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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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番外編 三度目の破壊5

 ──仰向けになる彼の喉元に、木刀を突きつけ、私は終了を宣告する。


「今日はここまでにしましょう」

「あのさあ……これ、やる意味ある?」

「少しずつですが、確実に強くなっていますよ」


 足元で寝転がるあかりに手を差し伸べると、彼はその手を払い、草地に手をついて、自分の力だけで立ち上がる。そして、よろけながら室内に戻っていった。


 それを見届けて、私は彼からもらった、ピンクトルマリンの指輪の表面をそっと撫でる。


「マナ様、お疲れ様です」


 横からかけられた声に、悩みを振りきって、私は咄嗟に笑みを浮かべる。琥珀髪のツインテールに黒い瞳の、小柄な少女だ。今は使用人として城に仕えており、黒メイド服を着用している。メイド服のデザインは先日、私が考えたものに変更された。


「ありがとうございます、あかねさん。ですが、全く疲れてはいませんよ」

「あはは、今日も一瞬でしたもんね。でも、あれで本当に、あかりは強くなっているんですか?」

「私はただの強さの指標ですから。強くなれるかどうかは彼次第です。それに、おおかた、レックスにでも指導してもらっているのですよね?」


 レックスは私に剣を教えてくれた、先代の勇者であり、剣神と呼ばれる存在だ。私に一本取られてから修行に出たが、あかりが召喚されてから、城に戻ってきた。


 きっと、弱いものいじめが大好きで、あかりをいじめて楽しんでいるに違いない。その結果、あかりが強くなるのはいいのだが、どうにも、気に入らない。


「なんだ、知ってたんですね。でも、あかりには内緒にしてあげてください。本気でやってるの、マナ様には知られたくないみたいですから」

「そうなんですか、気をつけますね。──それにしても、『私に勝てたら、お願いを一つ聞く』と約束はしましたが、まさか、ここまで本気になってくださるとは。思いもしませんでした」


 正直、すぐに諦めると思っていたので、不満を言いながらも、一ヶ月近く続いていることに、私は深く感心していた。


 ──きっと、あかりの願いとは、勇者を辞退することなのだろう。それほどまでに、勇者を辞退したいから、頑張れるのだ。


 とはいえ、彼には運動における才能が壊滅的になく、このままがむしゃらに練習を続けたところで、私に勝てるとは到底、思えない。


 もちろん、私も強くなるために日々訓練をしている。あかりの成長を見て、気を引き締める。そんな日々が続く。


 ──瞬間、破裂音が響き、私はとっさにあかねを庇う。ガラスが数枚割れ、破片が外に散らばり、風が髪をさらう。ガラスから離れたところにいた私たちにも伝わるほどの衝撃だ。


「お怪我はありませんか?」

「は、はい……」


 これほどのことができる人物は、能力的にも、精神的にも、今、ここには、あかりしかいない。私たちの他にこの建物には誰もいないのだから。


 おそらく、いつものように物に当たったのだろう。すぐに癇癪を起こすのは彼の悪癖だ。


「様子を見に行くので、ついてきていただけますか?」

「もちろん、行きます」


 廊下を歩き、割れたガラスを、魔法で再生する私の後ろに、あかねが続く。


 これで、彼が城を破壊するのは何度目だろう。城のものなら、何を壊してもいいとでも思っているのだろうか。


 とはいえ、たいていのものはすぐに直せるので、人を傷つけさえしなければ、別に壊してもらっても構わないのだが。


「──また、魔力が強くなっていますね」

「前よりもたくさん壊れてますもんね……。申し訳ありません、マナ様。あかりが迷惑ばっかりかけてしまって」


 拳を壁にぶつけるくらいなら可愛い八つ当たりだが、そうではない。彼は辺り構わず、自身で制御もできない魔法を、本気で放つのだ。


 ──まあ、屋外でやられると、どこに被害が及ぶか分からないので、せめて、屋内でやるようにと指示したのは私なのだが。


「あなたが謝ることではありませんよ、あかねさん。それに、このくらい、大した迷惑ではありません」


 最初に出会ったときなど、彼は国王に土下座を迫ったのだ。あれ以上の迷惑はそうそう起こさない、と信じたい。


 そうして、進んでいくと、すぐにあかりは見つかった。しかし、なぜか床に倒れている。


「あかり、どうし──」


 近寄ろうとするあかねを、私は手で制止する。


 衝撃でガラスが吹き飛んだのはともかく、直接あかりが怒りをぶつけた物は何だろうかと、辺りを見渡し──、床に転がる、龍神クレセリア像の首を見つけた。


「──嫌な予感がします。下がってください」

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