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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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番外編 三度目の破壊11

「本当の朱里は、あの女の方なんだよ。勇者の名を聞いたとき、あいつは嘘をついたんだ」

「なぜそんなことを──」

「さあね。僕にもあれの思考は理解できない。多分、こいつにも。だから、お願いだよ。──こいつを、救ってあげてくれ」


 そう簡単に決められる問題ではないし、まだ色々と混乱しているけど。


「分かりました。必ず、彼を救うと誓います。クレセリア様の名にかけて」


 そう、笑顔で言わなければ、取り憑いている龍神が安心して離れられないだろうと、そう思ったから。


 私は彼を信じ、強くあることにした。なぜ私に頼むのだろうと、疑問を抱かずにはいられなかったけれど、それを聞いている時間はなかった。


 クレセリアカリは私の快諾に驚いた顔をして、それから、はにかんだように笑った。


「うん、よろしく、マナ。──またね」


 そうして、竜巻が消えると、その中心には、私と、倒れたあかり──否、あかねだけが残された。


***


「そっかあ。僕が勇者じゃないってことも、あの子が嘘をついてたことも、わりと最初から知ってたんだね」

「それを抜きにしても、あなたは弱すぎましたから」

「でも結局、僕、愛を倒したからここにいるわけじゃん?」

「私は剣だけ、あなたは剣と魔法の併用という、いささかハンデのある戦いだったかと存じますが」

「それでも勝ちは勝ちだし、負けは負けだよ」


 僕が勝ち誇った笑みを浮かべると、愛は頬を膨らませて不機嫌そうにする。その頬をつつくと、愛はそっぽを向いた。


「てか、愛、僕が勇者を辞退したいから頑張ってる、って思ってたんだね」

「城の代表として勇者の説明をしたとき、どうも気乗りしない、といった印象を受けましたから」

「なるほどね」

「あのとき、どうしてそんな顔をしたんですか? あかねさんへの嫉妬、というわけでもなさそうでしたし」

「それは──」


 勇者とは魔王を殺す存在だ。


 そして、勇者を殺すことができるのは魔王、もしくは、勇者自身だけ。


 勇者とは、生まれながらにして特異な体質であり、他者よりも恵まれた知能と身体能力を持つ。


 しかし、勇者が穏やかな死を迎えた試しは、今までに一度もない。なぜそうなるのか、解明はされていない。


 淡々とした説明を受けた後に、過去の勇者たちがどうなったのかも聞かされた。


 ──そのとき、僕は、勇者に憧れを抱いた。魔王に殺されるか、自分で死ぬかの二択しかないということは、それ以外の誰かに殺される心配をしなくてもいいということだから。


 そして、勇者たちは皆、穏やかに亡くなっているように聞こえた。少なくとも、僕には。


 さらには、恵まれた知能と身体能力、と聞いたとき、確かに、妹は勇者で間違いないという、確信も得た。そんなのを相手にしていたと知って──そりゃ、勝てないわけだ、と思った。


「あかね?」


 ただ、愛は気乗りしないと表現したが、僕がこの説明を聞いて、一番強く思ったのは、勇者という存在に対する──嫌悪だった。それが顔に出てしまっていたのだろう。


「──愛はさ、兄弟の誰かが勇者だったら、どう思う?」

「そうですね。自分がなりたいというのとは別に、代わってあげたいと、そう思うのではないでしょうか」

「ま、僕も同じようなものだよ」


 もし、僕が勇者だったら、朱里と同じことをしていただろうか。


 もし、僕が勇者だったら、少なくとも、こんな人生を送ることはなかっただろう。


 もし、僕が勇者だったら。朱里が自殺を選ぶことも、なかったのだろうか。


 愛ほど純粋な感情ではない。それでも、代われることなら、代わってやりたかった。


 残酷な運命を迎えると知っていて、それでも生きて、魔王を倒せと言われたとき、一体、朱里はどんな思いだったのだろう。


 そんなことを思いながらも、いまだに彼女への復讐を諦めきれない僕は、きっと、どこか、おかしくなっているのかもしれない。


 もし、立場が逆だったなら。妹は、榎下朱里にならなくて済んだのかもしれない。


『あかりちゃんは、あかねちゃんの妹でしょ? 妹は大切にしてあげないと』


 そんな母の言葉が、いつまでも耳に残っている。だから、捨てきれないのかもしれない。


「あーあ。僕も勇者になりたかったなあ」

「私もです。むしろ、私の方がなりたかったです」

「知ってるよ。だから、最初、殴ったんでしょ? 嫉妬的な感じで」

「あれはどう考えてもあなたが悪いです。王様に土下座を迫るなんて、そんなこと、小学生でもやりませんよ」

「うーん、否定できない。……でも、僕は、愛が勇者じゃなくて良かったって、そう思うよ。ま、あとはもう少し可愛いげがあればねえ」

「最後の一言が余計です。殴りますよ?」

「やめてほんとにまた気絶するから」


 そうして、話し込んでいるうちに、あっという間に一日が終わった。


 ──それから数日後、ハイガル・ウーベルデンが亡くなった。


 勇者じゃなくても死ぬことはあるのだと、思い知らされることになった。


 いつか、この日々が終わってしまうんじゃないかと思うと、途端に怖くなった。

しばらく更新停止します。

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