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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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番外編 三度目の破壊4

 長いストレートの桃髪をハーフアップにして、フリルのついた白いエプロンを身につけ、トントンと包丁で何かを刻んでいく愛を、僕はベッドから起き上がり、後ろから見上げる。普段はパーマをかけているらしく、最近、元々はストレートだということを知った。


 それにしても。──ミニスカエプロンに黒のニーソは反則すぎじゃない? てか、なんでこの子、こんなに白似合うの? 清純だから? え、ヤバイんだけど。あー、ニーソのはみ肉、プニプニしたい……。それか、ニーソと太ももの間に指入れて──てか、うっはぁ! 見えそうで見えないこのアングル。


「ニーソと太ももの間に指を入れたい、とか思ってますか?」

「そ、そんなことないよお?」


 目が泳ぎまくる。誤魔化すの下手すぎか。


「見すぎです」

「それは短いのが悪い! 絶対狙ってるじゃん!」

「あなたが喜ぶかと思って」


 清純そうに見えて、自分の魅力が分かっていてやってくるところが、タチが悪い。でも、僕のためにとか言われちゃうと、めちゃくちゃ嬉しいんだよなあ……。いや、心臓には悪いけど──って、なんか、自分が純真になったみたいでなんか逆に嫌だな。


「いや、めちゃくちゃ嬉しいけどさ、眼福だけどさ、もっと自分を大切に──」

「あんなことやこんなことをしたあげく、子どもまで作っておいて、今さら言いますか?」

「僕は止めたよ!! 迫ってきたの、愛の方だからね!?」

「でも、誘惑に勝てなかったんですよね?」

「はい、勝てませんでした!」


 でもさ、聞いて? ついこの間まで、僕、愛とキスすらしたことなかったんだよ? めちゃくちゃ偉くない? そう、これでも僕、愛のことはすっごい、大切にしてたんだよ。──まあ、結局やらかしたんだけど。


「変態ですね」

「そっちもじゃん」

「変態な女の子は嫌いですか?」

「むしろ大好き」

「私も、嫌いじゃないですよ」


 あ、これもう、天使だわ。


「──指、入れてみますか?」

「へっ!?」

「ふふっ。顔、真っ赤ですよ。それに、今さら恥ずかしがるようなことでもないでしょうに」


 小悪魔だ……! ──いや、よく見ると、耳たぶが赤い。うわー、照れてるー、カワイイー。やっぱり、小悪魔っぽい天使だな。本当に突っ込んでやろうか。ぐへへ。


「しかし、こんなのでいいんですか?」

「うん。家庭的な女の子って可愛くない?」


 ──一瞬で理性を取り戻し、何事もなかったかのように装う。ギルデを変態呼ばわりできる立場じゃなかったなと思いつつ。僕、多分、愛のこと好きすぎるんだよね。自覚はあるけど、ま、仕方ないよね。愛だもん。


「確かに、調理実習で三角巾をつけているまなさんは天使でしたね」


 ──ほんとにこの子、まなちゃんのこと好きだなあ。


「そうそう、そんな感じ。……それにしても、初めてとは思えない包丁捌きだね」

「私にかかればこんなものです。ふふん」


 ──ふふん、て。この子、マジで可愛いな。


 愛には基本的に、不可能なことがない。フライパンも、普段使わないくせに、ひっくり返すのは上手い。僕がそれを習得するのに何年かかったか教えてやりたいくらいだ。


 まあ、 魔法で作ればもっと楽にできるのだが、そうすると、僕の楽しみ──愛を観る時間が減るということを、彼女もちゃんと分かっている。


「はい、できました」


 そう言って差し出されたのは、卵焼きだ。ネギとベーコンが入っているらしい。というか、見映えがめちゃくちゃいい。写真撮ろ。


「ほんとに初めて作った?」

「はい」

「すごいね」

「ありがとうございます。何かつけますか?」

「いや、このままで」


 一口食べると、普通に美味しくて、笑ってしまう。あの愛から家庭の味が出ることが、なんとも、ちぐはぐな感じがして。


「どうですか?」

「うん。美味しい。でも、もっと、気が引けるような、ヤバいのが出てくると思ってた」

「使う調味料と食材が同じなんですから、そうはならないと思いますが」

「確かにそうだね。ははっ」


 そう考えると、美味しすぎるような気もした。ひいき目があるのは否定しない。


「ああ、やっと少し落ち着いたよ」

「では、片づけておきますね」

「ありがとう、お願い」


 こちらも魔法でやれば一瞬だが、さすが愛、僕の求めるものが分かっている。


 本当は自分で洗うべきなのだろうが、今動くと、またろくなことにならなさそうだったのと、また愛を観察したかったので、大人しくしていることにした。ちょっと、申し訳ないけど、今日だけ。


 それから、愛が背もたれのある、柔らかいイスに座り、落ち着いたのを見計らって、尋ねてみる。


「さっきの話だけど、愛は何を話すつもりだったの?」

「さっきの──ああ、面白い話、というやつですか」

「それそれ」


 話すことがないと言ったまなはともかく、愛が何も考えていなかったということはないだろう。


「そうですね、あかりさんが地下牢に入れられた話や、あかりさんが人質にとられた話、それから、あかりさんが私に百回フラれた話辺りが面白いかと考えていました」

「お願いだから、全部忘れて……!」


 確かに面白い話だろう。僕以外にとっては。とはいえ、全部僕の話だというのは、素直に嬉しい。


 まあ、若気の至り、では済まないようなことがいくつか入っているような気もするが、それはそれとして。


「僕も楽しめる話はないの?」

「では、あかりさんが取り憑かれたときの話にしましょうか」

「え、なにそれ? あかりって、あっちのあかり?」

「いえ、あかりさんはあかりさんです。あっちはあかねさんですから」

「ああ、そっか」


 確かに、あの子のことはあかねさん、と呼んでいたか──、


「わっ!」

「うわあっ!? え、何!? ビックリしたあ……」


 急な脅かしに、僕は素直に驚く。


「えへへ」

「うわあ、あざとくてめちゃくちゃ可愛い……」

「えへへー」


 大きな黄色の瞳が、きゅっと細くなって、無防備な笑顔を晒す。太陽顔負けのこの眩しさは、もはや暴力だ。くっ、可愛い。


 一旦、この頭を撫でて落ち着こう。


 脅かしてくれたのは、僕がまた、嫌なことを思い出しそうになっているのが分かったからだろう。そんな彼女の優しいところに、僕は惹かれた。


 たとえ、この目が見えなかったとしても、この世界にいる限り、僕は愛を選んでいただろうと思う。とはいえ、彼女を選ぶ権利がある時点で、相当、恵まれているのだが。


「──てか、さっきの話。僕が何かに取り憑かれたってことだよね? 全然記憶にないんだけど」

「取り憑かれているんですから、記憶がないのは当然ではありませんか?」

「ああ、そっか。……いや、さらっと取り憑かれてるって言わないで?」


 さも当然だ、と言わんばかりの口ぶりだが、この世界では幽霊なんて普通だと、そういうことなのだろうか。恐るべし、異世界。


「──聞きたいですか?」

「ああ、こっちに来てからの話は大丈夫だよ。聞かせて聞かせて」

「それでは。──あれは、王国に代々伝わる、龍神クレセリアの像を、あかりさんが破壊した、三回目のことでした」

「あー。壊した記憶は……あるなあ。ははは」


 龍神クレセリア。世界の生物の数を半分に減らした末に、封印されたと伝えられる存在だ。その封印された石像がトレリアンにあり、ゴールスファ家が管理しているとか。


 それを八つ当たりで三回もぶっ壊したというわけだが、さすがに罰あたりだったかもしれない。


「──その日は、偶然にも、龍神クレセリアが誕生したと言われる日でした」


 僕の軽口を微笑一つでかわし、愛は語り始めた。

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