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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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4-33 宿題を手伝いたい

「余はユタザバンエ・チア・クレイアである! 扉よ、開け!」


 ユタは誰かさんたちとは違って私が開くまで待っているので、いい子だ。


「ユタ、どうしたの?」

「自由研究の、何か良い案があれば聞いてやるぞ?」


 ユタはこれで頭がいいので、学校の宿題は自由研究以外すべて、夏休み前の登校最終日に終わったらしい。ただ、どちらにせよ、魔王になるための勉強がみっちりあるらしく、以前、大変だと溢していた。


 それにしても、全部自分でやるのは偉いと思う。魔王などは、絶対、書き初めまで臣下たちにやらせていたタイプの魔族だ。


「自由研究のテーマが決まらないわけね。中で話しましょうか」


 少し前に、昼食の匂いに釣られて起きたマナは、ご飯を食べ終わって、あかりに勉強を教えていた。


「あれ、ユタくん。どうしたの?」

「自由研究で何するか決めてないそうよ。あんたたちはどうだったの?」

「あー、あれね。僕、夏休みの宿題とか、 一回もやったことないんだよねえ」

「そんなやつがこの世にいるなんて……。マナは?」

「世界一周旅行日誌は、なかなか売れましたね」

「売れた……?」

「それから、魔力と杖の関係についてまとめた論文が、大賢者賞をとりました」


 この子は一体、どれだけ功績を積み上げれば気が済むのだろうか。ユタは小学校の二年生だ。だから、一応聞いておく。


「小学校二年生のときは何したの?」

「二年生のときは、お城のスノードームを作ろうと思ったんです。でも、内部構造は漏洩禁止だったので、妥協案として、私の八分の一スケールフィギュアを作成しました」

「あまり、参考にはならないわね……」


 自分で自画像を書いたりしても別に構わないのだが、モデルがマナとなると、話は変わってくる。売ったらすごいお金になりそうだ。


「お姉ちゃんは、何したの?」


 そうユタが尋ねた。ユタは、私がどんな生活をしてきたか知らない。監禁されていて、八歳まではまゆ以外の人と会話らしい会話をしたことがなかったし、学校なんてものがあることすら知らなかった。


 そうして、外に出て、失敗を繰り返し、一から世界の仕組みを学んでいった。その後、まゆを治す方法を勉強するために、ノアに入ることを決意したのだ。


 つまり、私は、小学校、中学校には通っていない。当然、自由研究なんてやったことはないし、高校ではやらないので、一生やらないだろう。──私もあかりのことを言っていられない気がしてきた。気のせいだと思いたい。


「あたしのことはいいから、あんたのことを考えましょう。あんた、クマが好きだから、クマの観察日記でもつけたら? あたし、知り合いのクマがいるから、紹介するわよ?」

「しれっと言ってるけど、クマと知り合いって、わけ分かんないからね?」

「あー……それ、去年やった。チアリターナが協力してくれて」

「あ、やったんだ!?」


 さすが、次期魔王。やることのスケールが大きい。かけられるお金が全然違う。


「魔王城で発表会があるから、そこそこの内容かつ、小学生らしいものをやらなきゃいけないって、おばあちゃんが」

「ボーリャさんも大変ね……。前のときはどうやって決めたの?」

「お母さんが一緒に考えてくれたんだ」


 私は寂しそうなユタの黒髪を撫でる。となれば、今年は私が考えるしかないわけだが。


「あたし、実は最近、ノラニャーとネコの違いが気になってるのよね」

「モンスターかそうじゃないかじゃないの?」

「二足歩行と四足歩行とか、物を盗むとか、色々あるでしょ? すぐに見分けがついたら、盗られた地図を追いかけたりしなくていいと思うわけ」

「まな、まだ根にもってたのー? そろそろ許してあげなよー」

「別に、根になんて持ってないわ」


 昨日、あかりの部屋にノラニャーがいることが発覚した。もしかしたら、あかりがなんらかの目的で私から地図を奪うという嫌がらせをしたのかもしれない。──咎めるような視線をあかりに送ると、笑顔でかわされた。


「でも、近くに住んでたノラニャーたち、巣に還されちゃったんでしょ?」


 そう。主に、マナとあかりが討伐した。盗品は全焼していたらしい。そういうわけで、二人がやったとは、言い出せなくなってしまったわけだ。もともと、自分がやったとは言い出さない二人だけれど。


「探すところからやればいいわ。ノラニャーなんて、物盗られる以外に危険なことなんてないし、大丈夫でしょ」

「モンスターって飼っていいの?」

「さあ? 知らないけど、あかりに頼むといいんじゃない?」

「ちょっとまなちゃん??」

「じゃあ、ネコは?」

「野良猫ならその辺にたくさんいるでしょ」

「分かった。あかり、よろしくお願いします」


 ユタはぺこっと頭を下げて、お願いする。最近、ユタは人にお願いするということを覚えた。あのユタに頭を下げさせるなんて、さすがボーリャさんだ。


 あかりは心底、嫌そうな顔をしていたが、結局、断りきれなかった。そして、ユタは部屋に戻っていった。


「ちょっとまなちゃん、勝手にうちのシーラを売らないでよ。繊細な子なんだから」

「あんた、あたしの地図、そのノラニャーに盗らせたでしょ?」

「シーラだってば」

「盗らせたのは、事実ですよね」


 はぐらかそうとするあかりに、マナがそう言った。あかりは、否定せず、代わりに、私から視線を外した。


「なんでそんなことしたわけ?」

「いやー、やっぱりさ、友情を深めるには、困難を一緒に乗り越えるのが一番、早いんじゃないかなーって」

「あんた、つくづくクズね……」

「ごめんごめん」

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