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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
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2-55 襲撃の犯人を捕まえたい

 必要以上の氷を出し、残ったそれらに敵を追わせる。限られた空間内で、追尾する無数の氷と鬼ごっこだ。シューティングゲームにこういうのがあったなと僕は思った。平面ではなく、立体で視野も限られているタイプだ。溶けにくさにこだわったので、避けるしか回避方法はない。


 そして、そのうちの一つが、敵の足を掠めた。──直後、その部分から、敵の氷結が始まる。当たったら氷像になる魔法。ただ、命までは奪わない。眠らせるだけだ。


「自分が使った魔法の説明はするなって言われてるからさ。どうなるかは言えないんだよね」


 昔、勝ちを確信して、ペラペラと話した結果、酷い目に合わされたのだ。同じ過ちを繰り返すことも多々あるが、できれば繰り返したくはない。


「──化け物め……!」


 脳内に、声が届いた。性別年齢の区別のつかない、加工されたような声だ。僕はその顔を拝んでやろうと、両肩にも氷を当て、腕を封じてからフードに手を伸ばす──と、直後、姿が消えた。


「……いやいや、やめてよ、そういうの」


 その小さな人物は、凍りつく自身の手足を切り落とし、傷口を凍らせ、手足をあえて氷漬けにしたまま、大事そうに抱えてその場から離れる。


「そういう無茶はしない方がいいと思うよ。人生、何が起こるか分かんないし」


 思いきり睨まれる。その瞳が、赤く、輝いたような気がした。そのとき、僕は歌声がもう、聞こえないことに気がつく。


「もー、ゆっくり聞きたかったのにい。……まあいいや、後で聞かせてもーらおっと」


 僕は敵の残った片足を見つめる。


「それで、君、どうしてマナを狙うの? ま、言わないならここで殺してもいいんだけどね。僕は国のために動いてるわけじゃないし、協力者をあぶり出そうとも考えてないからさ」


 一歩ずつ、近づいていく。マナを殺そうとしたのだ。絶対に無理な企みだとしても、企んだ時点で、決して許されない。それを、自分の手でどうにかできる機会は、おそらく、今しかないだろう。国はお堅い真面目なやつらばかりだし。


「さあ、どうする?」


 僕は切れ味のいい風の刃を、空間全体に用意する。首をはねるのは得意だが、あいにく、手加減の仕方は知らない。しかし、敵は、話そうとしない。


「へえ、そう。──じゃあ、ここで死ね」


 風刃が敵の喉を狙い、鋭く舞う。殺したとしても、正当防衛か何かで、捕まりはしないだろう。感謝されてもおかしくはない。


 そう、本気で刃を差し向けたのだが──、


「っ!?」


 敵を囲うように顕現した土の壁により、すべて防御された。僕は咄嗟に魔力探知する。が、周囲に動く気配は探知できない。


「どこに──?」


 そのとき、石タイルの床がせり上がる。そして、その人物床を突き破って、空間の中に入ってきた。桃髪の少女──マナだ。まだ、儀式のときのままの服装だった。


「マナが守ったの?」

「はい」

「……なんで?」

「あなたが道を踏み外すことのないように」


 土壁が消えると、敵も消えていた。どうやら、マナの手法を真似て、地面に潜ったらしい。


「あ──」

「土の中は魔力が豊富でよく見えませんからね」


 これ以上、追うのは不可能だ。あの状態からもう一度、僕たちに向かってこようとも思わないだろう。


 僕は、土壁を地面に埋め、氷を水蒸気に変え、地面の穴を塞ぐ。納得がいかない。


「人を殺すなとは言いません。でも、それは、あなたに、不当な状況で、傷ついてほしくないからです。殺してもいいと言った覚えはありませんよ」


 マナの言葉は、不思議と頭にすんなり入ってくる。


 それが、やけにムカついたからか、僕は、心にもない言葉を発していた。


「──偽物のくせに。偉そうにしないでよ」


 マナの顔を見る勇気はなかった。言ってから、とても後悔した。しかし、


「ごめんなさい」


 マナは、本当に自分が悪いのだとでも言うように、謝った。だんだんと、腸が煮え返るような怒りが込み上げてきた。


 だが、それは、自分の愚かさに対してだ。


「……いや、今のは僕が悪かった。ごめん」


 顔を見る勇気はないまま、時は流れ、人々は意識を取り戻していく。そうして、兵士たちがこちらへ向かってくる。


「他に何かやることはない?」

「はい。歌って終わりです」

「じゃあ、今の格好、まなちゃんに見せに行こうよ。壁の向こうにいたから、よく見られなかっただろうし」

「まなさんは、私の歌を聞いていましたか?」

「それがさー、まなちゃん、意識がはっきりしてたみたいなんだよね。すごくない? 僕、まなちゃんに起こしてもらわなかったら、ここに来られなかったよ」

「さすが、まなさんです。私もまだまだですね。精進しなくては」

「いや、それ以上極めたら本当に人が死ぬって……」


 僕は通路の先を見つめる。敵が逃げていったであろう方向を。相手が子どもだろう何だろうと関係ない。先の魔力、確実に記憶した。次に会えば、すぐに分かる。


「あかりさん、まなさんのところまで案内してください」

「え?」

「早くしてください。早くっ、早くっ」

「あーはいはい……」


 どんだけまなちゃんのこと好きなんだよ、と嫉妬せずにはいられなかった。

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