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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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番外編 三度目の破壊10

「言いづらいのでしたら、無理して仰らなくても──」

「いや、違うんだ。ただ、どう話せばいいのか、分からなくて。時間もないし」


 そうして、再び、彼は魔法を披露し始める。別に戦わずとも、音を立てていればいいだけなのだが、私が戦いたいので、向こうが配慮してくれている形だ。


 取り憑いている何か──おそらく、本当に龍神クレセリアの魂だろうと半ば確信していたが──かなり、戦いの心得があるらしく、あかりの体を最大限生かした戦いをしていた。


 私が手加減しているとはいえ、ここまで私と渡り合えるということは、あかりも極めれば、これ以上に強くなる可能性があるということ。


 ──そう思うと、心が踊る。


 だが、それは後回しだ。


「──ある日、こいつは、もう二度と悪いことはしないって、心に誓ったんだ」


 だが、強制されていたとはいえ、悪癖は簡単には抜けない。そうそう人なんて変われるはずもなく、何度も過ちを繰り返しそうになっては、思い止まる。そんな日々が続いたらしい。


 しかし、そんなあかりを、あかねは許さなかった。


「妹は、こいつが更正しようとするのを止めた。色々、やらされたんだ。本当に、色々と、指示一つでね」

「そんなの──」


 無視すればいいだけだ。あかりは男なのだから、あかねより力はあるだろうし、どうとでもできただろう。


「こいつ、根はいいやつだからさ。止められなかった自分も悪いって、そう思い込んで、何かされても、抵抗しようとしなくて──いっそ、妹を殺して自分も死のうって考えてたくらいで」


 私たちは一旦、動きを止める。お互いに、息が上がっていた。やはり、動きながら話すものではない。誰のせいだか。


「こいつは、本気で不幸になろうとしてる。だから、幸せになろうとしない。そして、巻き込まないために、人に嫌われようとするんだ」

「嫌われようとする、ですか」


 それは、私が思いつきもしないようなことで、責任のある立場として、試すこともできないものだ。


 ともかく、確かに、嫌われることを目的としているのなら、初日の国王へのあの態度は満点だったかもしれない。なにせ、土下座だ。


「しかし、あくまでも私の目から見て、ですが、あかりさんはそんなに嫌われていないと思いますよ」

「え? いやいや、嫌われてるでしょ?」

「子どもが騒いでいる、くらいにしか思われていないかと」

「嘘でしょ? え、だって、マナが何もしてなかったら、死刑だったって言われたけど?」


 それは、出会い頭に殴ったときのことだ。確かに、周りの苛立ちが陰湿ないじめや殺人に変わらないよう、代表して殴った一面はある。だが、


「それは、脅されただけですね。せいぜい、執行猶予付きの判決が下るくらいでしょう」

「執行猶予って何?」

「……王女のビンタもそんなに高くない、ということです」


  とはいえ、彼の素行を顧みるに、執行猶予が取り消されて、地下牢送りになる可能性は非常に高かったが。


「ってことは、マナも?」

「私は、全員に平等な存在ですから。人に対する好き嫌いは存在しませんよ」

「それ、今の話を聞いても変わらない?」

「はい。今のところは」


 公務に私情を挟むことはできない。あかりとあかねは勇者として召喚されたのであり、どれだけ時が経とうとも、食客扱いだ。私が彼らを自分の感情で判断することはない。──個人としては、複雑ではあるが。


「それじゃあ、もう一つ、言いたいことが──」


 その瞬間、扉が開き、大勢の足音が施設内に響き渡った。あかねが援軍を連れてきたのだろう。


「マナ様、申し訳ありません。でも、やっぱり、待ってるだけなんてできなくて……」


 ──時間切れだ。どうやら、あかねは私が思う以上に慎重らしい。これ以上、二人でこの場にいさせるのが嫌だったのだろう。


 あかねの姿を見て、彼が殺意に溢れていくのが分かる。


 最初に感じたあの敵意は、やはり、あかねに向けられたものだったのか。


「もう少しだけ、時間をください。──次で仕留めます」


 私は魔力を集中させ、辺りを風と水で包み、竜巻を作り出し、その中心に私と彼を閉じ込める。


「さすがの私でも長くは持ちません。持ってあと、三十秒かと」

「分かった。──こいつは、本当は、榎下朱里じゃないんだ」

「え?」


 ──一瞬だけ、疑った。私は、彼をそこまで信用していなかったから。それは、勇者になりたくないがための、言い訳ではないかと。


 ただ、それが嘘なら、今までの話もすべて嘘ということになってしまう。


 だから、この滅茶苦茶な話を、信じることにした。

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