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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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2-22 何があっても、笑顔で

「あかりさんには言いたくありません」

「なんでよ?」

「嫌われたくないんです。あかりさんは平気でも、私はあかりさんがいないと生きていけないんです……っ」

「あーもう……ほら、泣かなくてもいいでしょ。よしよし」


 まなの手は何度も私の頭をでる。ずっと撫でていてほしいくらいだが、その手はやがて離れていく。


「どうしたらいいんですか……」

「大丈夫よ。なんとかなるわ」

「なんとかってなんですか……!」

「そうね……あたしもよく知らないから、ここで話してても何の解決にもならないわ。とりあえず、ユタのお母さんに聞いてみましょう」

「──ダメです」

「なんで? 知られたくないとか?」


 私の無駄に聡明な頭脳がその提案を否定する。顔は涙でぐしょぐしょで、前が見えないくらいだし、胸中は自分でもわけが分からないほどに荒れ狂っているが、そういうところだけはいやに頭が回る。


「ユタさんは次期魔王であり、そのお母様は魔王の正妻です。私がこんな状態だと魔王に知れたら、いつ戦争が起こるか……」


 その上、まなの安全も保証できない。今の私ではローウェルはおろか、クロスタにすら負ける可能性がある。


 ちなみに、ユタ──ユタザバンエというのは、この宿舎に住む、八歳の少年であり、小学二年生。一階の二人部屋で母親と暮らしており、次期魔王と評される人物だ。


 とはいえ、この宿舎の建物自体、見える人と見えない人がいるくらいに、外部に対するセキュリティは非常に高く、幼いとはいえ魔王の子どもがいるのも、不思議ではない。私たちが一つ屋根の下、と考えると、セキュリティも何もあったものではないとも思うが。


 そういえば、私はまなが魔王の娘であることも知っていた。なのに、なぜ、利用しようとしているだけの彼女に、妊娠しているかもしれないと、話したのだろうか。


 ──決まっている。それだけ、彼女を信頼しているからだ。利用するためだけに、なんて、割りきろうと思っても割りきれないくらいに、私は彼女が大好きだった。


「そういう頭は働くのね、面倒なことに。……じゃあ、名前は伏せて、友だちの話ってことで聞いてくるわ。ほとんど知らない人だけれど、人の親ってことに変わりはないから」


 ──友だち? ああ、そういう設定ということか。


 私は彼女を想っているが、だからといって、彼女が同様に私を好いてくれている、なんて、思い上がってはいけない。


「しかし、クレイアさんにこれ以上ご迷惑をおかけするわけには──」

「これ以上面倒を増やされたところで、大して変わらないわよ。大人しく待ってなさい」


 それからしばらくして、まながメモ帳を片手に戻ってきた。そして、いつものように、淡々と、こう言った。


「どう考えてもおろした方がいい、って言ってたわ。そんなに長期間、体調不良が続いてるなら、判断は早い方がいい、最悪、おろせなくなるから、って。ユタのお母さんも、生まれつき体が弱かったんだけど、マナと同じくらいの歳のときに上の子を授かったらしくて。やっぱり、想像よりずっと大変だったそうよ」

「──おろすことだけは、絶対にありません。元々、こうなったら、私一人でも育てようと思っていました」


 そう、その決意は、ずっと固いものである、はずだった。


「その割には覚悟が足りてないんじゃない?」

「だって、こんなに辛いなんて、聞いてません……!」

「まあ、自業自得ね」

「返す言葉も見つかりません……」


 大変なことになるのは分かっていた。いや、ここまでとは思っていなかったが、気をつけなければとは思っていた。それなのに、このザマだ。


 産み育てる責任や覚悟、金銭面などの現実的な問題、それから、この子の将来など、考えることは多岐に渡る。まだ高校生の私たちが育てていくには、何もかもが足りていない。


 それでも、弱気ではいられない。私は、「私」なのだから。何があっても、笑顔で、軽々とやってのけなければ。


 私は、今までの弱気と涙が嘘に思えてしまうくらいの、いつも通りの笑顔を浮かべる。


「大丈夫です。私の才能を生かせば、今の時代、動画を上げればどれだけでも稼げます。歌でも歌えば……そういえば、歌えませんでした」

「まあ、歌がなくても、元々知名度も人気も高いし、できなくはなさそうね」

「資格を取るのもいいかもしれません。持っているだけで引く手あまたになるようなものを、いくつか取ってみましょうか」

「いいわね。あたしも勉強に付き合うわ」

「もっと本格的に冒険者業に精を出してもいいかもしれませんね」

「そうね。あんた強いから、すぐに活躍できるようになるかもしれないわね」


 私はまなの顔を見つめる。


 彼女が何を考えているのか、分からない。


 そうして私が口を閉じると、代わりにまなが口を開く。

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