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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第二章 ~溺れる日記~
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3-8 ウマそう

 ハイガルは部屋に戻ると、一見、普通の床に見えるところに手を突っ込み、青いタマゴを取り出す。


「大人しくしてるんだぞ」


 その温かい表面を優しく撫で、タマゴを元の場所にしまう。そして、天井をしばらく見つめ、思い立ったように立ち上がると、窓を開けた。


「みんな、おはよう」


 そうして、ベランダで育てている多種多様な植物──道端に生えている長い雑草から、食虫植物までいるその植物たち一つ一つに声をかけていく。


「おはよう? こんにちは、か。気持ちのいい天気だな。あ、もう、こんばんは、か? んー……どっちでもいいか」


 降り注ぐ太陽の光を浴びながら、三割ほどに声をかけ終わった頃、


「俺、日の光、苦手だった……」


 彼、ハイガル・ウーベルデンはローウェルの息子──つまり、キュランと呼ばれるモンスターであり、生まれたときから夜型だ。他にも、魔族には夜型の者が多いため、会議は朝ではなく、午後から行われることが多い。


 とはいえ、まだまだ日差しは十分に降り注いでいることだろう。空を見上げれば、彼の視界でも、太陽から降り注ぐ、幾分かの魔力が探知できる。


 基本的に、魔力は大陸の中心で作られる。ただし、空気に溶けて惑星の外へ出ていく魔力もあれば、太陽の光とともに、地上に入ってくる魔力もある。そうして、惑星内の魔力は常に一定値に保たれている。


「部屋に、戻ろう」


 そうして、部屋に戻り、窓を閉め、手探りで鍵をかけ、床に座り、寝転がり、起き上がり、左右に揺れ、欠伸をし、目を閉じ、伸びをして、目を開け、しばらく壁の辺りを見つめ、立ち上がる。


「トンカラが、食べたい」


 そう呟き、手探りで部屋を出て、錠の位置を探して施錠し、宿舎の入り口へと向かう。


 その最中、何かにぶつかり、一歩後ずさる。魔力探知には引っかからなかった。つまり、魔法が使えないということ。それに加え、視界の代わりに発達している嗅覚が、目の前の存在をはっきりと知らせる。


「クレイアか」

「ええ、よく分かったわね」

「ああ、旨そうな血の匂いがするからな」

「……初めて聞いたわよ、そんな話」

「初めて言ったからな」


 下方から聞こえる声に、ハイガルは視線をわずかに下げる。


「あたしはそんなに大きくないわよ。これから伸びる予定だから」

「何センチだ?」

「……百三十八」

「このくらいか?」

「しばくわよ」

「ははは」


 極端に首を傾け、自分の足下を見るハイガルに、まなが声のトーンを落とすと、彼は顎を上げて笑い、今度はちょうど、まなの顔の辺りを見つめる。その視線を受けたまなは、そっと目線をずらす。


「どこか出かけるの?」

「ああ、トンカラでも買いに行こうかと」

「あたしもちょうど、トンビアイス買いに行く予定だったから、着いて行ってもいい?」

「──はあ。一人じゃ、トンビニにも、行けないのか、クレイアは。方向音痴だな」

「……はあぁ!? あんたが心配だから着いてくって言ってんの! トンビニくらい、一人で行けるわよっ」


 と言いつつも、彼女は一度、迷子になっているのだが、それは棚に上げるとして。


「ははは、悪い悪い、俺が悪かった。着いてきて、くれるか?」

「まあ、仕方ないわね」

「無理に、着いて来なくても、いいんだぞ?」

「……早く行くわよ」

「はいはい」

「本当に買いに行くところだったの!」

「はいはい」


 ──そんなやり取りを、私は息を殺して見守っていた。


「誰ですか! まなさんをたぶらかしているあの男は!!」

「ああ、ハイガル・ウーベルデンくんだね」

「あれが噂のハイガルさんですか……覚えましたよ……ん、ウーベルデン?」


 一緒になって盗み聞きしていた、あかりの返事を聞き、聞き覚えのある家名を、口の中で繰り返す。


「うん。ルジさんが育ての親、みたいな感じらしいよ」

「そうですか、ル爺さんの……」


 ル爺は、この宿舎の管理人であり、わけありな私やあかりのことを快く受け入れてくれた、恩のある御仁だ。とはいえ、そもそも、あかりがここを選んだのは、まなに合わせたからなのだが。


 ちなみに、普段はゲームをやるか、寝るかの二択で、今日のように宿舎に顔を出さないことも多い。


「それを、なぜあなたがご存じに?」

「なぜって……ああ、言ったことなかったっけ? ルジさんって、魔王の側近なんだよね。ハイガル・ウーベルデンくんも幹部の一人だよ」

「……初めて聞きましたよ、そんなこと」

「あ、それさっき聞いた気がする。デジャヴってやつ?」

「何が、『初めて言ったからな』、ですか、ああ腹立たしい!」

「わお、相変わらず、そっくりだねえ」


 声真似して言うと、あかりが感心したように呟いた。


 体調が良くなってきたこともあり、部屋から出ていくまなが何をしているのか気になって監視していたのだが、これは由々しき事態だ。


 なにせ、魔王に追われる(?)魔王の娘であるまなと、魔王の側近の孫であり、自らも幹部の一員である青髪が懇意にしているのだから。


「ってのは建前で、本音は?」

「私のまなさんであんな風に遊ぶなんて、万死に値します」

「重すぎない? まなちゃんに嫌われるよ?」

「……禁固刑無期に処します」

「相変わらず、難しいこと言うねえ」

「とにかく! あのまま放っておくわけにはいきません。ストーカーしますよ」

「はいはい、じゃ、まなちゃん追跡作戦ツー、スタート!」

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