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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
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2-42 嘘を隠したい

 他人事のように眺めていると、女王の視線が私を捉えていることに気がつく。次第に他の視線も集まってきた。だから、私は尋ねられる前に答える。


「あたしはどっちでもいいです。歌うか歌わないかなんてマナが決めることだし。でも、国民の期待と爆発のことがある限り、マナは歌うっていうと思いますよ。声が出なくてもね。それを止められるなら止めてみなさいよ。あたしは無理だと思いますけど?」


 すると、マナに体重をかけられ、背を縮められる。あかりやレックス、それからトイスが味方をするのだ。マナ自身の強さも含めて、誰がマナを止められよう。まあ、声を持っているのは私なのだけれど。


「こればかりは、マナの気持ちだけで決められる問題じゃない。命がかかっているのだからな」


 それも、エトスの言う通りだ。これは、マナの意思とマナの命を天秤にかけた選択。私は命の方が重いと、そう思う。だから、本当は、私の中での答えも、すでに決まっていた。どちらでもいいなんて、真っ赤な嘘だった。


「どちらにせよ、声が戻らないことには……」


 モノカという、マナの姉であろう女性の言葉を最後に、その場に静寂が訪れる。すると、それまで沈黙を保っていたあかりが、珍しく、おずおずと手を挙げる。手を挙げるのが珍しいわけではなく、様子をうかがうような態度が珍しいのだ。


「なんだ貴様。まだいたのか」

「酷いですね!? えっと、僕、思うんですけどー」


 場の空気がピリピリするのを、私は肌で感じる。あかりが話しているだけなのに、空気が悪くなるのを感じる。新種の魔法だろうか。ある意味すごい。


「本番までに声が出るようになれば歌う、出なければ歌わない、で、いんじゃないですか?」


 その瞬間、空気が弛緩していくのを感じた。


 祭り中止派は、おそらく、本番までに声が戻るとは思っていないだろう。戻るとしたら、事件が解決するときだと、勘違いしているに違いない。本当は声と爆発には関係がないことを知らないのだ。


 祭り賛成派は、あくまで、歌えることを前提にしている。声が出なかったら歌わないという条件は、十分に飲めるものだろう。


 つまり、この場では、この条件こそが、全員の納得のいく答えだったと言える。


「え、何ですか、その反応……?」

「あかりにしてはいい意見だったってことじゃない?」

「あ、そういう感じ? 僕、いいこと言っちゃった? いやあ、やっぱ、僕ってぐへえっ!」


 再び、マナに叩き伏せられる。そして、私は紙を手渡され、読むように指示される。


「調子に乗るな──だそうよ」

「はい……」


 地面にめり込んだ体勢で、あかりは返事をする。ひとまず、この場での話し合いは終わった。


「あとは、ハニーナに相談するだけね」


 私の言葉に一同が振り向く。──何か変なことを言っただろうか。


「ハニーナと、話せるのですか?」


 女王に問いかけられて、私の方が驚く。

「え? モンスターは種族の中に一体、必ず人間と意思疎通ができる存在がいるでしょ? それがハチプーたちにとっての、ハニーナなんじゃないの?」


 私の常識は、どうやら、人間とは違うらしかった。


***


 城の外に出れば、そこには、相変わらず、草原が広がっていた。遠くの方にはモンスターたちの影が見える。城の結界を恐れているのか、近づいて来る様子はない。とはいえ、絶対に安全ということでもない。


「足にドラゴンを貸してやろうと思ったんだが、あれは魔法と翼を併用して飛んでいるらしい」


 要は、魔法の使えない少女がいるから飛べないという話だが、


「あたしたち、戦争に行くわけじゃないんですけど?」


 ただ移動するだけにドラゴンを使おうとするなんて、さすがエトス。冗談だとしても笑えない。


「マナの声を奪ったのがハニーナである可能性も捨てきれない。第一印象は大事だ」

「それなら尚更でしょ……」


 眉間のシワを揉む白髪の少女を、私はなんとなく眺める。声が出せないというのは、こうも不便なのかと、思わざるを得ない。


「馬に乗っていくの?」

「こんなガタガタした道を、マナに馬で通れというのか?」

「あんた、シスコンなのね……」


 早くも、まなは、仮にも王に対して不遜な口を利くようになっていた。さすがというべきか、なんというか。それでも、要領を覚えているので、あまり相手を不快にさせることはない。今のは、エトスが怒らないと判断した上での発言だろう。それに、シスコンであることは事実だ。昔からよく、可愛がってもらった。


「──これに乗っていけ」


 わざわざ、王都の外まで見送りに来たエトスは、空から静かに大きな機体を降ろす。わざわざ、魔法で運んだのだろう。


「……ヘリコプター?」

「そうだ。魔法がなくても飛べる。安心して乗ってくれ」

「誰が運転するんですか?」

「マナだ。まだ十六だが、すでに免許を持っている」

「あんた、本当になんでもできるのね……」


 私はまなにどや顔を向ける。なんでもできるというわけではないのだが、人より才能に恵まれたことは確かだ。だからこそ、その使い方を考えなければならないと、常に自制してはいるのだが。


「メンテナンスは済んでいる。安心して使ってくれ」


 そうして、全員──まな、あかり、トイスが乗り込んだのを確認し、私は王都の外の草原から、離陸した。


 風の流れを魔法で見ながら操縦していると、まなが呟いた。


「王都って、上から見ると本当に綺麗な円形なのね」


 王都は夕日に照らされていた。すぐに日は沈み、辺りは真っ暗になるだろう。


 元々は、魔王が暮らしていた土地だ。ルスファでは珍しい地形だが、魔族の国は今もこのような形を取っているものが多い。それに、ルスファ以外の国では、しばしば見られる造りだ。際立って珍しいものではない。


 だが、目を輝かせているであろうまなのために、私は王都上空を一周してから目的地へと向かった。


 数十分程、草原の上を飛行していると、暗い視界に黄色い建造物が映った。六角形を張り合わせたような、まさに、蜂の巣の形をしている。


「もしかしてあれ?」

「めちゃくちゃ黄色いねえ」

「見れば分かるだろ」


 トイスの言う通りだ。黄色いのは見れば分かる。そして、あれほど、ハチのモンスターが住んでいそうな場所もない。つまり、あそこが巣というわけだが。


「あそこって、大量のハチプーがいるってこと? 僕、ハチ苦手……」


 あかりはほとんどの虫が苦手だが、中でもハチは、大の苦手だ。経緯はともかく、一度刺されてから見た目も音もダメになったらしい。


「──ぶーんって聞こえるわね」

「え、ねえ、僕、無理なんだけど。ほんとに、無理なんだけど。マジで。リアルにガチで」

「姉さんのためだと思って、頑張れ」

「おおお、アイちゃんのためならやれる気がする……!」


 私は不快感を隠そうともせず、斜め後に座るあかりを睨みつける。白々しいというか、腹立たしいというか──呆れて、何も言う気になれないというか。


「マナ、どうかした?」


 気配だけで、私の親愛する彼女は何かを感じとってくれた。もともと、察しがいいのが彼女だが、最近、ちょっとした感情の揺れにも気づくので、隠し事をするのが難しい。


 そして、私は声が出ないのを言い訳に、無言を貫く。嘘を言えば嘘だと、本当のことを言えば冗談でないと、見破られそうな気がしたからだ。


 ──それに、そろそろ、着陸のことも考えなければならないし。

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