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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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5-24 あかりの服を捜したい

 テストで赤点を取っても、体育でミスしても、マナに本気で怒られても、へらへらしているあかりが、珍しく、本気で落ち込んでいた。取り繕う余裕もないらしい。


「お姉様、わざわざ足をお運びいただき、ありがとうございました。今後は十分、警戒いたしますから、帰っていただいて大丈夫ですよ」

「そう言わずに、私も混ぜてくださいません? 三人とも楽しそうで、羨ましくて」

「いえ、お断りいたします」

「そんなに遠慮なさらなくても──」

「お断りいたします。早く公務にお戻りください」

「……釣れないですね」


 マナはモノカを帰らせようとしていた。ふと、まゆを探すと、離れたところから私たちを観察していた。


「お姉ちゃん、どうしたの?」

「……別に」


 まゆは露骨に私から目をそらした。


「あれ、何か悪いことでもしたの?」

「なーんにも。いい子にしてたもん」

「本当にー?」

「ほんとだもん。わたし、いい子だもん」

「……何か、隠してる?」

「隠してなーいっ。わたし、何にも持てないでしょっ!」

「それもそうね」


 気のせいかと、私はまゆから離れて、あかりたちの方へと戻る。


「あかり、探しに行きましょう。風で飛ばされたのかもしれないし」

「……いや、やっぱいいや」

「は? なんで? あたしに迷惑かけるとか思ってるなら、別に気にしなくていいわよ」

「んー、そういうわけじゃないんだけどさ」


 先ほどまでのどうしよう、がなくなり、今度は静かになった。また、いつもの笑みを浮かべるあかりが、なんだか、心を閉ざしてしまったような気がした。


「それでは、私はこれで。くれぐれも、体調には気をつけてくださいね。それから、羽目を外しすぎないように」


 そう言い残し、モノカは大量の荷物を抱えて去った。本当に泊まる気だったのだろうか。


「あかりさん、本当に探さなくていいんですか?」

「んー……どうしようねえ」


 マナの問いかけに、あかりの視線が、一瞬、私に向いたのが分かった。私がいると、都合が悪いらしい。


 まあいいけれど。私にも、二人に言ってないことがあるのだから。


「あたし、ちょっと、探してくるわ。お姉ちゃん、行きましょう──」


 そうして、まゆを連れて部屋を去ろうとすると、あかりに腕を掴んで引き留められた。そちらは、傷のある右手の方だ。


「うっ……」

「あ、ごめん」

「いいえ。自業自得だから。それで、なんだった?」

「えーっと……探さなくて、いいよ」

「それは、探してほしいのかほしくないのかどっち?」

「だから、探さなくていいって」

「とても、言葉通りとは思えないんだけど。本当はどっちなのよ」

「……分かんない、から、捜さなくていい」


 普通のワンピースだ。見たところ、特別な要素など、何もなかった。私にぴったりのサイズだったけれど、ただそれだけだ。


 となれば、何かそれなりに、思い出のあるものなのだろう。彼にとって、それが、すごく大事なものであるということだけは、分かった。


「そう。それなら探しましょう」

「いや、ほんとにいいんだって──」

「捨てたり、壊したり、無くしたりするのはいつでもできるわ。でも、ずっと大事にするのは、すごく難しいのよ。見つかる可能性があるうちに、あたしは、捜すわ」


 私はまゆの手を掴み、二人を置き去りにして部屋を出る。


「えー、わたしも捜すのー?」

「お姉ちゃん、色んなところ飛んだり、走ったりできるでしょ。水中とかも見てきてよ」

「仕方ないなー」

「お願い」


 海は旅館からも見える。すぐそこだ。私は水着のまま、パラソルの付近を探す。すっかり日も沈み、海風が冷たかったので、上着の前を閉めた。


「まなさん、手伝います」

「あんた、本当にもう治ったの?」

「はい。元気ですよ」


 あれだけのことがあって、よくもまあ、少しも疲れを見せないものだ。


「あかりさんは、捜さないそうです」

「そう。まあ、あたしが勝手にやってるだけだから」

「──そうですね。私も勝手にします」

「わたしもー!」


 マナが来ると、海風の冷たさが和らいだ。今までも、こうして風や日光を防いでいてくれたのだ。忘れそうになってしまうけれど。


 それから、二時間ほど捜したが、砂の中にも、海の底にも、近くの民家にも、あかりの服は、どこにもなかった。

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