表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
232/358

1-11 私の勝ち

 私は辺りを見渡し、手頃な高層ビルめがけて、少量の魔力を利用し、一足飛びで移動する。それから、壁を跳躍と疾走を利用して駆け上がり、屋上へとたどり着く。


 そこからさらに、残量すれすれの魔力を使って飛び上がり、ホールにできる限り近づく。そして、


「はあっ!」


 使える限りの魔力を解放し、時空に大きな歪みを生み出す。別名、無限収納とも言われ、なんでも入れることができる歪みだ。


 ホールは衝突する物体を得られないまま、溢れんばかりの魔力を制御する発動者を失い、膨張しつつあった。


 ──ビルを丸のみにしそうなほど大きなホールを、歪みに収納する。


 一繋ぎの大きな歪みを作り出そうと思えば、歪みを調整し、途切れないようにする必要がある。大きくなればなるほど、波打つそれを制御するのは困難となり、並外れたセンスと莫大な魔力を必要となる。


 だが。


「──いける」


 広げた歪みに、ホールが収納されていき──、完全に入りきったのを確認して、魔法を解除する。


「馬鹿な……!」

「──私の勝ちですね」


 その結末を見届けて、クロスタは意識を失ったようだ。


 一方、私は沈みゆく意識をなんとか引き寄せ、落下の衝撃に備えようとする──が、全身のどこにも力が入らない。いや、正確には動けないと言った方が正確か。


「アー」


 ──あのカラスの仕業だ。カラスが私の動きを魔法で封じているのだろう。


 なんとか体勢を変えようとするが、指先一つすら動かない。マンションの屋上からこのまま、逆さまに落ちて、果たして、無事でいられるだろうか。魔法で治療することもできるが、即死の場合はなんともならない。


 地面が近づいてくるがまだ動けない。そのうちに、自然と目が閉じていく。


 だが、恐怖はない。死を受け入れているわけではない。


 ──ただ、助けが来ると、信じているから。


「マナ──!!」


 風で落下の勢いが消え、腕に優しく抱き止められる。


 やっぱり、来てくれた。


「大丈夫、マナ!?」


 口を動かそうとしてみるが、まったく動かない。目も開きそうにない。これは夢なのではないだろうかと思ってしまうほどに、すべての感覚がぼんやりとしていた。ただ、彼が助けてくれたのだろうと、その実感だけがあって。


「マナ、マナ!」


 ──うるさい。今は、静かに眠らせてほしい。


「ねえ、マナ!」


 ──あーうるさい。本当にうるさい。少しは黙っていられないのか。心臓も呼吸も瞳孔どうこう反射も正常だ。ちゃんと生きている。


「マナアアア、マアアアナアアア!!!!」

「うるさい……!」


 空気中の魔力を取り込み、少しは気力が戻ったのか、やっと目を開けることができた。


 ──だが、気がつくとそこは、宿舎の部屋だった。


「起きたのね、良かったわ」


 近くには、まなの顔もあった。はっとして起き上がると、外から日が射しているのが見えた。


「マナアアアアァァァ……!」


 あかりが顔中から体液を出して、私に抱きつこうとするのを、避ける。


「汚いので近づかないでください」

「ばっで、ばだが、ばだがああああ!」

「気持ち悪いです。何言ってるか分かりませんし。この通り元気ですから」

「……あんた、丸一日寝てたのよ。覚えてないの?」

「──そんなにですか?」


 となると、今は二日後の朝で、私は昨日学校を休んだということか。とはいえ、魔力を使い果たせばこうなるのはある程度分かっていたが、


「まさか、あれからずっと、あかりさんはこの調子なんですか?」

「ええ、そうよ。学校に連れて行くのも無理そうだったから、もう放っておいたわ」


 ──聞こえた寝息に視線を落とすと、あかりはベッドの端に顔をのせて、眠っていた。目が半分くらい開いていて、怖い。いや、気持ち悪い。


「──クレイアさんがここにいるということは、まだ始業前ということですね」

「ええ、そうだけど……まさか、行くつもり?」

「はい。この通り元気ですし。連続でお休みすると、皆さん心配されるかもしれませんから」


 ぐがーと、イビキをかくあかりの顔に、私はティッシュをぺたぺたと貼り付ける。よくくっつく顔だなと思いつつ。特に深い意味はない。


「起きたときにあんたがいなかったら、あかりが宿舎を壊しかねないから、やめてあげなさい」

「それなら、今、起こせばいいだけの話です。あかりさん、起きてください」

「んー……」

「ほら、行きますよ」


 そもそも、泣きすぎで休むなんて、死んでいたわけでもあるまいし、大袈裟だ。加えて、私とあかりは今のところ、他人だ。昨日も休んでおいて、次の日、睡眠不足で休むなど、許されるはずがない。


 なかなか起きないあかりに痺れを切らし、私はその耳を思いきり引っ張る。千切れない程度に。


「いでででっ!」

「早く起きろ」

「今日は、休ませて……」


 私はあかりの襟首えりくびの後ろを掴んで引き寄せる。何か言おうとして、一昨日の服のままのあかりから、少し、かぐわしい臭いがすることに気がつく。私ももしかしたら、同じ臭いがするかもしれない。


「クレイアさん、私、臭いますか?」

「まあ、ほんのり」

「……昼には必ず行きます」

「そう。伝えておくわ」


 まなは部屋を出る直前、私の方を振り返り、


「そうそう、この間はありがとう。地図はあかりが取り返してくれたわ。このお礼はいつかさせてもらうから」


 そう言い残して去っていった。彼はちゃっかり、地図を取り返していたらしい。自分で盗ませたのだから、当然、そのくらいはやってもらわないと困るが。


「──とりあえず、お風呂に入りますか」


 いでみたが、自分の臭いはよく分からなかった。本当に臭うだろうか。ショックだ……。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ