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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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1-33 カッコいいところ

「──それが、お前の選択ならば、私はそれを肯定しよう」

「いや、待って待って、ストップ!」

「あなたが口を挟む場面ではありませんよ、あかりさん」


 エトスの返答に、あかりが異を唱える。彼が何か言ってくるのは想定していた。そして、私が何かを言ったところで、大人しく聞いてくれるはずもない。


「いいや、黙ってるわけにはいかないね! 一体、どういうつもりなの? あ、今までみたいに、宰相として国を実質動かすとか?」

「将来、宰相を任命するのであれば、関係の良好な、ルーバン家がよいかと。あそこのご息女は、ノア学園に通っており、私も何度かお話ししましたが、期待できる人材です」

「そうか。参考にさせてもらおう」

「いや、だから待って──」

「今後の政治に、私は関与しないと誓います。王都へ足を踏み入れることも、金輪際こんりんざいいたしません。その他、何か問題が発生した際にも、ゴールスファ家の手は借りません。また、私が国からたまわった財産は、可能な限り、返上させていただきます」


 何か言いたげなあかりを黙殺し、さらに続ける。


「魔族との内戦や、他国との戦争が起こった際には、私をどのように使ってくださっても構いません。戦時においては、すべて、王の意向に従います。また、反乱を指揮したり、建国してこの国を脅かすようなこともいたしません。もちろん、私個人が国に危害を加えることもいたしません」


 口約束とはいえ、丁寧すぎるくらいに、誓いを立てる。何もないのが一番だが、そうとも言い切れないので、保険をかけておくに越したことはない。もちろん、後から正式に話を詰めてはいくが、すべてを放棄するつもりなので、詰めるような話もないというのが本音だ。


「国民への説明はどうする?」

「私自ら行います。陛下のお手をわずらわせることはいたしません。ただ、許されるのであれば、蜂歌祭ほうかさいでは歌わせていただけると幸いです。周囲への説明にも、その場をお借りできたらと、考えております」

「許可する。そして、今一度問おう。これが最後だ。……その選択に誤りはないな?」

「──はい。今まで、大変、お世話になりました」


 それを最後に、エトスはきびすを返して部屋を出る。そこに母が続き、モノカが続き、最後にトイスが少し振り返りながら、迷うように足を前後させる。


「トイス王子様、どうかされましたか?」


 あえて、突き放すように、そう告げるとトイスの顔に激震が走った。彼はまだ十四歳だ。それに、私が知る人の中で、きっと一番、優しい。身内びいきはあるかもしれないが。


 仲の良い姉が勘当されることを、簡単に受け入れられるような歳ではなかったし、優しさ故に、まだどうにかなるのではないかという、淡い期待を抱いていたことだろう。


 全部、私が自分から言ったことで、この場で取り消すと言えば、まだ取り返しのつくことだったから。


 しかし、私はそれが決して叶わないのだということを、トイスにこの場で伝えなければならなかった。


「弟と妹たちのこと、お願いしますね」

「姉さん──」

「王位継承権第一位であるあなたに、願いの祝福があらんことを。第二王子様」


 ひざまずき、深く頭を垂れる。それから、トイスが扉を閉めるまで、私は顔を上げなかった。


 ──そうして、彼と私の二人だけが、部屋に残された。


 やっと、肩の荷が降りたような心地がして、私は思いきり、伸びをする。何も背負わなくていいというのは、こんなにも楽だったのかと。


「んー! すっきりしたっ!」


 そんな、晴れ晴れとした私とは対照的に、彼は深刻そうな、暗い顔をしていた。


「……僕、そんなつもりじゃ」

「これが私の選択です。元々、息苦しい空気は好きではありませんでしたから」

「マナ……どうして、そこまで……」

「すべてと引き換えにしても、私はあなたと共にいたい。私はあなたが、好きです」


 今にも泣き出しそうな彼を抱きしめて、その顔を肩に乗せ、頭をでる。


「カッコいいところを、見せられましたか?」

「めちゃくちゃカッコいい」

れ直しましたか?」

「うん──うん……大好き」


 彼は私の分まで泣いてくれた。やっと、素直に思いを口にしてくれた。そして、ちゃんと、私を見ていてくれた。それだけで、私にとっては十分すぎるくらいだ。


「たまには、少しくらいカッコつけたらどうですか?」

「マナがイケメンすぎるから、僕なんて何してもかすんじゃうよ」

「それは仕方ないですね。私ですから」


 物品の整理、各所への説明、実際の手続きから今後の生活に至るまで、やることは山積みだが。


「話してください。何があったのか、全部」

「でも……」


 私の覚悟は決まっても、彼はまだ、踏ん切りをつけられないでいる。私の独断とはいえ、彼が後押ししてくれたのだから、今度は私が彼を受け入れる努力をする番だ。


「私にはもう、あなたしかいないんです。何があっても受け止める覚悟はできています。──だから、それが、たとえ、どんなに重い罪だったとしても、全部、一緒に背負わせて。私を本当に思っているのなら、すべて打ち明けて。私が一番怖いのは、あなたを失うことだから」


 彼は、本当に臆病な人だった。だから、こうでもしないと、きっと、何も話してはくれなかっただろう。何も知らないようなフリをしていたけれど、本当は賢い人だったから。


「あなたは、あかねと私と、どっちを選ぶの?」


***


 ──その問いかけからしばらくして、彼は語り始めた。


「あかねに、復讐してやろうと、そう思って」


 あかね──榎下朱音。その人物について語るとなると、そこには少し、ややこしい事情が存在するのだが、それを抜きにすれば、あかねは、彼の妹だ。


 だが、一年前に亡くなっている。


「どうしても、許せなくてさ。本当に馬鹿な話なんだけど……」

「続けてください」

「うん。──まなちゃんが、願いの魔法を持ってるのは知ってるよね」

「はい」

「僕、魔王と契約してさ、それで、まなちゃん──彼の娘のことを教えてもらったんだ。実は、願いを狙う代わりに、あの子を監視するように命令されてるんだよね。なんで監視するかは聞いてないし、幹部たちに追わせてる理由も知らないんだけど」


 願いの魔法──一生に一度、なんでも願いが叶う魔法。全員に等しく与えられており、八歳になれば、誰でも使うことができる。


 ただし、その時点で魔法の存在を心から信じている場合には、その力は魔法へと変化する。この世界で魔法と関わらずに生きていくことなど、ほぼ不可能。つまり、願いの魔法とは実質、魔法を使えるようになるためのものなのだ。


 しかし、まなには魔法が使えない。つまり、八歳になるまで魔法と関わらずに生きてきたということになる。そして、おそらく、彼女はまだ、その願いを持っている。


 魔王の娘であるというのに。


「だから、あの子に近づいた。あの子ともっと仲良くなったら、あかねを生き返らせてほしいって、そう頼むつもりでね。つまり、まなちゃん自身のことはなんとも思ってないし、別に思い入れがあるわけでもないってこと。どう、僕って最低じゃない?」

「今に始まったことではありません。それで、どのように復讐するつもりなんですか?」

「それはねえ……これだよ」

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