1-14 なんでこんなに弱いのっ
軽く準備して、私はモンスターのいる平原へと向かった。ノアはこんなに発達しているにも関わらず、平原に接しているため、移動に時間がかからなくていい。
ちなみに、地上を歩くと目立つため、魔法で空を飛んで移動した。魔法での飛行は、難易度が高く、限られた者しかできない。距離を問わなければ、飛行よりも瞬間移動の方ができる人は多いほどだ。
「はあっ、やあっ、たあっ!」
平原にいるモンスターは、基本的に巣からはぐれたモンスターだ。そのため、種族は様々で、強いのから弱いのまで色々いる。
ちなみに、フィールドで使用が許されているのは、対モンスター用の武器だけであり、これを使うと、群れからはぐれたモンスターを、巣へと送り返すことができる。
方法は、その武器を使って、モンスターにダメージを与えるだけだ。ただ、実際に戦えば分かることだが、この方法だと、はぐれモンスターには痛みを与えられない。血は流れるが。
そのため、出血で動けなくなるのを待つか、致命傷を与えるかしか倒す方法はない。痛みを感じないはぐれモンスターたちは、降参の二文字を知らないのだ。ちなみに、巣に戻れば完全に回復する。
一方、巣で暮らすモンスターたちには、基本的に危害を加えてはならないことになっている。巣にいるモンスターに危害を加える場合、モンスター用の武器であっても、殺せてしまうからだ。まあ、モンスターの巣は、そのほとんどが、行こうという意志がなければ、行けないような場所にあるのだが。
ちなみに、先日のノラニャーは少し特殊なケースで、ノラニャーは自分たちの巣を守るモンスターと共存する。また、そのモンスターがいる場所を巣として選ぶため、親玉の方を倒せば解散するという仕組みだ。
そして、先日、そのボスのような存在を、あかりが倒したらしい。ただ、その際、ノラニャーが習性で巣に集めていた盗品を、まなの地図以外、すべて燃やしてしまったとかで、公にはしていない。
「あー、弱いっ! 弱い弱い弱いっ!」
モンスターを切り刻み、鬱憤を晴らす。が、全部一撃で沈んでいく。これではストレスが溜まる一方だ。
王都付近は魔力が濃く、モンスターも強かった。それでも一撃だったが、それと比べても、この辺りのモンスターは際立って、弱すぎる。倒すと、アリを踏み潰したような罪悪感だけが残る。
「もう、なんで、こんなにっ、弱いんですか!」
モンスターを巣に返したからといって、報酬などがあるわけではない。どうせ、すぐにまた出現するし、退治しないでいたとしても、モンスター同士の争いによって自然と数は一定に保たれる。
そうして、たまに、強いモンスターが現れたりすると、やっと依頼が出されるのだ。強いと言っても、世界最強の人類である私には、基本的に一撃で倒せてしまうのだが。
そもそも、私がそこらのモンスターに負けるはずがない。魔法の腕はもちろん、これでも、幼い頃から、剣神と呼ばれる男に指南を受けており、かつ、それを剣だけで打ち負かしたこともあるのだから。
「……全滅しましたかね」
私のストレスのせいで、まったく気配のなくなった草原の真ん中で、人目がないのを確認し、私は幾ばくかの罪悪感を振り切って寝転がり、空を見上げる。
疲れすらしなかった。これならまだ、部屋で暴れた方が幾分かマシだ。とはいえ、先の被害のことを考えると、そういうわけにもいかないのだが。
そんなことを考えて、しばらくが経ち。
「──素振りでもしてみましょうか」
思い立ったら即行動だ。私は手を使わずに立ち上がり、精神を研ぎ澄ませる。
構えた木刀を、平原から続く海の方角に向けて、振り下ろした。──直後、その動きだけで海が、割れた。
ダメだ。水平方向は危険すぎる。
仕方ないと、空に向けて、風の魔法を放つ。すると、雲が割れて、青空が見えるようになった。このままだと、全部晴れにしてしまいそうだ。
「はあー……」
──まあ、誰にも迷惑をかけていないし、大丈夫だろう。
「……そのうち、手で顔を扇いだだけで台風が発生しそうですね」
そんなことになったら、私はどうやって生きていけばいいのだろうか。これでも、まだ十六で、成長途上だ。日に日に強くなるのを感じる。つまり、何もしなくても、強くなることは確定しているのだ。
「どこか、迷惑をかけない場所で訓練をしたいものですね──」
そんなことを考えていると、木刀が粉々に砕けた。




