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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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番外編 三度目の破壊6

 前方への警戒を緩めず、私とあかねはゆっくりと後ろへ下がる。今日はクレセリアの生誕祭で、街にはこの像のレプリカが飾られている。──つまり、今、本物が壊されたというわけだ。


 そんな大事な像を変なところに置いておくなと思うかもしれないが、龍と称されるだけあって、宝物庫に入れられる大きさではない。そのため、ここは、ほぼ、クレセリア像専用の施設なのだ。


 その敷地の庭を、あかりが私に挑む場として提供し、施設自体は彼がストレスをぶつける場所としている。


 ──さらに言えば、この像は簡単に傷がつくようなものではない。たとえ、あかりに壊されるのが三度目であったとしても。


「確か、あの像って、クレセリアの魂が封印されてるんですよね?」

「そう伝えられています。クレセリアは人々と魔族の仲を修復するために、自らが世界の敵となり、この世の生き物の数を半分に減らして封印されたそうですから。さすがの私でも、太刀打ちできないかもしれません」

「半分に……」


 とはいえ、ただの言い伝えだ。私も皆も、本気で信じているわけではない。だからこそ、この建物を使用していたのだ。


 ──不意に、あかりの体が宙に浮き、操られるようにして、ぎこちなく立ち上がった。明らかに普通ではない。


 そのとき、感情の色を失った黒瞳が、こちらに敵意を向けているような気がした。


「ど、どうしましょう、マナ様?」

「とりあえず──っ!?」


 意識を集中させていたにも関わらず、あかりの姿をしたそれは、知らないうちに息のかかるほどの距離にいた。


 私は咄嗟にあかねを抱えて、後ろに跳び、軽く三発ほど魔法を発射する。しかし、簡単にかき消されてしまう。


「あかねさん、逃げてください。決して、人を呼ばないように」

「マナ様……無理はしないでくださいね」


 理解の早いあかねに感謝しつつ、相手から放たれた、通路を塞ぐほどの炎の球を、大量の水で相殺する。この世に私以上に強い存在はいないので、誰かに来られても邪魔になるだけだ。


「へえ、なかなか強いじゃん」


 あかりの声でそう言ったのが聞こえて、私は隠さず顔をしかめる。本人そっくりな話し方だ。確実に本物ではないけれど。


「これは何の冗談ですか?」


 そう尋ねると、あかりの親指が自身を指差す。


「こいつが三回もあの像を壊してくれたおかげで、やっと封印が解けたんだよねえ。その上、今日は生誕祭で、世界中から《《気》》が集まってるみたいだから。──でも、クレセリアの像を三回も壊す馬鹿なんて、絶対いないと思ってたからさ、ほんと感謝だよ」


 生誕祭までに三回壊すことが、封印を解く条件だったのだろうか。それを知っていたら、二回の時点で何かしらの対策を講じることができたかもしれない。──今さら考えても、仕方ないが。


「馬鹿という部分は非常に共感できますが、それはそれとして。あなたは、どちら様ですか?」

「そりゃあ、龍神クレセリアの像から出てきたんだからさ、説明、いる?」

「名乗る気はないということですか。ならばここで切り捨てるまでです」


 工具用の槌を氷で造形し、手中に顕現させ、そっと指輪を撫でる。気合いを入れる、おまじないのようなものだ。


「いや、ハンマーでどうやって切るのさ……?」

「もう一度問います。あなたは、誰ですか? 五、四、三──」

「ま、待って待って! 僕は、榎下朱──」


 首めがけて、槌をカーブさせて投げ、囮とする。その間に走って近寄り、本命の背中に隠しておいた剣で、槌とは反対側から首を狙う。


 しかし、そのどちらもが反りの姿勢でかわされた。

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