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どうせみんな死ぬ。  作者: さくらもーふ
第一章 ~願いの手紙~
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6-12 やってられない

 ギルドにある大浴場で、私はマナと一緒に入浴する。その間、まゆとハイガルは外で遊んでいるらしい。


「はああぁ……! さっっっぱりしたわ」


 絡まった髪をマナに手伝ってもらってほぐした。気づけば、髪は膝下に達していた。


 そして、今現在、久方ぶりに温かい浴槽に浸かっていた。これまでは、水道や小川を流れる水を使って洗濯や風呂を済ませていたが、ここ最近、寒かったので、サボりぎみだった。


「うっはぁー、気持ちいい……。生きてるって感じだわ……」

「まなさん、少し見ない間に、小さなおじさんみたいになりましたね」


 私は足を投げ出し、肘を縁に乗せて首まで浸かる。他に人もいないし、今なら泳いでも怒られないだろう。尻尾も角も人目を気にする必要がないのは嬉しい限りだ。尻尾も気持ち良さそうに揺れていた。


「最悪、飯さえ食えれば生きてけんのよ。あとは、まゆさえなんとかなれば、他は、どーーーだっていいわけ。いちいち、人目なんか気にしてたら、ゴミなんて漁れないわよ」

「そんなに困窮していたんですか」

「まあ、色々とね──。あ、そうだ。マナ、どっちが速く泳げるか、競争しない? 海じゃろくに泳げなかったし」

「子どもみたいですねまなさん。でも、受けて立ちますよ」


 まあ、当然のようにマナが勝利した。魚もビックリの速度だった。私が泳ぎ始める前に対岸に到達していたような気がする。そういえば、マナは人間ではないのだった。いや、人間だけれど、能力的な意味で。


 風呂から上がり、私はマナにお酒を一杯おごってもらった。マナいわく、私の方は一番度数が低いものらしいが、アルコールを飲むのは始めてだ。


「マナは強いの?」

「それなりには。とりあえず、一口だけですよ?」


 私は言われた通り、一口だけ飲んでみる。あまり、何も感じない。


「大丈夫そうですね」


 そう言うと、マナはジョッキ一杯のビールを、一気にごくごく飲み干した。


「ちょっ!?」

「はあ──」

「えええ……? あたし、多分、そんな風には飲めないわよ?」

「ビールなんて、ジュースみたいなものです。それに……今日は酔い潰れたいんです。一日でいいので、もう、全部忘れさせてください」


 そう言って、マナはジョッキで何杯も飲み干していった。飲み干す度にため息をついては、追加を頼んでいた。


 思えば、来たときからすでに、何杯も飲んだ形跡があった。どうやら、引くほど強いらしい。何か相当、嫌なことでもあったのだろうか。


「はあぁ……」


 十杯を十分足らずで飲み干し、それでも全然平気なようだった。本当にジュースなのではないかと思ってしまう。


「やっぱり、ビールでは効きませんね」

「ええ……」

「ワインを一本、お願いします。どんなやつでもいいです」

「はいよ」


 届いたワインのラベルを見て、マナはグラスに一杯ワインを注ぐと、またジュースのように飲み干した。ボトル一本があっという間に消えていった。


 ちなみに、私も一口もらって飲んだが、内側から体が熱くなる感覚が、あまり好きではなかった。


「はあ、辛い……」


 マナは頭を抱えて、机を見つめ始めた。


「基準とか知らないけど、そんなに飲んで大丈夫なの? 死なない?」

「女王をなんだと思ってるんですか。血液にドラゴンの血が含まれているんですよ。その辺のお酒をどれだけ飲んだところで、そう簡単に死ぬわけがありません。ドラゴンの血で作ったお酒を飲むときだけは、さすがに一気というわけにはいきませんが」

「今、さらっと言ったわね……」


 衝撃的な事実をさらっと言われた。なるほど、恐らく、ドラゴンの血を飲むことで女王になるのだろう。それが血液に含まれるというのは、どういう仕組みか知らないけれど。


「水飲んだら?」

「酔いが覚めるので嫌です」

「脱水症状で死ぬわよ」

「死にません。……お気遣い、ありがとうございます」


 そう言って、マナは水を飲む代わりに、追加のワインボトルを開けると、ボトルのまま三割ほど飲んで、またため息をつき、頭を抱えた。


 私はビールの美味しさがいまいち分からず、首を傾げながら飲んでいた。ごくごく飲む勇気はまだない。


「何があったの?」

「何、ですか。ふふっ」


 マナは机を見つめたまま、空気が抜けるように笑った。それから、肘をついた姿勢のまま、またため息をついた。


「毎日毎日二十四時間、分身と二人で公務をこなしていれば、何があったか分かると思いますよ。特にここ最近はユタさんの誕生日のために時間を切り詰めていましたから、一ヶ月くらい、ほとんど寝ていないかもしれませんね。なんでもかんでも、私が一人でこなしてしまうからいけないんでしょうかね。でも、私がやらないと、他にやってくれる人がいないんですよねははは。それだけでも限界なのに、あかりさんはまた、わけの分からないことを、あああぁぁ……」


 私はそのサラサラの髪の毛を撫でる。そうしていると、マナは私を膝に乗せて、後ろから抱きしめた。


「あの日、二人とも、いなくなって。……とても、寂しかったんですよ?」

「──そう」

「なんで、急に出ていったりしたんですか」


 マナの頭が肩に乗せられ、すぐ近くから問われる。私は一瞬、飲みかけのビールに目をやって、視線をマナに戻す。


「みんな、不幸になるでしょ。あたしと一緒にいたら。あたしは、誰とも関わらない方がいいのよ。大切な人は、みんな死ぬわ。あんたも、あたしに殺されるわよ」

「私は、まなさんになら、殺されてもいいですよ」

「嘘ね」

「嘘じゃないです。命よりも、一緒にいることの方が大切です。──お母様が亡くなられたときに、まなさんも、そう思ったのではありませんでしたか?」


 私は、先ほど飲むのをやめた酒を、一気に飲み干した。頭がぐるぐる回る。私はマナを支えにして、全身の力を抜き、マナに頬を寄せた。


「まにゃー」

「──お酒に逃げられてしまいましたね」

「にゃむ……」


 気がつくと眠っていて、目が覚めると、そこは、ギルドではなかった。


「──マナ」

「はい。なんでしょう?」

「……気持ち悪うっぷ」

「まなさん。トイレまで我慢してくださいね。ビジネスホテルですから、ご迷惑がかかります」

「うっ……」


 無事、トイレで、うどん四杯、すべて戻した。


 昨日のことは何も覚えていなかった。

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