6-18 慰めてあげたい
バッサイと呼ぶ方が面白いので、バッサイと呼ぶことにした。
「バッサイは、どうやって角と尻尾をしまえるようになったわけ?」
「あア? 角は二本とも折れた。尻尾はちぎった」
「尻尾と喧嘩でもしたの?」
「いや。仲はそれなりにいいつもりだったンだが、人間の兵士に掴まれてなア、ヤバそうだったからちぎった」
「ふーん。あんたも辛かったわね。泣いてもいいわよ」
そう言うと、バサイは少し、面食らった顔をして、
「──ガハハッ! まさか、こんなロリに慰められる日が来るとはなア!」
なんて、一人で楽しそうに笑った。
「ろり? お姉ちゃん、ろりって何?」
「さあ……?」
私とまゆは、顔を見合わせた。すると、急に笑い声が止まった。
「おめエら、歳いくつだ?」
「あたしはこの間、九歳になったわ。あともう一つで十歳よっ」
「次で十一だよー」
「そうか。……小せエなア」
「ちっちゃくないわよ!」
「まなは十分、小さいよ」
「ちっちゃくない!」
バサイは目を細めて、私たちを見つめていたが、やがて、私のところにやってきて、角を掴んで体ごと持ち上げる。
「ひゃあっ! 高ーい!」
「よし、生えてるな」
「……何の確認?」
「いンや。掴みたかっただけだ」
そうして、すぐに私は降ろされた。それから、バサイは私の尻尾を掴むと、
「いッてエッ!?」
尻尾にぷすっと刺されていた。
「こら、尻尾! 人を刺しちゃダメでしょ?」
尻尾はバサイを威嚇しているようだった。バサイは刺された手を痛そうにさする。
「凶暴な尻尾だな……。さて、どうしたもンか」
バサイの説明によると、どうやら、尻尾をしまうと自動的に角も引っ込む仕組みになっているらしい。
「──体が痛てエとか、重い感じがするとか、目眩がするとか、そういうのはねエか?」
「ええ、ない、と思うけど……」
「まだ若エからなア。──まア、ここで匿ってやれンのは、せいぜい、一週間ってとこだ。それを過ぎたら、容赦なく追い出す」
「一週間かー。この子、だいぶ強情だからねー。そんなにすぐには、しまえないかも」
まゆは私の尻尾を撫でる。まゆだけは刺したことがない。尻尾もまゆのことが好きらしい。
「お姉ちゃんからお願いしてくれたら、引っ込んでくれるかもしれないわね」
「そう? 尻尾ちゃん、少し、引っ込んでみて?」
すると、尻尾は体をくるっと丸めて、疑問符の形になった。どうやら、引っ込み方が分からないらしい。
「引っ込んでくれないと、すごく困るの。だから、お願い?」
私が頼むとそっぽを向かれた。嫌われている。
「まあ、一週間あるから。頑張ってー」
「うえぇぇ……? 手伝ってくれないの?」
「まななら大丈夫。諦めなければ、絶対、なんとかなるから。ね?」
そう言って、まゆは私の頭に手を置いた。
──諦めずに頑張ろう。私はもっと、外の世界を見ていたいのだから。
「うん、頑張る!」
「よしよし、いい子」
それから、息を止めたり、全身に力を入れたり、押したりしてみたが、簡単にはいきそうになかった。
そうして私は、いつの間にか眠ってしまった。ここまで歩いてきたから、きっと、疲れていたのだろう。
「た、すけ……」
そんな声が、遠くの方で聞こえたような気がした。