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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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1-27 私の食べかけ

 まなには魔法が効かないが、それは限りなく効きづらいという意味であり、全く効果がないわけではない。加えて、瞬間移動は距離に比例して、魔力の消費が大きくなる。王都と宿舎を往復するとなれば、それ相応の魔力が必要だ。


 それを、まなを瞬間移動で連れ帰るなんてことになれば、一体、どれほどの魔力が必要になるのか。私が真似をすれば、間違いなく、魔力切れで意識を失う。彼の場合は気絶というよりも、単に疲れて寝ているだけだろう。


「ありがとうございました、クレイアさん。よく居場所が分かりましたね?」

「ええ。あかりが一晩考えて、あんたと戦ったのがレックスってやつだったって、思い出したのよ。──まあ、顔を見てるんだから、すぐに思い出しなさいよって話だけれど。とにかく、それで、脅迫して吐かせたってわけ。なのに、トイスに聞いたら、あんたは城から逃げたって言うし、エトスには人質にするとかで追われるし、もう散々だったわ」


 ──長っ。


「……すみませんでした」

「そもそも、あんたが王女だなんて話、聞いてないんだけど? 命を狙われるような心当たりはないとか言ってなかった?」

「それは、知らないクレイアさんが悪いと思います。以前、警察に取り調べを受けた際に、お気づきにならなかったんですか?」

「うぐっ、そ、それは……ええ、ええ。その通りね。まったくだわ」


 それから、まなは誤魔化すように、勢いよく人差し指を突き出す。


「とにかく! これで、借りは一つ、返したわよ」

「……どの借りですか?」

「木から落ちたときに助けてもらったお礼! それから、先日のお礼がまだだったわよね」

「先日?」

「スーパーまで道案内してくれたときのお礼よ」

「アルタカアイスを奢ってくださいませんでしたか?」

「あれは、トンビニまで着いてきてくれたお礼。もう忘れたの?」

「そんなの、忘れましたよ……」


 忘れたと言ってももちろん、覚えてはいる。私に忘却という機能は備わっていない。


 ──だが、心の底から、どうでもいい……。


 まな相手にお礼を受け取らないって選択肢はないから、受け取りはするけど。しますけど。とっても嬉しいんだけどね?


 と、そこまで考えて、さすがに素を出しすぎだと気がつき、えりを正す。まなの前だからと、咎められるようなことはないが、それにしても、気を抜きすぎだ。


「とにかく、受け取りなさい。あんまり嬉しくないかもしれないけれど」


 そう言って、ビニール袋差し出される。ちなみに、袋も有料だ。


「クレイアさんからいただけるなら、何でも嬉しいですよ。見てもいいですか?」

「ええ、ご自由に」


 受け取った袋を覗くと、中にはホイップクリーム鯖サンドが入っていた。もう一度言う。ホイップクリーム鯖サンドだ。


「これは、あの伝説の、ホイサバ……」

「ええ。あのホイサバよ。たまたま手に入ったの」


 ホイサバといえば、大手コンビニチェーン店、トンビニトラレルの商品だ。そして、


「あの、絶妙に美味しくないとうわさの、ホイサバですか?」

「ええ。そのホイサバよ」


 人気がなく、国内のトンビニで、わずか三店舗しか取り扱いがないとうわさの、あのホイサバだ。


 いつ販売停止になってもおかしくないと揶揄やゆされており、その三店舗でも週に一個しか仕入れないという、レア中のレア商品だ。むしろ、人気商品だとも言われている。


「本当にいただいてよろしいんですか?」

「ええ。そんなに喜んでもらえると、あたしも嬉しいわ」

「クレイアさん。……一緒に食べませんか?」


 しかし、いざ、食べるとなると、勇気が足りない。偶然にも、前々から食べてみたいとは思っていたのだが、ホイサバはお腹を満たすことを前提に、他のサンドイッチと同じように、二つ入っているのだ。誰も実用性など求めていないというのに。


「別に気を使わなくても──」

「真剣なお願いです」

「え、ええ……」


 それから、臭いを考慮し、庭に出て開封した。瞬間、ホイップクリームの甘ったるさと、さばの水煮を煮詰めたような臭いが周囲全体に蔓延まんえんする。──ちょっと、吐きそうなレベルだ。


「ん! これ、すっごく美味しいわ!」

「えぇ……本当ですか?」

「食べてみなさいよ」


 勧められるまま口にして、猛烈に後悔した。


 結局、一口でギブアップしたが、不思議と、また食べたくなる気がする味だった。いや、食べたくないけど。


 ちなみに、まなは一個完食して、もうお腹がいっぱいだからと、私の食べかけをあかりに食べさせるため、冷蔵庫に入れていた。色んな意味で恐ろしい。


 こんなことができるということは、先日、あかりがアルタカアイスをまなと取り替えた理由が、まるで分かっていないのだろう。

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