表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
39/345

2-18 事情が知りたい

「ったく、あいつは……。一年で成長したかと思ったら、なーんにも変わっちゃいねえなあ」


 まゆは私の隣に座り、楽しそうに揺れていた。目を細める私の視線の先を辿り、私に視線を戻して、レックスはため息をつく。


「お前さん、幽霊──」

「無理。やめて。急に何?」

「……いやあ、そろそろ、暑くなってくるだろ? やっぱり、ここは怪談──」

「全身が痒くなって腐り落ちる薬、部屋中に塗るわよ」

「下手な怪談よりよっぽど怖えわ! ってか、あれか? お前さん、一番内側の門を通れたってことは、実は、いいとこのお嬢さんか?」

「さあ? そうかもしれないし、そうじゃないかもしれないわ。あたしのことより、あんたはどうなの? あたしたちにマナのこと教えて──っていうか、そもそも、連れ去るときにあかりに見られてたらしいけど、怒られたりしないわけ?」

「仕事失敗しちゃったってことだもんねー」


 私とまゆが一応、レックスの心配をしてやると、彼は窓に向かって、長いため息をついた。


「ま、あかりを騙そうってのが、そもそもの間違いだわな。オレは成功しねえっつったんだが……。まぁー、この歳になると、色々と付いて回るわけよ」

「何にも背負ってなさそうに見えるけど。そうよね。あんたも、手ぶらってわけにはいかないわよね」

「おうよ」

「それで? 何を引き合いに出されたわけ?」


 私の質問に対して、レックスの口は重い。あまりにも法外な条件なら、訴えてやると言いたいところだが──、


「──マナを正式に女王にする、って言われたのよ。今回は、蜜を採ったら、すぐに返してくれるって話だ」


 レックスの告白に、私はしばし、沈黙する。事情が分からないため、なんと言ってよいのか、検討もつかなかった。そして、マナだから、という要素を抜いたとき、私がもともと、逃亡した女王に対して抱いていた感情を口にする。


「──女王にならないといけないんでしょ? そうして生まれたんだから、どんな事情があったとしても、逃げるのは間違いだわ」

「……まったく、その通りだな。だから、城に返した。そしたら、嫌でも話をしないといけないだろ? まぁー、連れていけたのは、運が良かったのか、悪かったのか。偶然だったけどな」


 そういって、片目を瞑るレックスに、私はため息をつく。そこまで分かって誘拐したということだ。いや、連れ帰っただけなので、誘拐とは言わないのか。


「本当に、返してくれると思う?」

「それは分からん。もしかしたら、マナも、女王になってもいいですよーって言うかもしれないしな」

「……そうね」


 考えもしなかったが、マナ本人がここに残りたいという可能性だってある。もともと、それが正しい選択であり、本来、王女であるマナと私が一緒にいるなんてことは、あり得ない話なのだ。ここまで来ると、いよいよ、私やあかりの方が、城から女王を連れ去ろうとする悪者のようにも思えてくる。


「それにしても、随分、甘い考えね。誰が言い出したか知らないけれど、正式に即位しなくてもいいなんて。普通、許されないわよ」

「まあな。ただ、やっと、代理の王様も女王の力を借りなくても国を回せるようにはなってきた。混乱も少しずつ収まってきてる。そんな状況だから、代理を本当の王様に格上げしよう、って考えてる連中がいるみたいだな。タイミングが良かったんじゃねえの? とはいえ、これを逃したら、マナは一生女王になれないどころか、王族から勘当されるかもしれん。クランの名は確実に外されるだろうな。あれは、王になるやつにしか与えられない称号だから」


 クランの称号があるのとないのでは、地位に大きな差がある。扱いや見る目も、だいぶ変わってくるだろう。今まで、女王になると思われていたからこそ、受けられていた様々な恩恵が無くなるのだから。


「即位するとしたら、どのくらいかかるの?」

「即位の儀式自体は二日かけて行われる。そのあとに、貴族のところや国民たちに挨拶して回るのが恒例だな。一週間はかかるんじゃねえか?」

「──儀式自体は二日で終わるのね?」


「んぁ? そのはずだが?」

「蜜を採るのは、祭りの間のいつなの?」

「それは三日目だな。明日と明後日の二日間は前日祭らしいが……どったん? そんな難しい顔して?」

「本気で気づかないの? どう考えても約束破る気しかないじゃない。三百年に一度のお祭りなんだから、三百年前のことは誰も覚えてない。だから、お祭りの内容を少し変えたところで、誰も気づかない。──でも、二日前からお祭りする必要がどこにもないことくらい分かるでしょ?」


 レックスは少し考えて、両腕を投げ出した。


「あああっ!? そういうことか! 二日間は即位させるための時間か!」


 どちらにせよ、明日には帰らなくてはならないのだが、いよいよ、本当に時間がないということが、明確になった。


 王様はもともと、マナを女王にするつもりで、レックスを騙して連れてこさせたのだ。


「今日は魔力切れでマナの意識が戻らないとしても、明日には目が覚めるわ。そしたら、儀式が始まる。連れ出すにしても、連れ出さないにしても、タイムリミットは──明後日の夜よ」

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ