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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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1-20 氷剣と神剣

 それから、あかりを病院に連れて行った。私が治したので間違いはないだろうが、一応、検査が必要だと判断したのだ。


 異世界から来た彼には身寄りがないが、便宜べんぎ上、私の両親が保護者ということになっている。また、元の世界ではろくな暮らしをしていなかったらしく、病院の行き方も知らない。


 それは、方向音痴であることも一因だが、それ以上に、受付や診察の受け方、持っていくべきものなど、何一つ、想像すらできないのだ。もちろん、そのことは知っていたので、私が付き添った。


 問題なし、の結果を受け、診察室を出るや否や、あかりが、不安を隠そうともせずに、尋ねてきた。


「あの人、僕の背中見て、どんな顔してた?」

「少し驚いていただけです」

「本当に?」

「はい。本当ですよ」


 ──嘘だった。彼の背中の刺青に対する反応は、人それぞれだが、今日の医者は酷かった。全身火傷ということで、火傷していた箇所はすべてさらす必要があったが、あの医者は背中を見たとき、露骨に不快そうな顔をしていた。わざわざあかり本人には言わないけど。 もう二度と、この病院には来ない。


「あ、言い忘れてたけど、治してくれてありがとうね」

「……はい」


 あのまま、治さずにいれば、刺青もきれいに消えて、傷もきれいに治ったかもしれない。可能性はゼロではなかった。──命を落とす確率も跳ね上がっていただろうが。


 と、隣から、小さなため息が聞こえて、答えの出ない思考の海から、意識を引き上げる。


「そんなに暗い顔しないでよ。マナは気にしてないんでしょ?」

「当然です。むしろ、カッコいいと思っています」

「じゃあ、それでいいじゃん。ね?」

「──そうですね」


 嘘でも彼が、それでいいと言うのなら、私が気にしていても仕方がない。むしろ、明るく振る舞うべきだ。


 ちなみに、まなもこの病院に運ばれたというのは、彼女の安否とともに、問い合わせて確認した。大きな病院なので、人間と魔族のどちらにも対応している。


 そうして気配を探せば、椅子の上で三角座りをしているまなは、すぐに見つかった。他の搬送された人々は、魔法による治療を受けた後、警察に簡単な取り調べを受けるなどして、すでに帰ったようだ。


 ただし、まなはうっかり、私やあかりと一緒にいたと言ってしまったがために、足止めを食らったようだ。彼女の出自のこともあっただろうが、ともかく、そういった話はすべて、あかりを引き取ったときに済ませてある。今は、まなも自由の身だ。


 しかしまなは、私たちも病院にいると警察から聞いて、待つことにしたらしい。そんな彼女だが、現在、椅子の上で縮こまって、ガタガタと震えていた。


「クレイアさん、どうしましたか?」

「あ、ご、ゴールスファささささ──」


 まなは私の苗字でフリーズしながら、虚空を指差して、何かを訴えていた。しかし、近づいて、手を伸ばしてみても、特におかしな点は見つからない。


「うわあっ!!」

「わあっ! ビックリしたあっ……いや、何!?」


 彼女は急に叫んで、あかりを驚きに巻き込んだ後、今度は別の方向を見て、震え始める。


「このままここにいたら、殺されるわ……」


 まなは病院が苦手らしい。可愛い──というよりも、その怯え方が尋常でないので、可哀想だ。幸いにも、まなも特に異常はなかったので、その日のうちに帰ることにした。


「クレイアさん、大丈夫ですか?」

「えええええ。こ、こんなの、余裕よ……。──お姉ちゃんだって、幽霊みたいなものじゃない!」

「どうかされましたか?」

「い、いいえ、なんでもないわ……」


 その発言のことはともかく、どう見ても強がりだろう。顔が真っ青になっており、自分の耳より上に結ばれた、高い位置の白髪サイドテールにしがみついている。そうして震えているのを見ていると、だんだんいじめたくなってくるが、こらえる。


「ねえねえ、何が見えたの? 教えて」

「近づかないで! あんた、すっごくかれてるから!」

「え!? 何々、怖いんだけど! 取ってよ!!」

「無理! 来ないで! 宿舎にも入らないで!」


 私を挟んで、二人はギャーギャー言い合う。くるくる回られながら、思ったよりも元気そうだと苦笑していると、ふと、目の前に見覚えのある赤髪が目に入った。


 私は二人の前に出て、往来のど真ん中で、構える。


「……は?」

「まなちゃん、ちょっと離れてよっか」


 あかりの判断に素直に感謝し、今は、目の前の男の一挙手一投足に集中する。


「そんなに警戒すんなって。用件だけでも聞いてくれや」

「聞かずとも分かります。エトスに連れ帰るよう言われたのでしょう?」

「なんだ、分かってるじゃねえか。そいで、返事は?」

「肯定だと、そう思いますか?」

「いんや、思わねえよ」


 ──瞬間、光の速さで男の剣が軌道を描く。私は標識を引き抜いて、武器の代わりとし、軌道を反らす。


 先の一件で魔力を使い果たしているので、魔法はほとんど使えない。そして、魔力の残量は体力にも直結する。


「マナ、使って!」


 標識を捨て、魔力も高ければ、回復も速いあかりから受け取った氷の剣を握り、心地を確かめる。相手が相手なので心許こころもとないが、使えなくはなさそうだ。


 試しに、一太刀振るってみると──壊れなかった。先日、壊れてしまった木刀よりは優秀だ。


「どうやら、お疲れみたいだな? 剣筋がぶれてるぞ」

「今日はとても疲れているので、見逃していただけると幸いです」

「なるほど。チャンスってわけだ」

「……せめて、場所を変えませんか?」

「大丈夫だ。周りに被害を出すような下手はしねえよ──っ」

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