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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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6-8 殺せるの?

 魔王カムザゲスが亡くなったのは五年前の話だ。それを聞いた当時、すべてを受け入れるには、ユタはまだ幼すぎた。そして月日だけが経った。


 若くして魔王になること。逃げたまなを恨まないこと。魔王として、代々引き継がれてきたことを、今度はユタが魔王となって引き継ぐこと。そこには、人間たちの嫌われ役として君臨することが求められる。


 ──お前は恵まれているのだから、贅沢なことを言うな。


 そう言われたのと同じだと、ユタは感じたことだろう。姉であるまなの境遇など聞かされれば、比較してしまうのも無理はない。そこで他人事だと思わないのは、彼の美点だが。


「──一回だけ、そんな魔王が、まなちゃんを殺した方が良かったのかもしれないって、言ったことがあるんだ。あんなに辛い目に合わせるくらいならいっそ、ってね。ほら、全然、強くないでしょ?」

「だが父は、すべてを知っていながらも、何もしなかったのだろう?」

「手、ぶるっぶるだったけどね。──オレが一体、どんな気持ちで! 何もせずに! とかなんとか。あははっ」


 あかりは先代魔王の真似をしているようだったが、何も似ていなかった。その上、笑える要素が一つもなかったと思うのだが。


「……父も、人だったのだな。魔王になれば勝手に血が凍てつくものだと思っていたばかりに、そうなれない余が弱いのだろうと、そう思っていたが」

「先代の魔王は、素晴らしい方でしたよ。多少、臆病な印象があったのは否めませんが、自分の命を人々を守るために使ったのは、彼が初めてです。……私もそこだけは、計算外でしたから」


 ヘントセレナを陥落させたら、降参してはくれないだろうかと、そう思っていた。そうすれば、残りの魔族たちを死なせることなく、この戦争を終わらせることができるから。


 ただ、私はユタザバンエのもつ力に気がついていた。昔から、彼の魔力は段違いだった。今のユタであれば、私とあかりが組んだとしても、勝てるかどうか微妙なところだ。


 おそらく、ユタザバンエ一人で、ルスファの人類を残らず滅ぼすことすら可能だろう。だから、カムザゲスはユタに魔族の未来を託したのだ。


「──人間の女王にそう言われるとはな。生前の父が、お前を敵ながら高く評価していたことを思い出す。この争いを終わらせるためには、お前の力が必要だと、そう言っていた」

「敵を正しく評価することも、また才能ですよ」

「あははっ。たまには、謙虚な姿勢の一つでも見せた方が、あかりも喜ぶのではないか?」

「え、僕? 何々、何の話? 全然聞いてなかった」


 私は静かに、あかりの顔をじっと見つめてみる。


 あかりは頭に疑問符を浮かべて、私の顔を見つめ返してくる。



 そうして──先に、私の方が目をそらした。



「え、ん、どういう反応? よく分かんないけど、めちゃくちゃ可愛いね」

「うわぁ……」

「ユタくんまで? 僕、なんかした?」

「爆ぜろ」

「いや、ほんとに何したの、僕!? マナ、後で教えて?」

「嫌です」

「そう言わずにさあ……あれ、マナ、体調でも悪い? 顔が赤いような……べふっ」

「こっち見ないで」


 あかりの顔を手で遮り、反対に向ける。いつまで経っても勝てそうにない。悔しい限りだが。


「甘いな……」

「すみません。取り乱しました」

「──ははっ、やっぱり、マナをからかうのって楽しいよね」

「……え? 演技なの?」


 思わず、ユタも素が出ていた。私も正直、少しだけ、自信がなかったけれど。やはり、演技だと思った。最初から分かっていて、私の顔を見つめてきたのだ。


「そうだよ。この程度に騙されるなんて、ユタくんもまだまだだねえ」

「女王は分かっていたのか?」

「分かっていましたよ」

「分かっててあの反応な辺り、マナってだいぶ純情だよね」

「うるさい」


 そんな私たちを見るユタは、羨ましそうで、寂しそうだった。これでユタが、平和的解決を望んでくれればと、そう思う。薄情なようだが、今の時代では、魔族が敗戦を宣言するのが、一番被害が少なくて済む。


 きっと、あかりはすべて分かっているのだ。その上でユタに、こう問いかけているのだろう。


 ──君は、僕やマナを殺せるの?


 と。

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