2-4 メリーテルツェット
「それで、パーティー名はどうするの?」
「うーん、パーティー名かあ……。愛ちゃんいいのある?」
「バサイ──」
「却下」
まなから即拒否される。
「バサイ、カッコいいじゃないですか」
「バサイファンはあんただけよ。そもそも、バサイなんてどこがいいわけ?」
「バサイは、拳一つで大地を割り、手刀を振れば海が割れ、ネコダマシをすれば頭上に晴天が広がったと伝えられています。ぜひとも、一度、手合わせ願いたいですね」
「いや、愛ちゃんもいい線いってない?」
「私が本気を出しても大丈夫そうですよね。それに、彼から得られるものも多いはずですから」
「バサイは女よ」
まながそう言ったのを聞いて、私は動きを止める。バサイが生きていたのは千年近く前の話で、人間と魔族が二回目の戦争を起こしたときに活躍したと言われている。だが、滅多に人前に姿を出さなかったらしく、性別すら明記されたものはないが、見る限り男性だと、少なくとも私はそう思っていた。
「なぜ、女性だと断言できるのですか?」
「本人に会ったことがあるからよ」
「ご存命なんですか!?」
「どうだったかしら。あたし、幽霊とかも普通に見えるから、たまに区別がつかないのよね。多分、生きてたと思うけど」
「いや、なんか今、さらっと言わなかった?」
「病院はそういうのが多かったわね。延命治療の末、苦しみながら亡くなったおじいさんとか、刺されて搬送されたけど、結局助からなかったおじいさんとか、急に容態が悪化して、誰にも看取ってもらえなかったおじいさんとか──」
「おじいさんばっかじゃない!?」
「男は未練がましいのよ」
「そういうこと? え、性別関係なくない!?」
それが事実なら面白いのに、と思いながら、私は話半分に聞いていた。まなは真面目そうに見えて、意外と冗談を言ったりもする。ただ、普段が真面目すぎるのと、表情がまったく変わらないのとで、冗談かどうか、判別しづらいのだ。
「それで、パーティー名、どうすんの?」
「切り替えはやー……。んー、じゃあ、一人ずつ候補出してこっか!」
「バサイ」
「えーっと……まゆみ、とか?」
「メリーテルツェット、略して、メリテル!」
あかりはこういうところだけ、無駄にセンスがある。まあ、使いどころがかなり限られているけど。
「メリテルはないですね」
「ないわね」
「なんで!?」
なんとなく、気分的に嫌だ。主に、あかりが提案したという理由だけだが。
「ま、バサイは置いといて。……その、なんだっけ? まなちゃんの、忘れちゃった」
「あー……まゆみ?」
「それそれ。それは何?」
私も気になってはいたが、なんとなく、触れない方がいい気がして黙っていた。
「……まあ、パーティー名に登録しておけば、忘れないかもって思っただけよ。忘れなさい」
──一体、何の話だろうかと首を傾げたが、すぐに何を気にしていたのかすらも忘れてしまった。きっと、気にしなくても大丈夫だろう。
「じゃあ、メリテルで決定だね」
「待ちなさい。メリーテルツェットって、どういう意味?」
「幸せな三人組だけど?」
すると、まなは鼻で笑った。
「事実とは程遠いわね」
「刺々しいねえ……。いや、目標みたいなものだよ。いずれは幸せな三人に……ま、今でも十分平和だし、幸せじゃん?」
「それはどうかしら」
気づいていての皮肉なのか、照れ隠し故の憎まれ口なのか、よく分からない。そのため、追及を避け、話の方向を変える。
「私とあかりさんが婚約しているということは、クレイアさんは──子ども?」
「こ、子ども!?」
「やめなさい。あたしは小さくないわよ」
「え、そこなの……?」
──変える方向を間違えたかもしれない。
こうして、私たちはメリーテルツェットとして活動することになった。




