6-30 答え合わせがしたい
「とりあえず、最後の質問に答えるなら──そうだよ。榎下朱里は、もうとっくに死んでる。十年前にね」
そう、私は、死人と話していたわけではない。
「あんた、本当は、えのしたあかねって名前なんでしょ。それで、あかりは、あんたの妹なのよ」
「そ、正解。僕は榎下朱音だよ。さすがまなちゃん。よく分かったねえ?」
「分かるわよ。あたし、賢いから」
「──あははっ、それ、自分で言う? いででででっ」
私は、あかりの耳を引っ張って、離した。
「あんた、あたしにクマを差し向けるなんて、どういうつもりなのか、説明してもらおうじゃない?」
「いや、予想はつくでしょ?」
「あんたの口から説明しなさいよ。引きちぎるわよ?」
「ひえっ。えーっとねえ。まなちゃんが、あまりにも願いを使わないから、どうしてかなーと思って。命の危機に瀕したら、さすがに使うんじゃないかなーと思ったんだけど」
「けど?」
あかりは、肺にいっぱい空気をつめて、どこか痛そうな顔をしてから、吐き出した。それから、間を置いて、再び口を開く。
「……マナに、邪魔されたんだ。なんでか知らないけど、僕がしようとしてること知ってたみたいでさ。ヒートロックを発火させて山火事も起こしたんだけど、まなちゃん、諦めずにチア草探したじゃん? そのときも、マナが守ってたらしいよ」
──あのとき私を助けてくれたのは、ギルデルドだけではなかったということだ。私が誘わなくても、マナは私を守ってくれていたのだ。てっきり、止めると思っていたのだが、そうはしなかったらしい。
「……そもそも、なんであたしがチアリタンに行くこと、知ってたの?」
「そりゃ、監視してたんだから、知ってるに決まってるでしょ」
「れなの手紙を読んだってこと?」
「僕はね。チア草のこともそこで知ったんだ。マナはそういうことしないだろうから、なんで知ってたのか知らないけど。あの子、元々、少し未来が見えるようなところがあるからさ」
しれっと、人の手紙を読むとは、一体、どんな神経をしているのだろうか。まあ、今に始まったことではないけれど。
クマを操ったりしているし。山火事も平気で起こすし。ノラニャーを利用して、仲良くなろうとしてくるし。
「あんたって、本当に心がないのね」
「その言葉に傷つく心は持ってるけどねえ」
「それで、あんたが動物に襲われたのは、あのクマを操ったからって思えばいい?」
「そうだろうね」
「……目をくりぬいたりはしてないよね」
「さすがにそこまではしてないって。もともと、どこかで落っことしてきたみたいだよ」
疑いの眼差しを向けると、あかりは肩をすくめた。嘘ではなさそうだ。
「まあ、聞きたいことは山ほどあるけれど、今はいいわ」
「あれ、聞かないの? てか、今が聞くタイミングじゃない? 今を逃したらいつ話す機会が来るか、分かんないよ?」
「空元気なんて、見てても虚しいだけよ。あんた、話したくなさそうだし。マナのこと考えてたら、なんか、疲れてきちゃった。はあ……」
「空元気でも元気は元気だよ。そうじゃないと、やってられないって」
「──あーもうやーめた! やめやめ。もう今日はこれ以上歩きたくないわ」
私は、モンスターに囲まれた平原のど真ん中で四肢を投げ出す。あかりもその隣に座った。
「酒でも飲んで、全部忘れたいわね……」
「はあ、飲める人はいいねえ」
「飲めないの?」
「うん、まったく」
「へえ……。じゃあ、あたしも飲まないでおくわ」
「どのみち、お酒なんてここにはないけどね」
すっかり、辺りも暗くなっていた。私は星を眺める。
「きれいな星空だね」
「そうね。三人──いいえ、四人で、見たかったわ」
「……そうだね」
まだ、マナが亡くなったのは、たった、数時間前のことだ。そうとは思えないほどに、色々なことがあったような気がする。
立ち止まっている暇などないから、私は、悲しみの中でも進まなければならない。それでも、やっぱり、どうしても、まだ、進む力が出なかった。
「あんた、マナのお葬式って、どうするか考えてたりする?」
「めっちゃ行きたいけど、検門があるから無理かなあって」
「……魔法でどうにかできない?」
「無理無理。そんなことできたら、壁なんて壊してないって」
ダメ元で聞いてみたが、知っての通りだ。やはり、水晶を壊して、通り抜けるしか──、
「──いえ。方法はあるわ」