表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
152/315

5-18 尻尾を労りたい

 着いたのは、和風な旅館だった。私たちの宿舎と雰囲気が似ている。扉は襖、床は畳、窓に障子、通路はフローリングだった。際立って、珍しくもない造りだ。


「他に人がいないわね……」

「ここの旅館に泊まることは、城にも連絡したんです。おそらく、勝手に貸し切りにしたのでしょうね」

「まあ、妥当な判断ね」


 私とマナは大きな露天風呂に浸かっていた。まゆは部屋で寝ていたので、置いてきた。


「まなさんは、ご入浴の際も、サイドテールはそのままなんですね?」

「──何の話?」


 何を言われたのかさっぱり分からず、私は首を傾げる。そして、色の違うサイドの髪の毛をくるくると指に巻きつける。水で濡れてぺちゃんこになっていた。


「それは、まなさんの髪ではないですよね」

「そうね。多分、違うと思うわ。色が違うから」

「多分、ですか?」

「ええ、多分。今は余計なことは考えなくていいでしょ」

「それもそうですね」


 腕の傷が痛む。触ると傷口が開くので、あまり触らないようにしていた。そして、傷を眺めながら、まゆみ、まゆみと、頭で唱え続ける。その行為に何の意味もないことは知っていたけれど。


「──痛くないんですか?」

「そりゃ、痛いに決まってるでしょ」

「そうですよね……。まなさんは巣から旅立ったモンスターではありませんもんね」


 入浴中なので、尻尾と角も出していた。ずっと出したままだと気分が悪くなるが、出さずにいると、主に、尻尾が可哀想だからだ。


「尻尾、湯加減はどう?」


 そうして表面を撫でると、尻尾は嬉しそうに、くるくると回った。ちょうどいいらしい。


「まなさんの尻尾さんは、勝手に動くんですか?」

「ええ。魔族の尻尾は、寄生虫みたいなものいでづ──!?」


 寄生虫という表現が気に入らなかったのか、尻尾は私の背中を、尖った先端で刺してきた。


「角は出しておかなくてもいいのではないですか?」

「そうなんだけど、まあ、ウインクみたいなものね。あたしには、どっちかだけしまうなんて器用な真似はできないわ」

「なるほど、そういった感じなんですね」


 そう言いながら、マナが片目ずつウインクしていた。可愛い。真似しようとして、両方半目になった私に、マナは生暖かい眼差しを向けてきた。


「空気中の魔力を隅の方にまとめておきましょうか?」

「そこまでしなくていいわよ。それだったら、角から魔力を吸い出してくれる?」

「い、いいんですか?」


 マナが食い気味にそう言って迫ってきた。魔力を吸うというのは、一種の治療行為だが、マナの反応が怖い。


「全部吸っちゃっていいわよ」

「じゃあ、ちゅーちゅーしますね」

「はいはい、ちゅーちゅーしちゃって」


 私は魔法が使えないので、体内に魔力を取り込んだところで、自分で外に出すことができない。しかし、角は魔力を自動的に取り込む仕組みになっているので、言わば、毒素が体に溜まってしまうようなものだ。自分で出せない以上、誰かに吸いとってもらう必要がある。


「今まではどうしていたんですか?」

「ギルドでやってもらってたわね。まあ、色んなところを旅してたから、そればかりじゃなかったけど。ギルドの受付にも気が合わない人とかいたし」

「まなさんって、意外と社交的ですよね」

「友だちはいないけどね」

「じゃあ、私と結婚しましょう」

「なんでそうなるのよ」

「友だちがいなくても、私がいれば、困ることなど、そうありません」

「……それは、すごく、心強いわね」


 魔力を吸い終わると、倦怠感が少し和らいだ。そして、尻尾がゆらゆらと、揺れていた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ