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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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6-5 本日の主役

「このまま、ずっと私と、一緒にいてくれませんか?」


 そう問いかけると、あかりはゆっくり瞑目して。それから、星空を見上げた。


「──それは、すっごく、幸せだろうね」


 彼の心は、いつも、揺れている。ぐらぐらと。私と願いの間をさまよっている。その、一押しすれば傾きそうなぐらつきに、私はいつも惑わされる。


 たとえ、揺れていたとしても、彼の心には、歯止めがついていて、絶対に転がらないようになっているのだ。


 だから、私は、すべて、飲み込んだ。


「変なことを聞きましたね」

「ううん。変なのはいつも、僕の方だから」

「──行きましょうか」

「そうだね」


 あかりはフードを被り直し、私は魔法で化粧を直した。それからはあまり、お互いの顔は見ないようにした。


 会場に戻ると、すっかり人はいなくなっていた。時計を見ると、終了予定時刻を少し過ぎていた。終了の挨拶も終わったのだろう。時間を押してまでユタと堅苦しい話がしたいという人は、どうやら、いなかったらしい。


「──人間の女王よ。よくぞ来てくれた。そっちは……あかりか?」

「おお、認識阻害があるのによく分かったねえ。てか、ユタくん、大きくなったね。あれ? 僕より背高くない? うわ、なんか悔しー、まあいいけどさ。……昔は偉そうなだけだったのに、ほんとに偉くなっちゃったねえ。あ、ねね、もっかい、角、触ってもいい?」

「断る」

「ええー、けちー」

「そう易々と触らせるか。あの場で楽しめたのだから、それで満足しろ。……あいつは、来ておらぬか」

「──まなさんですか」


 魔王の血筋が途絶えかけており、両親と祖父母、れなも失ったユタの、たった一人の家族が、まなだ。当然、前魔王の代から魔族の方でも大々的な捜索が行われていたはずだ。


 だが、ここまで見つからないとなれば、どこかの国が匿っているとしか思えない。心当たりをすべて調べ上げてもいいが、できれば、国交が悪化するのは避けたい。


 私がどこかで命を落としたとき、次に国を引っ張っていくのはトイスや弟妹たちだ。余計な火種を残したくはない。


「まなちゃんはまだ捜してるとこ。そっちは? 何か手がかりとかない?」

「こちらも似たようなものだ。……ただ、生前、れなが占ったことがあってな」


 そう言って、ユタは懐から紙切れを取り出す。色あせてはいるが、文字はしっかり読める。


「二〇九四年四月三日、マナ・クレイアはユタザバンエ・チア・クレイアを死なせる──うわあ、明日じゃん。なんか物騒だな……」

「れなさんの予言は絶対ですから。物騒では済まないでしょうね」

「事実ってこと? ユタくん即位したばっかなのに災難だねえ。あ、そうだ! ユタくん、ハピバー! プレゼント用意してきたんだよね。絶対、喜ぶから! えーっと、箱、箱……」


 あかりが今までの会話は全部忘れたというような顔で、時空の歪みに手を突っ込んでプレゼントを探す。まあ、あえて話題を変えたのだろうが。


 だが、れなが予言したということは、絶対だということだ。冗談では済まない。まながそんなことするはずがない、などと楽観視するわけにもいかない。ユタは強いから大丈夫だろう、と考えるのも、おそらくは間違いだ。


 しかし、「どうやって」という部分が分からない以上、対策のしようがない。ユタがこの紙をもらったのはかなり昔だと考えられるが、見る限り、ユタに不安がる素振りはない。


 本当は、魔王の心配などしていてはいけないので、表には出さないけれど。──杞憂で済めばいいのだが。


「ふむ。余はたいていのものは持っているが?」

「大丈夫大丈夫。そういう、マナと同じタイプだと思って、ちゃんと考えてきたから。ま、いいから、開けてみなって」


 あかりはユタに箱を渡す。簡素な白い立方体の、手のひらサイズの箱だ。ユタはそれをいぶかしむように眺め、箱を開けた。


 ──パン!


 大きな音とともに、中から色とりどりの花火や、色紙が飛び出した。そうして、頭に色紙をつけたまま、ユタはしばし、目を真ん丸にして硬直する。


 それと同時に飛び出した小さな布の段幕には、「ユタくん、誕生日、おめでとう!」と、汚い字で書かれていた。ユタはそこから無言になった。


「あ、あれ? 怒った? ねえ、怒った?」




「……ふっ──あは、あはははっ! 面白い。ああ、実に面白い。面白すぎるっ!」


 遅れて笑い始めたユタは、段幕を閉まって蓋を閉じ、再び開けた。そしてまた、花火と紙切れが破裂音とともに飛び出す。


「あは、あははっ! 変なプレゼントもあったものだな!」

「いや、変って!」


 ユタは目尻に涙が浮かぶほど笑って、それを指で拭う。そこだけ切り取れば、ユタも、昔とたいして変わっていないように見えた。

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