあった前世の記憶をハッキリと自覚したのは、この世界で10歳の時。教会でスキル判定の儀式を受けている最中だった。
スキルとは人間一人一人に与えられる能力で、誰しも必ずひとつは貰える神様からのプレゼント。
私が神様から貰ったスキルは「念話」。
意識すれば動物は勿論、魔物や時には植物と会話出来る能力に私は喜んだ。
スキルを貰って数ヶ月。私は色々な生き物に話しかけた。
その間に面白いスライムに出くわしたので、今日もいつもの場所で観察している。
『豊潤なフワフワの中に微かな魔力と潤いを感じる。まさに至高の逸品』
我が家の屋根裏に生息している水まんじゅうみたいな見た目のスライムさんだ。
このスライムさんだが食べている時しか喋ってくれない。スライムに口はないので喋ると言うよりイメージを私の脳内に送り込むような感覚なんだけど、毎回ツッコミどころ満載のグルメレポートに笑ってしまう。
私の言う事は何となく向こうもわかるみたいで、話しかけてみたら「食事の邪魔はしないでくれ。不愉快だ」と、ハッキリ言われてしまった。
スライムさんは食べるか寝るかしかしていないので、話しかけるタイミングを今だに逃している。
一度違う場所に移動させたら滅茶苦茶怒られたので、物置き代わりの屋根裏に私が通う事にした。
ズリズリと這い回るこのスライムさんの移動速度は遅い。
私は綿埃を摘んでスライムさんの頭? 違うな。スライムボディのてっぺんにその綿埃を置いた。
みるみるスライムボディに呑み込まれて行くが、取り込み終わったら私の顔面にスライムさんがタックルをかまして来た。
スライムなんで攻撃力はないけど、ビックリしたぁ。
『この馬鹿者! 余計な事をするな』
「え、だってこの方が沢山食べられるでしょ?」
食べるのが大変そうだから手伝ったと言うと、呆れられた。
どうやらこのスライムさんは自身で動いて、更にこびり付いている汚れを最後に食べるのが好きなのだ。そんなこだわりがあるとは知らずに申し訳ない。
『この最後に残ったこびり付いたのが美味いんだ』
「あー。ご飯炊いた時に出来るおこげね。わかる」
『む? わかるか?』
スライム達はあの感覚が好きなのかと思って他にも聞いてみたら、大体は食べられれば何でもいいって回答が来たのでスライムさんがグルメなだけだと笑ってしまったよね。
屋根裏を改良して子供部屋にする許可をスライムさんからもぎ取れたのは、出会いから大分経ってからだった。