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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第二章 ~溺れる日記~
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1-6 今の私の目標

 道中、まなが地図を買うならどこがいいかと尋ねてきたので、私はコンビニなら売っているのではないかと答えた。付け加えて、大手コンビニチェーン、トンビニトラレル、通称トンビニがおすすめだとも言った。


 そういうわけで。


「クレイアさんは本日、地図を買いに行かれるそうですが、一人で大丈夫でしょうか」

「いや、あの子しっかりしてそうだし、大丈夫じゃない?」

「と言いつつも、いつでも出掛けられるように準備していますよね」

「ま、一応ね」


 私たちはそれぞれの部屋から念話で会話していた。念話とは、魔法を使った連絡手段のことであり、思念伝達とも言われる。


 声でも文字でもなく、相手の考えていることをそのままやり取りする魔法であり、相手のことを理解しているほど内容も理解しやすくなる。また、言語の壁があったとしても、特性上、問題はない。


 念話可能な距離は双方の魔力に比例する。自慢するようで気が引けるが、私は現在、世界で二番目に魔力が高い人間なので、相手の魔力に関係なく、世界の裏とでも連絡がとれる。


 ちなみに、魔族と人間を含めた人類最強の魔法使いは誰なのかと言えば、


「……はあ」

「ため息なんてついてどうしたの? アイちゃんらしくもない」

「切りますね」

「え、あ、ちょっ!?」


 そう、色々と残念なこの彼だ。ちなみに、彼をこの世界に召喚したのは私だが、何度後悔したか分からない。


「ねえ、切らないでよ!」


 そんな件の彼が、部屋をノックもせず開け放ち、直接文句を言いに来た。これでも一応、年頃の乙女なのだが、そういった配慮は感じられない。


「なぜ切ってはならないのでしょうか」

「なぜって、それはその……」

「私との婚約を一方的に破棄したのはあなたですよね」

「いや、それには事情が──」

「では、その事情とは何ですか?」

「それは、言えない」


 本気で殴ってやりたいところだが、やめておく。


 彼は私に、分かってほしいとも、分からなくていいとも言わない。ただ、私が望んだときに、私が欲しい言葉をくれる。しかし、それは本心ではない。


 だから、彼の本音はなかなか見えない。私にどうしてほしいのか、言ってくれさえすれば、可能な限り、それに応えるつもりなのだが。


「本当に頑固ですね」

「意志が強いって言ってよ」

「変える勇気がないの間違いでは?」

「うーん、否定できない。でも、それでもいいってついてきたのは、マナの方でしょ?」


 そう、私の方が負けたのだ。これでも実は、私はどうしようもなく、彼にかれている。目をじっと見られると、思わず顔をそらしてしまうくらいには、負けている。悔しい限りだが。


「でもさ、念話しないでとは言われてるけど、通話もメッセージも全部ブロックされてたら、念話以外連絡の取りようがないじゃん?」

「こうして直接伝えに来てはどうでしょう?」

「そんなに僕の顔が見てたいの?」

「いりません」


 そう言うと、彼は笑った。どうして分かるのかとは聞かない。顔が見たくて念話を切ったと、認めることになるから。


「いやあ、僕もマナの国宝級に可愛い顔はいつまでも見てたいんだけど、まだちょっと、緊張するっていうかさ」

「出会って二年。交際期間は一年もあったというのに、今さら何を緊張することがあるんですか?」

「日に日に可愛くなってくからさ」

「死ねばいいのに」

「おっと、照れ隠し? 可愛いねえ、マナは」


 これで、向こうには内心が筒抜けなので、救えない。だが、手放しに喜ぶこともできない。


 ──別れてまだ一ヶ月も経っていないのだ。それなのに、今までと変わらない対応をされる上、それでもなぜ別れたか教えてもらえていない。


「クズですね、本当に」

「ごめんね、マナ」

「絶対に、許しません」

「──ごめん」


 ──いつの日か、絶対に、彼を妄執から解き放ち、再び、私の元に戻って来させる。それが、今の私の目標だ。彼が少しでもこちらを向いている限り、それは叶うはずなのだから。


 私には彼以外の選択肢など、初めから眼中にない。そうしていつも、私は自分がいかに愚かであるか気づかされる。


 ──そして、そんな彼の今、一番の興味が、マナ・クレイアに向けられているというわけだ。だが、見たところ、恋、という感じでもない。そもそも、まなは彼を知らないようだった。


「それにしても、まなちゃん、まだ地図買いに行かないのかなあ?」

「部屋にいる気配はしますが、動く様子はありませんね。おおかた、勉強でもしているのでしょう」

「いや、気配って何?」

「心臓の鼓動や、呼吸の音が聞こえます。この壁は薄いですから。それくらい分かるでしょうに」

「いや、普通、聞こえないから……」


 今は、こうして、チクチクといじめるのが精一杯だった。

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