6-31 ナーアに任せたい
「──いえ。方法はあるわ」
「お、何々?」
「あたしが魔王になれば、戦争のない今、王国はあたしを葬儀に呼ぶことになる。魔王はずっと、ルスファの王家と繋がりを持ってきたの。マナが亡くなったのにその知らせも寄越さないなんてこと、できないはずよ」
「難しくて分かんないけど、とりあえず、まなちゃんが魔王になればいいってこと?」
「ええ。それに、魔王は人間の法律で裁けないから、あたしの指名手配もなくなるし」
「やっぱ、魔王ってすごいんだねえ」
「すごいに決まってるでしょ。本来、あたしなんかがなるようなもんじゃないのよ」
魔族たちを従えるほどの力を、きっと私は持たない。だから、早く、「ルスファ王国の中の魔族の国」なんていう、馬鹿げたものをなくす。
「あんた、あたしを瞬間移動させるのに、何日休めば足りる?」
「んー、三日くらい? あれ、お葬式っていつやるの?」
「通夜が明日で、葬式とか告別式が明後日じゃない? 通夜はどう考えても間に合わないから、あたしたちが参加できるのはその後だけね。まあ、女王が亡くなってるわけだし、一般向けのもっと大きな式が開かれるかもしれないけれど」
「えーっと、何が違うのか分かんないけど、つまり?」
「いよいよ、休んでる暇もなくなってきたわね。あかり、ついに財布の出番よ」
「出番、早いなあ」
財布と言っても、だいたいの人は魔法通貨を利用するので、現金を持ち歩く人はそういない。ほとんどが、魔法が使えない子どもの使用に限られる。
「手段を選んでいられないわ。新幹線で行きましょう」
「身バレしない? 大丈夫かな?」
「大丈夫よ。バレたら全員倒すわ」
「いや、さすがに逃げようよ」
あかりの風の魔法に乗って、私たちは空を飛んで平原を越え、次の駅に向かった。追っ手に気づかれないよう、透明になる結界を張っていた。魔法が発達する世の中では情報の伝播が速くて困る。
つい、いつもの癖で小学生料金の方を押すと、あかりにすごく馬鹿にされた。私は肘鉄を食らわせて、堂々と改札を通った。もちろん、フードくらいは被っていたけれど。
目視で怪しい人に声をかける程度だったので、奇跡的に気づかれなかった。きっと、親子にしか見えないから、気づかれないのだろう。失礼な話だ。まあ、自分で言っているだけなのだが。
***
翌日の昼過ぎ。あかりにネムルンの作り方を教え、何人かを穏便に眠らせて、私たちは無事、魔王城にたどり着いた。
さすがに、魔族の領地に近づけば、検門が厳しくなる。このご時世に、魔族の領地に向かうというだけで怪しいのだ。そうして、私にフードを外せと言った人たちは全員眠った。いやあ、不思議なこともあるものだ。寝不足だろうか。
それから、ル爺に事情を話すと、ナーアを連れてきてこう言った。
「現在、この城ですべての権限を持っているのは、ナーアにございます。今後、御用の際は、彼女にお申しつけください」
と。ル爺は雑用らしい。そして私は、慣れないナーアに即位を急がせていた。
「あたしは手紙を書いておくわ。貴族のこととかは、よく分かんないけど」
「分かりました! ルスファ国王以外の方々への書状は、ルジに代筆させます」
ナーアは舌足らずな様子だったが、言っていることはいやにしっかりしていた。
「……大丈夫? 達筆すぎて読めない、なんてことになったりしない?」
「大丈夫です! 今の時代、魔法にもワープロという技術がありますので」
「へえ……?」
そもそも、わーぷろが何か分からないが、まあいい。後で調べよう。
そうしてル爺のお手本を見ながら、見よう見まねでトイスに手紙を書き、ナーアに最終確認をしてもらって、リュックに入れる。
「ユタの葬儀って、何かしてる?」
「ユタザバンエ様のご葬儀に関しましては、現在、保留にしております。ユタザバンエ様のご家族は今や、まな様お一人しかおられません。そのため、まな様のご意志を尊重したいと考えております」
「そう……。葬儀は一般に向けてもやるつもりだけど、詳しいことは帰ってきてから話しましょう。それで、即位って、どのくらいかかるの?」
「すぐにできますよ! 即位自体は、特別な儀式などは行わず、書類にサインしていただくだけですので」
「へえ、そんなもんなのね……。それから、ルスファの王国から、訃報とか届いてない?」
「はい。今朝、届きました。葬儀、告別式は明日の夜十時から行われるそうです。付き添いのあかりさんと、お二人でご参加されますか?」
「ええ」
「では、衣装の方も手配させていただきますね」
手際のいいナーアに感謝して、私は何が何やら分からないまま、流されていた。