表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
215/350

6-48 時を戻したい

 ──まなちゃへ。


 この手紙を読んでいるということは、レナは死んでしまったのでしょう。ああ、死んでしまうとは我ながら情けない……。ごめんねえええ、まなちゃあああ。ま、それは置いといて。


「……ずっとこのテンションだと、読むのが辛いわね」


 私はため息をついて、再び紙に目を落とす。しかし、変わらない彼女の在り方に安堵しているのが、自分でも分かった。


 ──まなちゃは、すっごくいい子だから、いつも誰かが側にいてくれたと思う。だから、あんまり心配はしてなかったよん。


 ……いや、嘘。めちゃんこ心配だった。すんごく心配だったけど、これを読んでくれてるってことは、なんとか、乗り越えてくれたみたいだね。よきよきー。ってことは、お姉ちゃんの慰めはいらなかったと思うけど、本当は、側に行って抱き締めてあげたかった。それももうできなくなっちゃった。ごめんね。


 でもさー、やっぱり、まなちゃには頼ってほしかったなー。あんなに頼ってって言ったのに、一回も頼ってくれないんだもーん。もう、拗ねちゃった。ぷんぷん。


 ──まゆみのことはね、あたしも知ってた。どうなったかとかは言えないけど、もう、この世界でまなちゃの前に現れることはないよ。絶対にね。


 れな様はこー見えても、えらーい大賢者様なのです。だから、まなちゃが今、何を考えてどうしようとしてるかなんて、全部お見通しなのです。この手紙、いつ書いたの? って、思ってるでしょ? そりゃあナイフを渡す前に決まってるじゃん? ってことは、おっとおっと、もらったのは、まなちゃが八歳のとき? おやおや、れなはいつからこうなるって知ってたんだ!? みたいになってるでしょ?


 実は、中身は後から入れ替え可能なのです! だから、まなちゃに最後に会ったときにこっそり差し替えておきました。へへーん、びっくりした?


 ここからが本題ね。


 ずばり、まなちゃは今、時を戻そうとしています! はい、大正解!


「まるで、どこかから見てるみたいね……」


 とはいえ、れなはもう亡くなっているのだから、そんなはずはないのだけれど。幽霊が見えると言っても、そんなに便利なものではない。こういうのは、会いたい人に限って、だいたい会えないものなのだ。


 再び、手紙に意識を向ける。


 ──時を戻してもね、世界は複製されて、この世界はこの世界として続いていくの。それで、まなちゃがいる方の世界だけ、時が戻る。まあ、世界を一つ作っちゃうみたいなもんだよ。パラレルワールド的な?


 つまり、起こってしまったことは、時を戻したとしても、決してなくならない。それは忘れないでね。


 とにかく、過去の世界にまなちゃが移動することになるんだけど、記憶や物は持っていけるよ。あ、体は元の年齢に戻るから、心配しなくてダイジョーブ。いやー、それにしても、若返るなんて、羨ましい! あ、れなも若返るのか! やったね! わーい!


 ただし、注意事項があります。それはね、この世界のまなちゃが過去に戻ると、過去にまなちゃが二人いることになっちゃうってこと。そーれはさ、良くないよね? ドッペルゲンガーってやつだよね? 同じ魂が同じ世界に二つあるなんて許されないから、会ったら、どっちかが死ななきゃいけない。


 だから、時を戻すなら、まなちゃはまなちゃを消さなきゃいけない。


 つまり、時を戻すのは絶対に、ダメ。


「じゃあ、どうしろって言うのよ──」


 どうするかは、自分で考えなきゃ。まなちゃの願いなんだから。


 ──まるで、私の考えを読んだみたいだが、確かにその通りだ。私の判断を、誰かのせいにしたくはない。


 あ、それから、この紙、持ってかないでね。その辺にぽんって置いといて。ああ、紙が少なくなってきちゃった! ここからは巻きでいくね!


 まなちゃ、誕生日おめでとうかけるたくさん!成人おめでとう!魔王即位おめでとう!退位おめでとう!戦争終了おめでとう!いやー、まなちゃならやり遂げてくれると思ってたよー!それから、今まで、頑張ったね。生きててくれて、ありがとう!


 最後ね。色々あると思うけど、どうするかはまなちゃが自由に決めていいんだよ。どんな答えを出したとしても、れなはまなちゃの味方だから。考えるのが嫌だっていうなら、それから逃げてもいい。お金に困ったら、魔王城から盗めばいいし。嫌なことに、わざわざ立ち向かわなくていい。どんなときでも、まなちゃの選択が一番だから。


 ……いや、一つだけいいかな。死なないで。絶対に。生きてね。どんなに辛いことがあっても、生きることからだけは、逃げちゃダメだよ。


 最後にもう一つ。本当にこれが最後ね。まなちゃ、ごめんね。ずっと一緒にいてあげられなくて。顔もあんまり見せられなくて。こんなに遠くからしか、言葉を伝えられなくて。何にもできなかったれなを、まなちゃが嫌いになるのは、当然だと思う。許して、とも言わない。


 それでも、れながまなちゃのことを思ってたのは本当。れなは、まなちゃのことが何よりも大切だよ。本当にごめんね、れな、こんなに早く死んじゃって。本当に、何もしてあげられなくなっちゃった。一緒に行きたいところとか、食べたいものとか、してみたいこととか、色々、本当に色々、たくさんあったんだけどね。


 ごめんね、まなちゃ。ずっと、永遠に、大好きだよ。


 まなちゃの姉、レナ・クレイアより


***


「結局、読もうと思って、後回しになっちゃったわね」


 白い本の表紙を撫で、私は少し、ため息をつく。マナが最期に残したものだ。それを今から見るとなると、緊張する。


「どうするか考えてから……いや、でも…………いいえ、今しかないわね」


 ──さあ、何が出てくるか。ビックリ箱でも、今なら笑って許そう。


 しかし、開けばそれは、ちゃんとした本だということがすぐに分かった。そして、私は最初に書かれている言葉を読み上げる。


「──私は、世界で一番、幸せです」


(第一章 願いの手紙 END)

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ