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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
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2-50 マーダーのせいにしたい

 この部屋の灯りがついているだけで、壁の内側一帯がほんのり明るく照らされる。マナは明日、忙しいので、夜更かしするわけにもいかず、早々と、光る鉱石に魔力を込めて、灯りを消した。


 私のためにわざわざ用意されたベッドで横になっていたのだが、もぞもぞと、マナがこちらに移動してきた。


「来ちゃいました」

「……自分のベッドがあるでしょ?」

「えへへ」


 大きくて、ふかふかのベッドだ。狭いとは思わないけれど。なぜわざわざ一緒に寝ようとするのか、分からない。


「まあいいわ。おやすみ」

「夜更かししましょう」

「あんたね……明日、忙しいんでしょ? 早く寝なさいよ」

「そんなの知りません」


 私はそんなマナの発言に驚いた。いつもなら、渋々、私に従っているイメージがある。思えば、マナに反抗されたのは、初めてかもしれない。


「そういえば、マーダーが効いてるんだったわね……」

「明日のことは明日考えればいいんですよ」

「どうなっても知らないわよ……?」


 マナは、くっついてこなかった。いつもなら、そろそろ、暑苦しく感じる頃なのだが。


「緊張してるの?」

「緊張? なんですか、それ?」

「多分、今、効果がピークなのね……」

「がぶり」

「うぐっ!?」


 突然、首筋に噛みつかれた。普通に痛い。


「え、何? なんで噛みついたの? 痛いんだけど」

「美味しいのかなと、確かめてみたくなってしまって」

「あんた、いつもそんなこと考えてんの……?」

「味はしませんでした」

「ご報告感謝するわっ!」


 身の危険を感じる。二人きりで一緒に寝るのは危険かもしれない。


「うひゃあっ!?」


 今度は首をくすぐられた。変な声が出てしまった。


「ちょっと、急に何すんのよ!」

「くすぐったら、どうなるんだろうと思って」

「くすぐったいに決まってるでしょ……?」

「可愛い声でしたね」

「そりゃどうも!」


 危険だ。かなり危険だ。とても危険だ。明日の朝までに、これ以上、何をされるか分からない。生きて帰れるだろうか。すると、今度は匂いを嗅ぎ始めた。


「すんすん」

「怖い……、すごく怖い……!」

「怖がる必要はありませんよ。何もしませんから」

「すでに十分何かされてるわよっ!」


 くっつかれるだけでも、かなり距離感が近いとは感じていたが、あれでもまだ遠慮していた方だとは知らなかった。


「ぴたっ」

「え、今度は何?」

「心臓の音を聞いています」

「普通に動いてると思うけど……?」


 マナは私の胸に耳を当て、


「とくとくとく──」


 と、鼓動を数え始めた。私はもう、何が何やら分からず、困惑していた。


「すやー」

「えええ、そこで寝るの……?」


 動いていいのかどうかも分からない。起こしたら可哀想だと思って、そっと離れると、追うようにして、ぴったりとくっついてきた。


「全然、寝れそうにないんだけど……」


 結局、目だけは閉じていたが、ろくに眠ることもできないまま、朝を迎えた。


「──恥ずかしすぎます……! まなさんに、合わせる顔がありません……!」


 翌朝、マナは毛布にうずくまって、すっかり隠れていた。正気に戻ったらしい。


「まあ、薬の効果が切れたみたいで良かったわ」

「わああぁ……! 首に傷が、まなさんの、首に、傷がっ……!」


 顔だけひょっこり出して、こちらを覗いていた。


「まあ、髪の毛で隠れるでしょ」

「ひあああぁぁ……!!」


 悶えていた。いい気味だ。存分に恥ずかしがるがよい。


「まなさん、ごめんなさい……。本当に、ごめんなさい、申し訳ありません……!」

「別にいいわよ。あたしも気抜いてたし」

「お優しい……! なんとお優しいんですか……! しかし、それでは私の気が済みません!」


 そこまで言うなら、今日歌わないでほしい──そう言いかけて、私はやめた。それは、なんだか、すごく、卑怯な気がしたから。


「そうね、じゃあ帰りに駅弁とトンビアイス、奢ってもらえる?」

「──そんなことでいいんですか?」

「すぐに帰る予定だったから、全然お金が足りなくて。駅弁があんなに高いとは思ってなかったのよ」

「まなさん、大好きです」


 マナが起きるよりも早く着替え終わって、髪を確認していた私を、彼女は後ろから包むように抱きしめた。服は昨日、マナと話しているとき、使用人が洗濯して畳んだ状態で部屋に届けにきた。


「あんた、そろそろ用意とかしなくていいわけ?」

「使用人の方たちがすべてやってくれます。先に朝食ですが、このままでも問題ないでしょう」

「まあ、そうね」

「……えへへ」

「楽しそうね」

「──はい。幸せですよ」


 その笑顔は、枯れた花さえ、命を吹き返しそうな、見ているだけで力がもらえる笑顔だった。


「あ、それから、もう一つ、相談なんだけど──」

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