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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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2-3 お仕事

 各所への説明を終え、あかりと改めて婚約した。婚姻自体は男女とも十五からできるが、二十歳になるまでは保護者の許可が必要となる。


 だが、私は親族とは縁を切っている上、異世界から召喚されたあかりの現在の保護者は、名義上、私の母ということになっているので、許可などもらえるはずもない。


 スマホだけは生活に欠かせないため、貸してもらっているが、公務がなくなったので、しばらく鳴っていない。爆発の件も、一般人となった私には、これ以上関わることができないため、真相を明かすこともできないだろう。


 ともかく、これからは、二人で生きていかなくてはならないのだが、さて、経済基盤をどうしたものかと、私は頭を悩ませていた。


 何をするにもまず、お金がいる。言ってしまえば、お金さえあれば、生きていくことはできる。それでも、必要に迫られた場合は、最悪、魔法で作った水を飲むしかないだろうが、


「魔法の水とか、マナ、飲める?」

「飲めなくはないですが──」


 私の感覚で例えるなら、別の場所に溜めておいた唾液だえきを後から飲むようなものだ。できなくはないが、できればやりたくない。


 とはいえ、魔法の水を子どもの頃に飲んだことのある人は結構多いだろう。そういう文化や宗教の国もある。ただ、ルスファでは、魔法の水は、基本、飲まない。


「僕、学校辞めて働くよ。これでも、一応勇者ってことになってるし、ギルドの難易度高めの依頼とか受けまくればいけるでしょ」

「いえ。あなたに頼りきりになるわけにはいきません。それに、あなたにはクレイアさんを監視する役目があるはずです。宿舎を離れていては、監視できないかと思われますが?」

「それはそうだけどさ……」

「ギルドでの収入だけでは宝くじを当て続けるような生活しかできませんし、老後の問題もあります。あかりさんにはこの世界での学歴がないので、最低でも高校を卒業し、できれば大学に進んでほしいですね」

「老後かあ……ふふっ」


 あかりがだらしのない顔をしていたので、私はその顔を両手で挟んでしゃきっとさせる。つまり、勉強しろと言っているのだが、伝わっているかどうかは怪しい。


「いや、でも、それだとお金が──」

「夏休みなどの長期休暇を利用して、報酬の高い長期依頼を達成すれば、不可能ではありません。ただ、それだけでは厳しい面もあるので、放課後にも依頼を受けるようにしましょう。私とあかりさんで受けられない依頼はないかと思われますが、クレイアさんの監視のことを考えると、三人で行くのが妥当かと」

「三人か……。まなちゃんは魔法が使えない、ってなると、僕たちがいたとしても、制限がかかるよね」

「個人で組む三人組となれば、受けられる依頼も限られてきます。そこで、パーティーを組みましょう」

「パーティー? え、パーティーって、ギルドのチームみたいなあれ? よくラノベとかで出てくるあれ?」

「そうです。ラノベとかでよく出てくるあれです」


 個人が集まって作った三人組だと、どうしても個人の実力──つまり、一番低い、まなの実力が考慮されてしまうが、パーティーを組んでいれば、まなが動かなくても、私たち二人の活躍がパーティー全体の実力として評価される。つまり、依頼が受けやすくなるのだ。


「いやあ、なんか、わくわくするね! 僕、まなちゃん呼んでくる!」


 そうして、あかりは嬉々《きき》として、隣の部屋へと向かっていった。まなに断られる可能性など微塵みじんも考えていないらしい。


 数ある職の中から冒険者を選んだのは、いくつか理由がある。


 まず、普通のアルバイトでは、睡眠を削って働いても稼ぎが足りない。その上、私になまじではない知名度があるため、確実に店に迷惑がかかる。


 起業も考えたが、国からの圧力がかかるであろうことは想像に難くない。


 株やFXにしても、元手がいる。


 学業との両立も考えれば、短時間で高収入を得られるものにしなくてはならない。


 ──などの理由だ。


 また、ギルドは国からの干渉が少ない。その理由は様々だが、それは置いておくとして。


 もちろん、あかりのこともある。今の彼がお金を稼ぐとなれば、普通のアルバイトはまず無理だ。となると、魔法を使った冒険者や料理人、パティシエ──まあ漁師や、いっそ詐欺師という手もあるが。


 ともかく、今後、私の元を離れる可能性がゼロではない以上、一番自立しやすいのは、冒険者だろう。なにせ、世間に勇者として名が知れているのだから。


 ──まあ、懸念けねん材料が一つだけあるのだが、それには、ひとまず、目をつむるとして。


 とはいえ、ざっくり計算したところ、それでもギリギリでやりくりするしかない。万が一、何かあったとしたら、やっていけなくなってしまう。となれば、もう少し何かを削る、ないしは増やす必要がある。


 ある程度貯蓄ができれば、他のことにも着手できるが、少なくとも、高校在学中は不可能だと考えておいた方がいい。


 そこで考えるべきことがある。


 ──まなが特待生として、奨学金を受け取っているということだ。


 そして、私はまなと同等の成績──魔法を考慮すれば、私の方が上だということ。


 つまり、私は奨学金を受けとる権利を持っているのだ。家と縁を切った以上、二人分の学費を支払うことは実際、かなり厳しい。


 加えて、負担してもらった費用──城からお小遣いとして与えられていたお金を貯蓄しておき、それを切り崩してやりくりしていたのだが──前期分の学費や食費、宿舎の家賃なども返済しなければならなくなった。自分で言ったこととはいえ、いささか、厳しすぎる状況だ。


 だが、魔法が使えないというハンデを持っているまなから、奨学金を取り上げてしまってもいいものか──、


「連れてきたよー!」

「急に何? なんでパーティーなんて組まないといけないわけ?」


 私は一旦思考を止めて、こちらに専念する。──やはり、そう来たか。


 まなが意外と押しに弱いことは知っているが、できれば納得する形で参加してもらいたい。


「クレイアさんには得しかない提案なので、ぜひ受けていただきたいのですが──」

「そんなことは知ってるわよ。なんでわざわざあたしを入れるのか聞いてるわけ」

「三人以上でないと、パーティーは組めないので」

「だから、なんであたしなのって聞いてんのよ。分かる?」


 私は返答に困った。あなたを監視しているからです、とはさすがに言えない。さて、どうしたものか──、


「僕たち、いつも三人一緒なんだからさ、やっぱりまなちゃんじゃないと」


 あかりがさらっとそう言ったのを聞いて、私は驚いた。あかりがそう言えてしまったこともそうだが、むしろ、少しもそんな発想がなかった自分自身に、嫌気が差した。


 いつから私は、まなのことを、道具として見るようになったのか。


「……ふーん、まあいいわ。お姉ちゃんは──そう、分かったわ」

「え、入ってくれるの?」

「ええ、いいわよ。得しかないのは本当だし」

「やったあ! まなちゃん、ありがとう!」


 嘘っぽい笑みだ。事実、それほど嬉しいとは思っていないだろうから、仕方ないけど。

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