1-17 可愛いお顔
カレンダーを見つめて、私はため息をつく。
「蜂歌祭は四日後ですが、女王即位の儀が二日かかることを考えると……今日明日、動きがあってもおかしくないですね」
本来なら、十六歳の誕生日──年度の始まりの翌日、四月二日には、私は女王になる予定だった。そのため、高校生にはなれないはずだったのだが、私は今も、逃げ続けている。
──扉がノックされ、返事を待たずして開かれる。
「アイちゃんアイちゃん。今から、まなちゃんとアルタカ行くんだけど、一緒に行こう?」
「アルタカ──ショッピングモールのことですね。ですが──」
私はあかりの影からこちらを見ている、白髪の少女に目を向ける。そうして私と目が合うと、彼女は赤い瞳で睨み返してきた。嫌われている。絶対、嫌われている。
「どうせ、大した用事もないでしょ?」
「失礼な」
「それにさ。まなちゃんも来てほしいって、ね?」
「別にどっちでもいいけど」
──あかりの言う通り、本当に来てほしいのだろうか。表情から読み取ろうとしてみるが、よく分からない。これでも、心理学には通じている方なのだが、彼女にはまったくと言っていいほど通用しない。基本的に、何に対しても無反応か睨むかのどちらかなのだ。
となれば、直接聞いた方が早い。
「本当によろしいのですか?」
「どっちでもいいって言ってるでしょ。何度も言わせないでくれる?」
まなの言葉が心に刺さる。やはり、やめておこうか──、
「まなちゃん。それだと、来てほしくないみたいに聞こえるって」
「は? 来てほしくないなんて一言も言ってないでしょ?」
「じゃあ、素直に来てほしいって言おうよ」
「は? 忙しかったらどうすんのよ。無理に来させるわけにはいかないわ」
「──ってことなんだけど。アイちゃん、一緒に来る?」
あかりが上手く本音を引き出してくれて助かった。
どうやら、私に気を使って、遠慮したらしい。まな語を理解するには時間がかかりそうだ。だが、その気遣いすらも嬉しい。
「そういうことでしたら、ぜひ行かせてください」
「そう。なら、早くしなさい。時間がもったいないわ」
これはどういう解釈をすればいいのかと、翻訳担当のあかりを見る。
「えーっとね、まあ、ボールペンの替え芯買いに行くだけなんだよね」
確かに、歩いて十分のアルタカまで行って帰ってくるだけなのだから、誘っている時間はかなり無駄だ。そして、あかりはそんな用事にもついていくストーカーだ。
「クレイアさん、お誘いいただき、ありがとうございます」
「別に、お礼を言われるようなことじゃないわ」
しかも、本人はあれで誘っているつもりだったらしい。その上、どういたしまして、で済むところを、やたらカッコよく返してくる。今日も可愛い。
「何? あたしの顔、何かついてる?」
「可愛いお顔がついていますよ」
「あっそ」
また嫌われたかもしれない。いや、誘ってくれたということは、少しは好意を持ってくれていると思っていいのだろう、多分。




