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どうせみんな死ぬ。  作者: 桜愛乃際
第一章 ~願いの手紙~
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4-21 耳を疑いたい

「──それで、貴様はわざわざこんなところまで来たのか? くくっ……魔王の間は貴様の逃げ場ではない。そして、余は貴様の惚気など聞いている暇はない」


 顔が本気だった。だいぶ怒っているらしい。目がマジだ。ヤバい、殺されそう。


「惚気じゃないって。なんでそんなに怒るかな」

「あかりさん、無神経にもほどがありますよ。魔王はつい先日、奥様を亡くされているんですから」

「あー……うん。やっぱり、悪いのは僕だね。ごめんごめん」

「──いいや。余の方こそ、少し取り乱した」


 もし、本当に奥さんを亡くしたことが原因だったとしても、彼の場合、怒りよりも悲しみが先行しそうなものだが。やはり、別の理由がありそうだ。


「珍しいね? 何かあった?」

「貴様に話す義理はない」

「それもそうか」


 マナは僕の裾を掴んで、魔王の顔を遠慮がちに見つめていた。対する魔王は、魔力駄々漏れで、不機嫌を隠す様子もなく、しかめ面をしていた。そして、台座に指をとんとんしていた。


「マナが怖がってるから、威圧しないでよ」

「余は大変、気が立っている。そちらの王女は殺さぬが、貴様はついうっかり、虫と間違えて潰してしまいそうだ」

「わお、それは大変だねえ。──一つ、聞きたいんだけど、まなちゃんの記憶はいつ戻してあげるの?」


 魔王は瞑目し、長い足を組み換えて、嘆息した。


「少なくとも、今ではない。戻すにしても、慎重を期す必要がある」

「どゆこと?」

「ふはははは。……実に不快だ。ああ、実に」


 魔王が頬杖をついていた手で顔を覆う。魔王の間がガタガタと揺れる。カルシウムが足りていないのではないだろうか。きっとそうに違いない。


「あかりさん、宿舎の部屋に戻りましょう」

「うん? 分かった」


 移動する直前、マナがため息をついたような気がした。


 そして、僕は自分の部屋に移動した。


「マナが怖がるなんて珍しいね?」

「怖がる? 何の話ですか?」

「え? 魔王が怖かったのかなーと思って」

「いえ、ただ、あの不機嫌な顔が、マナさんに似ていたので……」

「あー、そこかー……」


 納得した。要は、あの顔がマナに見えて緊張していたらしい。可愛すぎる。それにしても、本当に、まなちゃんは愛されている。羨ましい限りだ。


「ラー」


 足にすり寄ってくるネコ──厳密には、ノラニャーの頭を撫でる。あのとき、木に登って降りられなくなっていたところを、まなちゃんに助けてもらった上に、まなちゃんがかなり気に入ったらしく、地図まで奪った恩知らずなノラニャーだ。もともと、僕が飼っていたので、利用させてもらったのだが。


「よしよし、シーラ。いい子にしてた?」

「ラーガブ」

「痛い」


 撫でようとすると、いつものように手を噛まれた。飼いネコなのに。


 そうして、シーラは僕から離れると、マナの方へと近寄っていった。マナは動物にも好かれる体質だ。マナに一撫でされると、シーラはお腹を見せて、横になった。野生の本能を完全に失い、気持ち良さそうにしている。


「もうこいつは野生には帰れないねえ」

「二足歩行できるネコとして飼えばいいのではないでしょうか。モンスターだからといって、隠れて飼う必要はないかと。それに、人懐っこい子ですし」

「僕のことは、すぐに噛むけどね……」


 僕は床に正座して、気持ちを落ち着ける。ネコと戯れるマナが本気で可愛すぎる。語彙が足りない。可愛いと可愛いが可愛い。


「話の続きをしましょうか」

「は、はい」


 マナは足を伸ばして、シーラを膝にのせると、壁にもたれかかった。


「──前にも申し上げたかと思いますが、もう一度、説明しますね」


 僕は少し離れたところにいるマナに膝を向ける。何を言われるかは、分かっていた。以前にも言われたからだ。




「私には、四月以前のあなたの記憶がありません」

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